スポーツ選手を性的な意図を持って撮影する「アスリート盗撮」。撮影された写真はネットに投稿されるだけでなく、卑わいな⾔葉を加えて拡散する事例も相次いでいる。

これから国会では、盗撮行為を取り締まる「撮影罪」が審議される予定だが、「アスリート盗撮」の一部の行為は「撮影罪」の規制の対象外となった。

日本学生陸上競技連合の常務理事で「アスリート盗撮」にくわしい工藤洋治弁護士は、4月15日に都内でおこなわれたシンポジウム「刑法改正と今後の展望」で、「立法では漏れてしまったが、さらなる法改正で処罰対象に含めてほしい」と訴えた。

●望遠カメラでお尻などを撮影、アイコラ被害も

「アスリート盗撮」として問題になっているのは、(1)更衣室・トイレに隠しカメラを設置、(2)透視機能がついた赤外線カメラでの撮影、(3)競技中のお尻や胸などをことさらに撮影――の3点だ。

(1)と(2)は「撮影罪」の対象となるが、(3)ユニフォームを着た状態での撮影は、撮影罪の対象にはならなかった。しかし、有名無名を問わず、多くの選手が深刻な被害にあっている。

たとえば、短距離種目では、100メートルのスタート付近の後方に、望遠カメラを構えた人がずらっと並ぶ。「Set(用意)」の合図でクラウチングスタートの姿勢になった瞬間、お尻を狙って一斉にシャッターが切られる。

走り幅跳びでは、助走路の真正面に望遠カメラが構えられ、ジャンプ中の股間が狙われる。長距離種目や駅伝などでは、ゴール後に倒れ込み無防備となっている股間やお尻を狙われる。選手は不安な気持ちになり、本来の思い切った動きもできなくなってしまう。

こうした撮影被害に、ネット被害が組み合わさる。卑わいな文言をつけた選手の写真や裸の写真と合成する「アイコラ画像」がツイッターなどに掲載されたり、大会のライブ配信の応援メッセージに性的な書き込みがされたりする。

工藤弁護士は「紹介できないレベルの最悪な言葉がつけられることがざらだ。被害者は自分だとはっきりわかる状態で被害を受けるが、加害者は例外なく匿名。悪質なアカウントが凍結されても、簡単に新しいアカウントが作られ、リツイートで被害がどんどん拡散されていく」と話す。

●「条例違反は軽くみられがち」

法制審議会などでは、そもそも「アスリート盗撮」を「撮影罪」の処罰対象とすべきか、処罰すべき行為は明確に切り分けられるのかなどが議論されたが、ユニフォームの上からの撮影行為を処罰対象にするのは難しいと判断された。

ただ、現在もまったく「アスリート盗撮」を取り締まれないわけではない。各都道府県が定める迷惑防止条例で「卑わいな言動」が禁止されており、最高裁も「女性の下半身に向けてカメラを構えた行為」は「卑わいな言動」と判断している。

2023年3月にも、全国都道府県対抗女子駅伝で選手の下半身を執拗に撮影したとして、小学校教諭の男性が、京都府迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)の疑いで書類送検された事例がある。

ただ、工藤弁護士は「条例違反は軽くみられがちで、都道府県や担当官によって、立件までの熱意に差異があることもある」と指摘。「被害の実態を社会全体で認識し、条例ではなく法律で規制することで、各地での取り組みも変わってくるはずだ」と訴えた。

「アスリート盗撮」の卑劣な実態、短距離走のスタート後方に「望遠カメラ」構え