2023春アニメとして放送を開始した【推しの子】が今、大きな話題を呼んでいます。

普段、アイドルが主人公の漫画やアニメを手に取ることのない筆者が、あまりの面白さに度肝を抜かれた作品。ページをめくる手が止まらないという言葉は、まさにこの作品のためにあるのかと思うほどでした。

TVアニメ『推しの子』キービジュアル

TVアニメ『推しの子』キービジュアル

たまたま「少年ジャンプ+」を開いたら、目に留まった。そう、アイドルグループのセンターが醸し出す言いようのないオーラから目が離せなくなってしまうあの感覚……まさに『【推しの子】』という作品にはそんな魅力があるのです。筆者は端くれではありますが“原作ファン”と名乗っても差し支えないかなと思っております。

そんな強烈なインパクトを残した『【推しの子】』がアニメになったということで、その面白さに変わりはないのか?原作ファンの筆者が抱いたアニメ『推しの子』に対する正直な感想を綴りたいと思います。

 【推しの子】原作再現のカギはテンポ感

【推しの子】』は、「週刊ヤングジャンプ」と「少年ジャンプ+」(後者は1週遅れ)にて連載中の赤坂アカ(原作)、横槍メンゴ(作画)による作品。

熱烈なアイドルオタクの産婦人科医・ゴローの元に、推しのアイドルである「B小町」の星野アイが患者として訪れたことからすべてが幕を開ける本作。一人のアイドルが芸能界のスターダムを駆け上がっていく様を描きながら、同時にミステリアスな物語も描いていき、序盤でとんでもない衝撃展開を迎えます。

原作漫画は小気味よく息をつく暇もない物語展開のため、これをアニメでもしっかりと継承できるのかが大きなカギになってくると感じていました。

Blu-ray【推しの子】1巻 (‎ KADOKAWAアニメーション)

Blu-ray【推しの子】1巻 (‎ KADOKAWAアニメーション)

まず初めに、本作『【推しの子】』というタイトルは、あらゆる意味合いを持たせた複合的なものとなっているのです。もちろん「推しのアイドルが活躍する」といったイメージも間違いではありません。しかしながら、そういった読者のミスリードを誘いながら、良い意味で読者の予想を裏切っていくのが、本作最大の魅力でもあるのです。

一人のアイドルと関わる数人のキャラクターの視点から、芸能界の「光」と「闇」を炙り出す内容が繰り広げられる本作。
最近、現実の世界でも某アイドル事務所の暗黙のルールが取りざたされていますが、ファンが目にするような“表の顔”だけではない、後ろ暗い世界も同時に浮き彫りにされている作品です。

漫画原作では、ご存じの通り、それぞれのコマに吹き出しでセリフが書かれているだけなので、なかなか主人公のアイがどのような感情でセリフ回しをしているのか掴みにくい部分が多い。

しかし、パフォーマンス中にアイが、自身の笑顔について悩む場面では、これぞアニメ版の真骨頂とでも言うべきでしょうか。声優さんによって命を吹き込まれたことにより、アイの苦労が滲み出た素晴らしい演技を観ることができ、細かい表情の変化を表現した作画と相まって、見事にアイドルの苦悩と葛藤を魅せつけてくれるのです。

そのほかにも、映画やテレビドラマのキャスティング事情などについて、事細かに描かれていることが多く、アイがあるドラマに出演することになるくだりに注目。

アイは弱小プロダクションのアイドルであり、未だ芸能界で権力を有していません。そのため、脇役での出演となるのですが、アイはカメラの前で優秀な演技を披露して魅せます。撮影現場の雰囲気が生々しく伝わる写実的で滑らかな作画が印象的です。

監督はアイの演技を大いに気に入っていたのですが、いざオンエアされるとそのシーンはカットされているというシーン。監督いわく、大手の事務所がゴリ押しする若手女優よりも魅力的に映る存在がいたら大問題になると……。

こういった大手の芸能事務所が実権を握っており、実力が伴わない若手をゴリ押ししてくるといった部分は、今も昔も変わらない日本の芸能界特有の“真実”であるように感じます。どの事務所に入るのか、誰に気に入られるのかで、人生が大きく変わる。芸能界は決して平等ではないということがハッキリと描かれているのです。

これほどの情報量でありながら、ここまでが第1話中盤あたりまでの部分。前述の原作漫画のテンポの良さをしっかりと受け継いだ構成になっていることが伺えます。

ファン目線だけでは到底目にすることのできない「芸能活動の裏側」がアニメとして明確に描かれており、本作はただただ推しのアイドルの成長著しい活躍を楽しむだけでは終わらないのです。

第1話をみた原作ファンの感想は…大満足!

率直な感想を言わせてもらえば、第1話を視聴した時点での感想は……大満足! あえてここで断言させていただきます。『【推しの子】』は漫画原作ファンもアニメ版を楽しめる!

よく漫画とアニメは別物だという意見を目にしますが、そのほとんどがネガティブな意見であることが多い。しかしながら、『【推しの子】』に関しては、全くの真逆で、アニメ版の動きのある描写の方が非常に映える印象を受けました。

『アイドル』YOASOBI

『アイドル』YOASOBI

その最大の理由は、やはりアイを初めとしたアイドルたちのパフォーマンスをリアルに感じ取ることができるからです。漫画ではどうしてもアイドルのパフォーマンスというものに、音も振り付けも観客の歓声も“生”で感じ取ることができず、想像で補うしかありません。

それがアニメ版ではどうでしょう? しっかりと音楽も歌声も観客の歓声も聞き取ることができ、大迫力のパフォーマンスをリアルに感じ取ることができるわけです。

また同場面では、アイと近しい関係にある赤ちゃんのダンスが目を引く場面があるのですが、そのシーンにおける動きが実に滑らか! 漫画で見るのと、実際にアニメで動いているところを観るのとでは、ここまで印象が変わるのかと驚いてしまいました。

アニメになったことで「こういう歌だったのか!」や「こんなパフォーマンスで観客を盛り上げていたのか!」といった新たな気づきがあるわけです。映像だからこそ伝わる魅力にあふれている作品だと思います。

さらに、本作は作画がまた神がかっているのです。第1話の終盤で、アイの息子であるアクアが、禍々しいオーラを身に纏う場面があるのですが、そのシーンにおける作画がとにかく凄まじい。

アイドル・アニメだとは到底思えない、まるでアクション映画でも観ているかのような圧巻の描写に度肝を抜かれてしまいました。

アニメ【推しの子】ティザービジュアル

アニメ【推しの子】ティザービジュアル

撮影現場特有の緊張感であったり、まるで実写かと見紛うほどのリアルな背景も、しっかりと表現されており、アニメというよりもドラマを観ているような錯覚さえ覚えます。

待望のアニメ化ということもあり、早くも大きな反響が寄せられている、アニメ『【推しの子】』。90分拡大版だった第1話は、原作約10話分、単行本にすると1冊ほどの部分が描かれており、とてつもない情報量だったかと思います。

しかし、物語の全体を見てみると、まだまだ「序章(プロローグ)」に過ぎない【推しの子】、これから、手に汗握る展開の連続が待ち構えています。

(執筆:zash)

 

アニメ『【推しの子】』作品概要

<INTRODUCTION>
「この芸能界(せかい)において嘘は武器だ」
地方都市で働く産婦人科医・ゴロー
ある日"推し"のアイドル「B小町」のアイが彼の前に現れた。
彼女はある禁断の秘密を抱えており…。
そんな二人の"最悪"の出会いから、運命が動き出していく―。
<STAFF>
原作:赤坂アカ×横槍メンゴ集英社週刊ヤングジャンプ」連載)
監督:平牧大輔
助監督:猫富ちゃお
シリーズ構成・脚本:田中 仁
キャラクターデザイン:平山寛菜
サブキャラクターデザイン:澤井 駿
総作画監督:平山寛菜、吉川真帆、渥美智也、松元美季
メインアニメーター:納 武史、沢田犬二、早川麻美、横山穂乃花、水野公彰、室賀彩花
美術監督:宇佐美哲也(スタジオイースター)
美術設定:水本浩太(スタジオイースター)
色彩設計:石黒けい
撮影監督:桒野貴文
編集:坪根健太郎
音楽:伊賀拓郎
音響監督:高寺たけし
音響効果:川田清貴
アニメーション制作:動画工房

<CAST>
アイ:高橋李依
アクア大塚剛央
ルビー伊駒ゆりえ
ゴロー伊東健人
さりな:高柳知葉
アクア(幼少期):内山夕実
有馬かな潘めぐみ

<公式サイト>
https://ichigoproduction.com/

<公式Twitter>
https://twitter.com/anime_oshinoko

<原作情報>
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