投資家の情報収集ツールとしていまも高い人気を誇る日経新聞。毎日隅々まで目を通している熱心な投資家も少なくありません。しかし、その日経新聞も「読み方を誤るとかえって危うい」と、会社四季報を100冊読破した複眼経済塾の渡部清二代表はいいます。では、そんな渡部氏が「日経新聞を後ろから読む」ことを勧めるワケとは、みていきましょう。

日経新聞を読んだ気になってはいけない

多くの人によくありがちなのが「読んだ気になる」である。

「ビジネスパーソンとして日経新聞ぐらい読んでおかないと」という気持ちで紙面を開いてみても、その実、眺めているだけで内容を理解していない人がいる。あるいは、「自分は日経を読んでいるから大丈夫」と思い込んでいる人もいる。

とはいえ、記事の字面を眺めているだけでは読んだことにならない。大切なことは書かれている内容を読み込み、様々に思いを巡らせながら自分なりの考えを持つことだ。

日経新聞を読む際に気をつけなければならないポイントは、「変化をつかむ」「マーケットを把握する」「景気の動向を見る」の3つである。

新聞に限らず、読んだり聞いたりして「わかった気になる」というのは、ありがちなことだが、それは入手した書籍を読むことなく、机や本棚などに積んだままにしている「積読(つんどく)」に等しい。

それに、上っ面をなぞっただけで「わかった気になる」のは、とても危うく感じるし、新聞に書かれているから、テレビで言っているから間違いないだろうと妄信してしまうのも危険だ。

「わかった気になる」と「理解する」は本質的に違う。前者は物事の判断を他者に依存するのと同じであり、後者は物事の判断を自ら行い、自分なりの答えを得るということだ。これは当塾のコンセプト「自立した投資」に通じる話である。

余談ではあるが、「依存」と「自立」という対比で思い起こされるのが『開運!なんでも鑑定団』というテレビ番組だ。様々な人が持参する“お宝”を専門家が鑑定し、値付けをするという内容で、意外なものが高価だったり、逆に高いと思われたものが二束三文だったりするので面白い。

偽物であることが明らかになって落胆するケースも多く、お宝の鑑定を依頼した人は、専門家から審美眼を疑われたりもする。

この番組は、本物を見極めるのは難しく、それなりの勉強が必要になることを教えてくれている。偽物をつかまされてしまうのは、勝手な思い込みで「これは本物だ!」と信じたいからだろう。

先入観で物事を判断するのは非常に危うい。「信じる」と「わかる」は違う。さらに言うならば、日本語には「腑(ふ)に落ちる」という表現もあるわけで、「わからない」ときや「腑に落ちない」ときは、とりあえず「やめておく」が正解だろう。

加えて、巷間では様々なセミナーが開かれていて、投資目的のセミナーに参加する人が少なくないようだ。

「依存」について言及すると、依存心の強い人は投資に向いていないと断言できる。なぜならば、「依存」とは「○○に任せる」ということで、それは何も考えないに等しいからだ。

何も考えずに、人任せで投資に成功するはずはないし、ラクして儲もうけられることなどあり得ない話だ。

なかには「運用を任せていただければ、利益がどんどん増えて大きな資産が得られます」といった眉まゆ唾つばものの投資セミナーもある。せっかくの“虎の子”がなくならないように注意する必要がある。

どのような投資でも儲けるためには、それなりの努力をしなければならない。これはスポーツ界のレジェンドたちが言っている「練習は嘘をつかない」と同じことで、株式投資を行う上で欠かせないのが「四季報読破」「日経新聞の切り抜き」「指標ノート」の「三種の神器」なのである。

「日経新聞を後ろから読む」ことのメリット

日経新聞を後ろから読む」こともお勧めする。その理由は、初めから読んでいると、日経新聞の論調にいつの間にか流されてしまいかねないからである。

どの新聞社も読者が1面から目を通すことを想定して、読ませたいと思っている記事から順番に構成している。だが、我々が新聞を読む理由は情報を入手したいからで、新聞社の論調や考え方に関心を持っているからではない。

ちなみに私の場合、日経新聞に書かれている記事を客観的にとらえるために、必要に応じて日経新聞の対極にある東京新聞を読むようにしている。

1つの事柄を別の視点から相対化することができるので、東京新聞の記事の切り抜きも日経新聞の切り抜きノートに添えるようにしている。

1面の記事は見出しも大きいし、文字数も多く、2・3面にも役立つ情報が多い。これらの紙面を先に読んでしまうと、それだけで「もう十分」という気になってしまい、後ろのほうに出ている株式投資のヒントになる小さな記事を見逃してしまう可能性がある。

もちろん、だからといって最初のほうの記事を読まなくてよいというわけではない。前半の紙面には世の中の大きな動きを伝えている記事が掲載されているので、必ず目を通す必要がある。

しかし、そうした記事ばかりに惹かれることなく、株式投資に役立つヒントを得るには、日経新聞を後ろから読むのも1つの方法である。

要は日経新聞をどう読むかであって、そこに決まり事はないものの、ただ漠然と読むのではなく、多くの記事から活用できる記事を探し出して、何を読み取るかが大切になる。

渡部 清二

複眼経済塾

代表取締役塾長

(※写真はイメージです/PIXTA)