飽食の時代、肥満の子供が増加傾向にあるなかで「うちの子供は糖尿病ではないか」という保護者からの相談が増えていると、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。子供の肥満とはどこからを指すのか。また、子供の肥満と糖尿病の関係はどのように考えれば良いのか、実際の論文や研究結果から、秋谷氏が解説します。

BMIでは量れない「子供の肥満」…どうやって判断する?

子供の肥満は、日本において過去数十年間で増加傾向にあります。

肥満は高血圧、睡眠時無呼吸症候群などの換気障害、糖尿病、内臓脂肪型肥満、早期動脈硬化といった合併症が問題になるので、心配される保護者も多いです。

しかし、子供は成長に伴う自然な体重増加がつきもの。では、どこからが「肥満」といえるのでしょうか。実は、子供の場合は大人でよく使う「BMI」の代わりに「肥満度」という指標を使います。

肥満度とは、年齢別・性別・身長別標準体重に対して実測体重が何%に相当するかを表す指標で、下記の式でわかります。

肥満度(%)={(実測体重-標準体重)/標準体重}×100

学童の肥満の判定は、20%以上であり、20%以上30%未満を軽度肥満、30%以上50%未満を中等度肥満、50%以上を高度肥満としています。

日本小児内分泌学会で簡単に「肥満度」を計算できるサイトがありますので、是非チェックしてみるとよいでしょう。

※日本内分泌学会HPサイト「肥満」http://jspe.umin.jp/public/himan.html

小児肥満症の治療目標は、体重を減らすことではなく、肥満度の減少、および過剰に蓄積した内臓脂肪を減少させて、肥満に伴う合併症の数や程度を減少させることにあります。

子供の糖尿病はどれくらい?

では、子供の糖尿病はどれくらいなのでしょう。糖尿病になると、早期から非アルコール性脂肪肝脂質異常症、腎臓病などの合併症が出てくるため、早くから見つけたい所です。

しかし、大人の場合はインスリンの体への効きが悪くなる2型糖尿病が主体ですが、子供の場合はインスリンの分泌自体が少なくなる1型糖尿病が主体になります。

日本での小児のデータでは1型糖尿病が約80%、2型糖尿病が20%弱、その他の糖尿病が約2%弱と言われています。ここ10年間の糖尿病の患者数は、年間200〜250例です。肥満の子供たちよりずっと少ないですよね。

ここから分かる通り「肥満になったとしても糖尿病になる確率はずっと少ない」のです。

もちろん糖尿病だと診断されたら、高血圧や脂質異常症などの合併症のコントロールと並んで、インスリンの効きをよくするために「肥満の改善」が大切です。

「太っていないのに」糖尿病を発症する子供も

実は子供の場合「肥満と糖尿病の関連は高いが、必ずしも関連しない場合もよくある」といわれています。

2022年の糖尿病の子供と肥満・性別・人種・脂質異常症などの他の合併症を比べた研究によると、8,942人の参加者のうち、肥満の有病率は75.27%でした。

たしかに、糖尿病で肥満を合併している割合は高いのですが、4人に1人は「肥満ではないのに糖尿病になる」のです。

さらに、肥満症例の多くは、食事・運動療法、行動療法により、肥満や内臓脂肪蓄積、血糖コントロールが改善しうる傾向にあります。しかし、肥満のない子供では、薬での治療が必要になる可能性が高くなってしまいます。

つまり、肥満でない糖尿病の子供のほうが治療に難渋するのです。

これらの結果から、同論文では「肥満の有病率と脂質値や血糖コントロール(平均HbA1c値)に有意な関連がみとめられない」という結果になりました。肥満イコール脂質値や血糖値が悪いわけではないようです。

その他にも

● 女児のほうが糖尿病の発症が多いが、糖尿病の子供における肥満の有病率は男児のほうが多い。

● 肥満の有病率は白人で89.86%と最も高く、アジア人では64.50%と最も低い。

● 日本人では肥満でない糖尿病の場合が多く、さらに膵臓からのインスリン分泌が低下している場合が多い。

ことがわかっています。

つまり、糖尿病の発症要因にはさまざまな因子が関わっており、「うちの子が糖尿病だったのは、私の子育てが悪かったんだ」などとすべて親のせいにしなくてもよいことがわかります。

もちろん、食育を一緒に見直したほうがよいケースもありますので、ぜひ小児科で相談してみてください。

少しでも気になることがあればお近くの医療機関へ

肥満と糖尿病の関係についてお話していきました。糖尿病を患う子供のなかには、肥満でないケースも25%と比較的高い確率で存在します。

そして日本では、子供の糖尿病の多くは尿糖を調べる学校検診でみつかっています。しかし、尿糖陽性の場合に医療機関を受診するかどうかは、保護者の判断にゆだねられているのです。

「肥満ではないから糖尿病ではないだろう」などと考えずに、検査で指摘されるようなことがあれば、きちんと医療機関に受診するようにしましょう。

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医

(※写真はイメージです/PIXTA)