「新劇場版」シリーズの最新作にして完結編となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開から2年。いよいよ本作が、Blu-ray&DVD『シン・エヴァンゲリオン劇場版 EVANGELION:3.0+1.11 THRICE UPON A TIME』として発売となった。新規収録の特典映像には、『:Q』の前日譚となる「EVANGELION:3.0(-46h)」が加えられ、“空白の14年”の一端を目撃することができる。そこで特典映像で重要な人物として出演している式波・アスカ・ラングレー役の宮村優子と、北上ミドリ役の伊瀬茉莉也にインタビューを敢行。アスカミドリの関係性に感じたことや、庵野秀明総監督との出会いがもたらしたものを語り合ってもらった。

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■「空白期間に対して、いろいろと想像が膨らんでいます」(宮村)

1995年にテレビシリーズ「新世紀エヴァンゲリオン」が放送スタートし、新作が発表されるごとに社会現象を巻き起こしてきた「エヴァンゲリオン」。庵野秀明が原作、脚本、総監督を務め、錚々たるスタッフやキャストが集結。新しいファンを獲得しながら、人気を拡大し続けてきた。本作は2007年から始まり、『:序』(07)、『:破』(09)、『:Q』(12)と続いてきた「新劇場版」シリーズの最新作にして完結編。エヴァンゲリオン初号機に乗り込み、使徒と戦う運命となった14歳の少年、碇シンジの成長を描く本シリーズで、宮村は、エヴァのパイロットの一人で、勝ち気ながら、孤独で複雑な内面を抱えたアスカを。伊瀬は、『:Q』から登場し、反ネルフ組織「ヴィレ」のメンバーで、シンジに警戒心を抱くミドリを演じた。

※本記事は、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』および、「EVANGELION:3.0(-46h)」の核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

――新規収録の特典映像「EVANGELION:3.0(-46h)」も大いに話題となっています。ニアサードインパクト後、アスカミドリを助ける姿が描かれていましたが、お2人はその内容にどのような感想を持たれましたか?

宮村「アスカとマリ(真希波・マリ・イラストリアス)は、基本的にはヴィレのクルーたちみんなとどのような関わり合いがあったのか特に情報がなかったところもあって。それだけに今回、アスカミドリに描かれていたような出会いや絆があったんだということがわかって、とてもうれしかったです。もしかしたら、ミドリヴィレに入った時には、アスカに向かって『助けてもらったんです』と話しかけたりしたのかな…とかいろいろと想像すると、それもまたエモいです!」

――アスカの頑張り屋さんな一面も、目にすることができます。

宮村「そうなんですよね!アスカは常に、“自分がやらなきゃ”という気持ちに動かされている女の子で、ミドリにとってはヒーローとも言える存在だったわけです。でもアスカにとってはそれも、いろいろと行動を起こしてきたことのなかの一つ。ミドリと再会するまでは、その出来事も覚えていなかったんじゃないかなと思います。ヴィレに入ったミドリから過去の話を聞いて、『あ!あの時の!』と内心で感じたりしても、アスカはそれを言葉にはせず『ふーん、頑張りなさいよ』みたいな感じて答えたんじゃないかなって。そうやってどんどん、空白期間への想像が膨らんでいます(笑)」

――大変、想像しがいがあります。伊瀬さんはいかがでしょうか。

伊瀬「新規映像でまさかミドリにスポットライトが当たるとは思っていなかったので、私もとてもうれしかったです。ミドリがなぜヴィレの一員になったのか、そしてなぜミドリシンジに対して複雑な想いを抱えているのか。今回の映像では、その理由がとてもわかりやすく描かれていました。またミドリの命を助けてくれたのがアスカだったことや、ミドリのピンクの髪色には、想像以上に重たい理由があるんだと、驚くことばかり。今回の台本をいただいた時には、設定画も一緒にいただいたんですが、そこに黒髪の女の子が描かれていたので、『違う役もやるのかな?』『いや違う、ミドリの幼いころなんだ。髪が黒い!』とびっくりしました」

――終劇を迎えてもなお、驚きをくれる作品なのですね。

宮村「いつも、そういうことばかりだよね(笑)」

伊瀬「本当にそうです。ミドリが初登場した『:Q』も、なにが起きてこうなっているんだ?という驚きばかりでした」

■「アヤナミがいろいろな“初めて”を知っていく姿に、泣いた!」(伊瀬)

――ついにブルーレイ&DVDが発売となり、手元に置いて『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を楽しめるようになりました。お2人にとって何度も観たいと思うようなシーン、何度観ても泣ける!というシーンはありますか?

宮村「大人になったアスカちゃんは、一時停止してじっくり眺めてみたいです。初めて、設定表で大人になったアスカの姿を見せていただいた時には、すごくかわいくて感動しました。着ているプラグスーツは昔のままなので、大人になった時にそれがパッツンパツンになっていて。『このフィギュアがほしい!』と思いました(笑)。また『泣ける』という意味では、シンジが階段を駆け上がっていくクライマックスですね。個人的には、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』のころは、予算や環境の面でも、まだやりたいことのすべてが叶わない状況なのだろうなと思うこともあって。庵野監督は大変な想いをしながら作品に取り組んでいたと思います。本作の終盤、カメラがどんどん引いていく映像が流れた時に、『監督、よかったね!』と思いました」

伊瀬「私は、アヤナミ(仮称:アヤナミレイ)が第3村で生活をしていくシーンがとても好きで。田植えをして苗が育つ様子を見たり、(鈴原トウジヒカリの娘)ツバメがお乳を飲んで大きくなっていく姿を眺めて『かわいい』という感情が芽生えたり、“ありがとう”や“さようなら”という言葉を学んだりと、アヤナミがいろいろな“初めて”を知っていく姿が、とても丁寧に描かれていました。宮村さんもそうですが、私も子どもを育てている母親なので、アヤナミが人として大切なことを学んでいく尊さを見ていると『そういう感情が芽生えたんだね。泣ける!』と感じて。さらに『碇くんに名前を付けてほしい』だなんて、アヤナミ…泣ける!」

宮村「わかる。アヤナミー!」

伊瀬「あとは、ゲンドウの独白。あの場面は初めて台本を読んだ時に、涙が止まりませんでした。本作を観て改めて、シンジやレイ、アスカやゲンドウをはじめ、どのキャラクターにも庵野監督の愛情が注ぎ込まれていることを実感しました。私は、アスカも大好きなんです。勝気で負けん気が強くて、いつもシンジとやり合っているけれど、誰よりも頑張り屋で寂しがり屋。好きになっちゃいますよね」

宮村「ありがとうございます。すごくうれしいです」

■「庵野監督との初めての出会いは16歳の時。『なんの作品をやっているんですか?』と聞いてしまった!」(伊瀬)

――宮村さんは、1995年にスタートしたテレビシリーズ「新世紀エヴァンゲリオン」の時から庵野監督とお仕事をされてきましたね。

宮村「そうなんです。テレビシリーズのころは、時代もあって、現場には異様な空気が流れていました(笑)。私にとって『エヴァンゲリオン』はほぼデビュー作なので、なんという世界に飛び込んでしまったんだろうと思って。そこに立ち向かっていく先輩方の背中を見ることで、『きちんとキャラクターを担っていくぞ』という決心や覚悟ができました」

伊瀬「私が初めて庵野監督にお会いしたのは、16歳の時のこと。初めてのレギュラー番組が安野モヨコ先生の『シュガシュガルーン』という作品だったんですが、その作品を通して、その方が庵野秀明監督だとは知らずにお会いしたんです。私はアニメ映画の監督業に憧れてこの世界に入ってきていたので、『なんの作品をやっているんですか?』と庵野監督に聞いてしまって(笑)。すると庵野監督はニコニコと笑いながら『ウィキペディアで探してみてください』と、『ラブ&ポップ』のDVDをくださったんです。さらに『いつか一緒に仕事ができるといいね』とおっしゃってくださって、私は『いつか庵野監督と絶対にお仕事をするぞ』と思いながら進んできました。おそらく『なんの作品をやっているんですか?』という疑問をポンと投げかけたことが、庵野監督にとっては新鮮な印象として残ったのかもしれません。」

■「私にとってアスカは、切っても切り離せない存在」(宮村)

――本シリーズは、たくさんの人の人生に少なからず影響を与えた作品だと感じます。お2人にとって、庵野監督や本シリーズとの出会いによって変化したことはありますか?

宮村「私も役者というものづくりの世界にいる一員として、庵野さんのクリエイターとしての姿を間近で見させていただいたことは、『作品は、こういう姿勢でクリエイトしていくものなんだな』と大きな刺激になりました。振り切って、人生のすべてをクリエイトにかけるということは、やっぱり相当な覚悟がないとできないものだと思います。私も伊瀬さんも、お母さんをやりながら役者をやっているので『どこまで役者に振り切れるだろうか』という課題はやっぱりあるものですよね。庵野さんの背中を見ることで、決死の覚悟でものづくりをしていくすごみのようなものを感じていました」

――アスカというキャラクターとの出会いはどのようなものになりましたか。

宮村「アスカちゃんと、こんなに長くお付き合いをするとは思っていませんでした。アスカを演じていくうちに、自分のなかにアスカとしてのもう一つの人生や、生き様が存在するようになって。もう一つ、人生を生きているような感じですね。だから私にとってアスカは、切っても切り離せない存在です。アスカとして生きることは、やっぱり大変でもありました。私は2004年に長女を出産しましたが、そのころに(『エヴァンゲリオン』の)テレビシリーズやその劇場版のお仕事と同時進行だとしたら、両立はできなかったかも、と思います。『新劇場版』は、私も親として何年生かになれていたからこそできた。その経験を注げたのかなと感じています」

――伊瀬さんはいかがでしょうか。

伊瀬「私にとって庵野さんは、トップをずっと走り続けている方。しかもものすごい熱量を込めながら、自分の人生や魂を削るようにして、そのすべてを作品に注ぎ込んでいる方です。世界中の人に作品を待ち望まれていることのプレッシャーも、きっとあるはずです。『それらを背負っている方には、この世界がどのように見えているのだろうか』と庵野さんの間近でその空気を感じさせていただけたことは、私にとってかけがえのない時間で、財産と言えるものになりました。またミドリとの出会いも、とても大切なものです。ミドリって『変よこれ!絶対変!』と言ってしまうような女の子なんですが、それは観客の方の気持ちも代弁しているようなところもあるのかなと感じています。今回の新規映像でまた深く掘り下げていただいたことで、ミドリの新たな一面を知り、私にとってもより大切なキャラクターになりました」

――「また空白の期間が描かれたらうれしい」と感じているファンも多いと思います。

宮村「もしかしたらなにかの気まぐれで、別の空白の14年も描かれるかもしれません」

伊瀬「個人的には、ものすごく観たいです!」

取材・文/成田おり枝

式波・アスカ・ラングレー役の宮村優子と、北上ミドリ役の伊瀬茉莉也にインタビューを敢行!/[c]カラー