一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今回は最新の海外からフィリピンへの直接投資の動向を中心に解説していきます。

フィリピンへの投資…低水準記録のワケ

外国直接投資(FDI)の純流入は、世界経済の不確実性の高まりが投資家心理を圧迫したため、1月に20ヵ月ぶりの低水準に落ち込みました。

1月のFDI純流入額は、前年同月の8億2,400万ドルから4億4,800万ドルに45.7%減少したことが、フィリピン中央銀行・Bangko Sentralng PilipinasBSP)のデータで示されています。1月の数字は、2021年5月に記録された4億2,600万ドル以来、最低の月間FDI流入でした。世界経済の不確実性と高インフレが投資家の心理を圧迫し続けているためです。

現地関連会社の債券への純投資額は、前年同月の6億4,500万ドルから56.6%減少して2億8,000万ドルに、株式および投資ファンドの株式への投資は、1年前の1億7,900万ドルから1月に6.2%減少して1億6,800万ドルになりました。

資本投資は主に日本、シンガポール、および米国からのもので、主に製造業、金融・保険業、不動産業に投資されています。

この低調なFDIは、少なくとも今年上半期は続く可能性が高いと見られています。またインフレ率は1月に14年間で最高の8.7%に加速し、その後2月には8.6%、3月には7.6%に低下しました。2022年5月以降、中央銀行はベンチマーク金利を425ベーシスポイント引き上げ、6.25%に達し、ほぼ16年間で最高の水準です。

マルコ大統領による投資誘致のロードショーで得た投資コミットメントが今後数ヵ月で実現することが期待されている一方で、高金利環境の中、投資の拡大は、2023年は限定的となりそうです。

一方、フィリピン経済自体は世界でも最も高い成長率が予想されているため、純FDIは今後数ヵ月で回復する可能性があるとの見方もあります。政府は今年、GDPの成長率を6~7%に引き上げることを目標にしています。そして、BSPは、2023年のFDIの純流入額が110億ドルに達すると予想しています。

フィリピン投資の一翼を担う「IT-BPM業界」最新動向

フィリピンは、ITビジネスプロセスマネジメント(IT-BPM)産業の就業者スキルの不足に対処するために、全国的な人材育成プログラムを準備しています。

IT-BPMセクターへの人材供給を増やすために、大学などに専門学位コースを設置するなど、政府と教育機関との協力が必要となります。フィリピンのIT-BPM産業ロードマップ2028では、多くの企業が、業界の最も重要な成長エンジンとして、質の高い熟練した人材の継続的な供給の必要性を挙げています。

また、IT-BPM企業は、スキル人材の不足に対処するために、従業員のスキルアップに投資することが不可欠になっています。高等教育機関のカリキュラム強化や卒業生の雇用可能性を高めるためのインターンシップの提供など、フィリピンが適切な人材の需要を迅速に供給する能力を高めるための議論が進行中です。

多くのIT-BPM企業の従業員のスキルアップへの投資は、単一スキルから多次元スキルへ転換し、人工知能(AI)ができることを凌ぐことが求められています。さらにIT-BPM協会は、高等教育委員会と協力して、IT-BPMセクターによって設計されたトレーニングプログラムを高等教育機関のカリキュラムに導入するスキルプログレッションプログラムなどのイニシアチブを実施しています。また、各IT-BPM企業が求人情報を投稿し、スクリーニングプロセスを実施し、潜在的な才能と関わることができるIT-BPM人材ハブを開設しました。

これらの施策は、フィリピンの人材が、AI、機械学習、インテリジェントオートメーションなどの新しいテクノロジーやイノベーションによって進化し続けるIT-BPM業界で成功するために必要な適切なスキルを確保することを目的としています。

フィリピンのIT-BPM産業ロードマップ2028の中で、このセクター2028年までに590億ドルの収益を生み出し、110万の新しい雇用を創出することを目指すとし、2023年には、IBPAP業界は雇用者数が170万人に到達し、359億ドルの収益を生み出すとしています。

写真:PIXTA