(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

JBpressですべての写真や図表を見る

 2023年3月、東京大学の戸谷友則教授は、異星の生命を探索する新しい手法を提案しました*1-2

 地球には日夜膨大な量の隕石や宇宙塵が降り注いでいて、そのほとんどは、太陽系内が起源です。しかし中にはほんのわずかですが、太陽系外の茫漠たる恒星間空間からやってくるものが混じっています。そして戸谷教授の推定によると、よその恒星系の地球型惑星からはるばる飛来した宇宙塵が、年間16万個ほど降ってきているといいます。

 するとこれを探して調べれば、異星の生命の痕跡が見つかるかもしれません。宇宙から来た(例えば)微小化石を探すという、新たな手法の宇宙生物学が期待できます。

よその生命と出会いたい私たち

 夜空には無数の恒星が輝いています。私たちのいる天の川銀河は約1000億個の恒星をはべらす大銀河です。それらの恒星の多くは、惑星を従える「惑星系」あるいは「恒星系」をなすと考えられています。(「恒星系」と「惑星系」は、字面をみると、まったく違うものを指すかのようですが、実は同じ意味だというのが混乱させられます。ここでは恒星系と呼んでおきます。)

 そういうよその恒星を周回する惑星は、現在約4000個も見つかっています。これからどんどん増えていくでしょう。ほんの1~2世代前の教科書には、太陽系の外の惑星は未発見で、見つかるかどうか分からない、と書かれていたのが、今では4000個です。探し方を工夫すれば、よその惑星はどんどん見つかる感触です。1万個を超えるのも時間の問題でしょう。

 そうなると孤独な人類が次に見つけたいのは、よその生命(の痕跡)です。

 よその生命はどうやって見つければいいのでしょうか。いくつかの方法が試されています。

 ひとつは、生命検出装置を天体に直接送り込む方法です。これは今のところ、地球のごく近くの天体しか探査できません。具体的にいうとほぼほぼ火星です。将来は、木星の衛星や土星の衛星、さらに近隣の恒星系にも生命検出用の探査機を送り込めるかもしれません。

 もうひとつは、望遠鏡でよその惑星を観察して、生命の兆候を探すという方法です。例えば地球の大気には、植物の生成した酸素が20%も含まれています。一方、金星や火星の大気は二酸化炭素などからなり、酸素はほとんどありません。もしもよその惑星大気に酸素が見つかれば、そこに異星の植物がいて、葉緑体か葉赤体か、それとも葉紫外体といった、何らかの異星の光合成機構を用いて酸素を生成している可能性があります。(あるいは何らかの非生物的化学反応で生じているのかもしれませんが。)

 この手法も、いくつか条件のよいよその惑星について行なわれつつあります。これまで、太陽系の惑星でも見られる大気成分のほかに、ナトリウムやカリウムやケイ素といった、かなり変わった成分も見つかっていて、天体物理学的には興味深いです。が、生命の兆候はまだ見つかっていません。

 他にも野心的な試みがここに紹介しきれないほど試みられていますが、御存じのとおり、今のところどれも成功していません。

 どれが成功するかは、よその生命が見つかるその日まで分かりません。孤独な人類はその日まで、さまざまな手法で出会いを求め続けるでしょう。

塵がおもむくは星の群れ

 今回戸谷教授が提案した新しい手法は、太陽系外のよその惑星の試料を直接調べるというものです。よその惑星は何十光年も何千光年も離れていますが、計算によると、そういうところから今この瞬間も試料の方がやってきているというのです。

 そんなことがどうして可能なのでしょうか。

 地球には毎日、合計約100トンもの隕石が降っています。大きなものは火球として目撃されて話題になったりしますが、多くは砂粒ほどの小さなものです。ビルの屋上にたまった埃には、ミリメートルサイズの微小な隕石が混じっていて、丹念に探すと見つかります(が、筆者は試したことがありません)。また、野外にシートを敷いて放置するという簡単な仕掛けで、微小隕石を採集することができます*3

 それら微小隕石のほとんどは、太陽系に属する物体です。約46億年前、宇宙空間のガスや塵が集まって、太陽や惑星や小天体が生まれた時、たまたま天体に集められずに塵のまま残ったものや、あるいは何らかの事故で、惑星や小天体から飛び出したものが、数百万年間から数十億年間、太陽系内をさまよった末に、地球にぶつかって旅路を終えたのです。

 しかし微小隕石の中には、太陽系の外のどこかの惑星から発して、天の川銀河内をさまよった末に、地球にぶつかったものが混じっているかもしれません。そういう太陽系外惑星、略して「系外惑星」からやってくる宇宙塵はどれほどあるのでしょうか。

 それを見積もるために、逆に地球から発して太陽系外に飛び去る宇宙塵を考えましょう。

 地球の各地には巨大なクレーターが残っています。それは過去の隕石大衝突の名残です。衝突の際には、地球の岩石や土くれが派手に吹き飛ばされ、中には脱出速度 11.19 km/s を超えて、宇宙を旅する微小天体となるものもあります。

 石ころがそんな速さで大気中を飛ぶと、普通は燃え尽きてしまいますが、大隕石の衝突時には爆発が生じて大気が希薄になるので、高速の石ころが大気圏外にうまく逃げ切る可能性が高まります。宇宙塵の冒険旅行の始まりです。

 戸谷教授の見積では、こうして宇宙へ脱出する石ころの量は、落下した隕石の質量の1000分の1〜1万分の1にのぼります。平均して年間10〜100トンです。(大隕石はめったに落下しないので、1億年くらい平均する必要があります。)

 石ころは、脱出時の衝撃や、互いの衝突などによって、細かな粉塵を生じます。この粉塵は、太陽の重力によって太陽に引っ張られると同時に、太陽光によって反対向きに押し戻されます。

 物体が小さいほど、太陽光の効果は重力に比べて強くなります。重力が物体の質量(体積)に比例するのに対し、光の力は光が当たる面積に比例するからです。そして大きさが1 μm程度の塵は、光の力が重力に勝ち、塵は光に加速されて太陽の重力を振り切り、太陽系の外へ脱出すると考えられます。

 こうして年間約10トンの宇宙塵が地球を旅立ち太陽系外へ出て銀河への冒険旅行に出発します。お好きなSF作品のテーマを頭の中に鳴り響かせてください。

系外惑星からの塵が地球に降り注ぐ

 系外惑星から旅立った塵は、100億年ほど恒星間空間をさまよい、運がよければ、別の恒星系に通りがかり、さらに運があれば、そこの惑星に衝突するとみられます。これは恐ろしく成功率の低いミッションです。

 さてでは、地球に降ってくる塵の中に、どこかの系外惑星から発したもの、特に生命を育みそうな系外惑星から飛び立ったものは、どれくらい混じっているでしょう。

 私たちは生命のはびこる惑星を1個しか知らないのですが、宇宙の他の生命もこれに似た惑星にはびこりやすいと乱暴に仮定すると、恒星系が生命発生に適する惑星を有する確率は10%ぐらいじゃないでしょうか。

 あと、恒星間空間にはどうやら塵を破壊する機構があるようですが、そういうトラップを塵がかいくぐる率もわりと高めの値を採用するなど、いろいろ希望的観測値を入れて見積もると、結局

「年に約16万個の塵が生命に適した系外惑星から地球にやってくる」

という結論になります。

 年に数万トン降ってくる隕石の中に、吹けば飛ぶような塵が16万粒です。これは見つけるのが簡単ではなさそうです。

最高のライフの見つけ方

 さて以上を踏まえた、異星の生命を探す新手法は、次のようなものとなるでしょう。

1. 地表に転がる宇宙塵や、地球近傍をただよう宇宙塵を拾い集める。(例えば過去の隕石が埋まっている南極の氷床が有望です。)

2. 塵の組成や同位体比などから、太陽系外起源のものを選り分ける。(これができたらもう大発見)

3. 生命由来の物質や、微生物の化石や、生命活動の痕跡など、生命の証拠を探す。

 1〜3のどの段階も、簡単ではありません。普通の宇宙塵をいくつか集めるのは簡単ですが、年間16万個しか降ってこない塵を採集するには、それとは比べものにならない徹底的かつ大規模な塵集めが必要でしょう。また候補が見つかったとしても、宇宙空間の低温や高温、放射線、紫外線などに100億年さらされて変質した物質です。それが、生命由来なのか、非生物的な現象で作られたのか、判断するのは相当難しいと思われます。

 しかし人類の手の届かない系外惑星から、実はすでにメッセージが送られてきているのかもしれないというのは、大変魅力的な話です。この見積りが正しければ、地球には何十億年にもわたって、異星のかけらが春の雨のように降り注いでいるのです。

 将来、微小隕石を顕微鏡で観察していたら、そこに異星の花粉か胞子かあるいは糞か、もしかしたらクマムシのような小さな生物そのものが見つかったら、と空想は広がります。

余談ですが・・・

 なお、このコラムでは以前、戸谷教授の別の発表を紹介したことがあります。

 前記事『低すぎる生命発生の確率、どうして我々は生まれた?』*4で紹介した見積りでは、惑星上に偶然生命が発生する確率は極端に低く、おそらくこの宇宙の観測できる範囲内には、生命は地球という1例でしか見つからないだろう、ということでした。孤独な人類をしょんぼりさせる結論です。

 しかし今回の結論は打って変わってというか、突然の長調への転調というか、生命発見の可能性についてたいへん楽観的な見通しです。途中の仮定もかなり強気です。

 先日、戸谷教授にお会いしたとき、今度の発表は希望がもてる話との予告をうかがっていたのですが、本当に希望がもてました。

 今回の発表では、系外惑星に生命が誕生する確率については述べていないので、この手法でもどの手法でも結局生命が見つからない可能性は否定できないのですが、宇宙の観測可能な範囲のどこにも生命が見当たらないシナリオと、宇宙塵に生命の痕跡が含まれるシナリオの、どちらが真実に近いのか、孤独だが希望をもった人類としてはぜひとも追求すべきでしょう。

 でも、もしも宇宙塵に生命の痕跡が見つかったとして、それが系外惑星から降ってくるスギ花粉(に相当する異星の物質)だったりしたら、ちょっといやですね。

*1:戸谷友則(2023/03/22)『太陽系の外から降り注ぐ微粒子に生命の痕跡を探す
*2:Tomonori Totani, 2023/03/22, "Solid grains ejected from terrestrial exoplanets as a probe of the abundance of life in the Milky Way", International Journal of Astrobiology, First View, p1.
*3:ヨン・ラーセン著、武井摩利訳(2018)『微隕石探索図鑑:あなたの身近の美しい宇宙のかけら』(創元社
*4:小谷太郎(2020/02/29)『低すぎる生命発生の確率、どうして我々は生まれた?

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  銀河は風の子? 超巨大ブラックホールの風が銀河を育てる

[関連記事]

JAXA「研究不正」の真相、閉鎖環境滞在試験で何が起きたのか?

ブラックホールがなぜドーナツに見えるのか、今度こそ分かった!

系外惑星で発生した塵や破片が、生命探査の手がかりになるかもしれない。  Image credit: NASA/JPL-Caltech.