私たちの生活は、朝起きた瞬間から無数の「些細な決断(Trivial Decisions)」に迫られます。

今日着ていく服はどれにしようか。朝食はパンにしようか、ご飯にしようか… などなど。

しかし、何かを比較して選ぶという行為は多少のことでも私たちを疲弊させます。

実はこうした重要でないささいな決断であっても、精神的なストレスを増加させ、1日の認知機能を低下させることが分かっています。

これでは仕事の生産性が落ちたり、創造的なアイデアが浮かびにくくなったりしかねません。

それでは、次々と降りかかってくる「些細な決断」に私たちはどう対処すればよいのでしょうか?

サウサンプトン大学(University of Southampton)の決断科学の専門家であるヤニフ・ハノッチ(Yaniv Hanoch)氏は、これまでの先行研究を踏まえ、最適なアドバイスを提示しています。

目次

  • 「選択肢が多い」と決断力が下がる!
  • 2つの意思決定タイプ:「最大化」と「満足化」
  • 「習慣化」で無駄な思考をカットする

「選択肢が多い」と決断力が下がる!

私たちが些細なことで決断できない要因の一つに「選択肢の多さ」があります。

経済学者は長年の間、「選択肢は多い方がいい」という考え方を支持してきました。

ところがアメリカの心理学研究(Journal of Personality and Social Psychology, 2000)では、真逆の結果が報告されています。

ここでは、スーパーマーケットジャムの試食台を設置して人々がどう反応するか実験したところ、選択肢の少ない場合により多くの消費者がジャムを買っていったのです。

6種類のジャムを置いた条件では30%の人々がジャムを購入したのに対し、24種類のジャムを置いた条件では購入者がわずか3%に留まりました。

選択肢が多いと返って選択できなくなる
Credit: canva

これを受けて、研究者は「豊富な選択肢は返って人々を圧倒し、比較検討するのを困難にして決断できなくさせている」と指摘します。

とすれば、休日ごとに服選びに難儀している人は、持っている服の数や種類を減らせばいいのです。

実際、スティーブ・ジョブズオバマ大統領、マーク・ザッカーバーグらは、余計な意思決定から生じる疲れをなくすために、毎日同じ服を着るようにしていました。

「知識不足」が決断を鈍らせる

また研究者によると、目の前の選択肢を適切に評価するための知識が不足している場合に決断力が落ちると指摘します。

たとえば、コーヒー豆を買おうと専門店に入ると、色んな種類の豆が置いてあって、どれが自分の求めているものか判断できません。

それで結局、何も買わずに帰ってしまうのです。

しかし知識があれば、自分のニーズにあったコーヒー豆をストレスなく選ぶことができます。

こういう場合は、前もって下調べをするか、買うものを決めておくと良いでしょう。

それから研究者は、私たちが意思決定をする仕方には2つのタイプがあるといいます。

そのどちらの傾向が強いかで、人生における満足度にも影響するようです。

次に見ていきましょう。

2つの意思決定タイプ:「最大化」と「満足化」

英ケンブリッジ大学の研究(Judgment and Decision Making, 2023)によると、主要な意思決定の方法には「最大化(Maximizing)」「満足化(Satisficing)」の2タイプがあるといいます。

最大化とは、あらゆる点を総合して最良の選択肢を見つけようとする意思決定のこと。

満足化とは、ある程度の範囲で受け入れられる選択肢が見つかった時点で決断する意思決定のことです。

調査では、どちらの傾向が強くなるかは各人の性格に深く関連することが分かっています。

「最大化」と「満足化」は性格に起因
Credit: canva

さらにチームは、最大化と人生の満足度の間に「負の関係」があることを発見しました。

つまり、最大化する傾向を持つ人は、満足化する傾向の人に比べて完璧主義の度合いが強く、決断後に後悔する頻度がより高くなっていたのです。

その理由の一つは、最大化傾向の強い人は常に「あの時どうしていれば良かったのか」とか「どうすればもっといい決断ができたのか」と考えてしまうからだといいます。

しかし、こうした人も「性格だから仕方ない」と諦める必要はありません。

実は性格に関わらず、誰でも些細な選択時のストレスを減らせる最適な方法があるのです。

それが「習慣化」です。

「習慣化」で無駄な思考をカットする

選択や決断は、程度の差こそあれ、どんなものでも精神的に疲れるものです。

しかし習慣化は、余計な思考力を使う必要性をなくしてくれます。

習慣化とは、言い換えれば、自分ルールを設定することです。

たとえば、曜日ごとに着る服は固定するとか、朝食は必ずパンとコーヒーにするなど、日常生活の行動を前もってルール化しておくのです。

そうすれば、些細な選択肢に悩む時間がカットされ、心を浪費せずにすみます。

ジョブズオバマ大統領の服装選びも、この習慣化の一例でしょう。

習慣化で「些細な決断」のストレスが消える
Credit: canva

ここでハノッチ氏は、アメリカの心理学ダニエル・カーネマン氏が有名な著書『ファスト&スローThinking, Fast and Slow)』で唱えた考え方を引き合いに出します。

カーネマン氏によると「人間はシステム1とシステム2という2つの異なる情報処理のメカニズムを使っている」という。

システム1とは、自動的・直感的・無意識的なもので、思考の努力をほとんど必要としない「速い思考」を指します。

具体的には「2つの物体のどちらが遠くにあるかを見分ける」とか「音の聞こえた方を感知する」などで、これらに思考の労力は必要ありません。

そして、習慣化もシステム1に属します。

対してシステム2とは、目的意識を持って熟慮を働かせる「遅い思考」のことです。

こちらは、常に自動で働いているシステム1で処理しきれない問題に遭遇したときに使われ、大きな労力を要します。

意識的な選択や決断はこちらに属します。

ハノッチ氏は、些細な意思決定をなるべくシステム1で対処できるよう習慣化できれば、重要な場面で創造力を十分に発揮できるだろうと述べています。

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参考文献

Even Making Trivial Decisions Can Be Draining, But You Can Make It Easier https://www.sciencealert.com/even-making-trivial-decisions-can-be-draining-but-you-can-make-it-easier
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