米国内の分断に拍車がかかっても、世界の安定化にはまさかのトランプ復活が必要なのか!?
米国内の分断に拍車がかかっても、世界の安定化にはまさかのトランプ復活が必要なのか!?

ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。新連載「#佐藤優のシン世界地図探索」ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――あのトランプ元米大統領が表舞台に戻ってきましたね。ポルノ女優との不倫関係について口止め料を支払ったとされる疑惑で、ニューヨーク州の大陪審がトランプを起訴。トランプはNYまで自家用旅客機で出向いて法廷に出廷し、『無罪だ』と弁明しました。

佐藤 今回の疑惑は基本的に、個人的なスキャンダルですよね。犯罪を隠蔽するために収支報告書に不正な記載をした事が問題だという組み立てになっています。しかも、起訴した州の検察官は公選制で民主党系、それもジョージ・ソロスから金をもらっている有名な人です。

という事は、トランプの「これは政治弾圧だ」と言う主張は、トランプファンや共和党支持者層の中では強化されてしまいます。一時拘束されて裁判に連れていかれましたが、否認したら即、釈放されました。

ただ、あの証拠からすると十分に有罪になる可能性があります。結果的にはこの告発が、政治弾圧だとするトランプ側に有利に働く可能性はあると思います

――すると、何でそんな事を民主党はトランプに仕掛けて来るんですか?

佐藤 それだけバイデンに人気が無いからでしょう。民主党側も余裕がない。

――「人気が無いバイデン」vs「有罪になるかもしれないトランプ」という、凄まじい米大統領選の様相です。

佐藤 「どっちがより悪いのか?」といった"消極的選択"になってきますからね。それよりも問題はむしろ、ジョージアですよね。

――前回の大統領選で負けを認めなかったトランプがジョージア州の高官に対して、『選挙結果を覆すのに十分な票を見つけろ。11780票を見つけたいだけなんだ』と直電。ワシントンポストがその電話音声をスッパ抜いた。映画『大統領の陰謀』を越えような凄い話だと思います。

佐藤 こっちは相当大きな話で、特別検察官が調査している国家レベルの事件ですよね。この件の追跡がどこまで進むのかという事です。ちなみに、米大統領選挙に立候補するための法的な条件は、憲法でどう規定されているんでしたっけ?

――はい。合衆国憲法の第2章 第1条 第5項には、

【出生により合衆国市民である者、または、この憲法の成立時に合衆国市民である者でなければ、大統領の職に就くことはできない。年齢満35歳に達していない者、および合衆国内に住所を得て14年を経過していない者は、大統領の職に就くことはできない】

と書かれています。つまり、大統領になるための条件はこれだけです。

佐藤 刑事罰で有罪になった人間をはじめとして、そのような候補者が大統領選挙に出て来る事を想定していないんですね。裁判が続いている限り推定無罪の原則が働くので、トランプは大統領選挙に出馬できます。

ただいずれにせよはっきりしているのは、アメリカ国内の分断が一層進んだと言う事です。

――では仮に、トランプが再び米国の大統領になったらどうなるんでしょうかね?

佐藤 米国内の事は知らないけど、世界全体にとっては良くなると思います。

――えっ!? それはなぜですか?

佐藤 トランプはウクライナ戦争にはこれ以上入れ込むことはしなくなる。そして日本との関係では台湾有事に対して「態勢を整えろ」ではなく「金だけ払え」となる。

トランプの考えにあるのは、アメリカにまだ余力があるうちに「リストラする」という事です。リストラするためには早期退職者たちに退職金を払わないといけませんが、本当に体力が無くなるとその金も払えなくなり、リストラができなくなります。

トランプは"アメリカンファースト"を旗印に、『アメリカは最早、世界の警察官ではない』ということでアメリカ国家のリストラを始めました。そうしたらバイデンという価値観重視の人が現れて、現状のアメリカ国家の力以上の仕事をしようとする。そのことでより混迷を極めているのです。

――なるほど。元不動産屋の社長・トランプが「米国資本主義株式会社」にリストラを仕掛けようとしたらクビになり、理念だけで動く理想主義者の社長・バイデンが無理に無理を重ねている、ということですか。ただ、その会社は核兵器を大量に保有していますからね。

佐藤 だから、世界の安定のためにはトランプの方がいいと思うのですが。アメリカ国内の大混乱が、世界にどこまでどんな影響を与えるかは読めないですけどね。

次回へ続く! 次回の配信は4/28(金)予定です。

撮影/飯田安国
撮影/飯田安国

佐藤優さとう・まさる)
作家、元外務省主任分析官
1960年東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。
『国家の罠 外務省ラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

取材・文/小峯隆生 写真/AFP=時事

米国内の分断に拍車がかかっても、世界の安定化にはまさかの“トランプ復活”が必要なのか!?