世界で驚異的なヒットを記録している映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』がマリオ生誕の地、日本で28日(金)から公開になる。本作は『怪盗グルー』シリーズや『ミニオンズ』『シング』のイルミネーションが製作を担当しているが、マリオを生み出した任天堂も製作に参加。両社が密に連携して映画づくりが行われた。

なぜ、世界的なヒット作を次々に飛ばすイルミネーション任天堂タッグを組んだのか? そして本作が各地の興行記録を更新する大ヒットになったのはなぜか? イルミネーションの創設者・CEOで本作の製作を務めたクリス・メレダンドリに話を聞いた。彼は繰り返しこう語る。

「何よりもマリオのファンのみなさんに伝わり、喜んでもらえる映画にしたい」

メレダンドリはアメリカ生まれの映画製作者で、2007年にイルミネーションを設立。スタジオ第1作目『怪盗グルーと月泥棒』は2010年に公開され大ヒットを記録し、その後もイルミネーションは『怪盗グルーのミニオン危機一発』『ミニオンズ』『ペット』『SING/シング』などヒット作を次々に手がけている。

通常の大手製作会社であれば、日本生まれのゲームを映画の題材にする際は、“原作”の権利を購入するか、関わる度合いはともかくとして“監修者”として契約を結ぶことが多い。しかし、メレダンドリは、マリオを生んだ任天堂の伝説的なゲームプロデューサー、宮本茂と話をすることから始めたという。

「宮本さんと初めてお会いしたのは2014年のことでした。最初の頃はお互いのことを知るための時間を持つ感じでしたが、その頃から宮本さんは『映画をつくるのであれば“パートナーシップ”の形で我々も参加したい』とおっしゃっていました。

その後、具体的な映画づくりの話が始まったのですが、私は“日本の作品やゲームをアメリカで映画化する際、なぜ、アメリカの他の映画スタジオは私たちのような協業・コラボレーションという形をとらなかったのだろう?”と考えるようになりました。その後、作業を進めていく中で、私は任天堂イルミネーションのコラボレーションこそが、この映画にとって最も理にかなった形なのだと確信するようになったのです」

マリオがゲームの中に初めて登場したのは1981年で、4年後には名作『スーパーマリオブラザーズ』が登場。現在もマリオはゲーム、テーマパークなどで活躍を続けており、そのファンは世界中に存在する。

「宮本さんと任天堂のチームの方々はマリオに関する深い知識と知見、愛情を持っていて、何よりも想像力にあふれた方々でした。そんな人たちが手がけているからマリオはここまで多くの人に愛されているのだと思ったのです。私は何よりもマリオのファンのみなさんに伝わり、喜んでもらえる映画にしたいと思っていましたから、任天堂イルミネーションの協業になったのは理にかなっているのです」

しかし、マリオの世界を映画にするのは簡単なことではなかったようだ。そもそもマリオはゲームのキャラクターで、近年のマリオ作品は3DCGのマリオをプレイヤーが操作できる。さらにゲーム中にはムービーも登場するため、CGで描かれたマリオを観ることはファンにとって特別なことではない。

手を抜いて映画化してしまうと“ゲーム内のムービー”を大きな画面で観ていることになってしまう。しかし、通常通りのCGアニメーションをつくると、我々が愛し、操作してきたマリオとは違ったものになる可能性がある。

「そうですね。だから、最も難しかったのは“バランス”でした。オリジナルのマリオのデザインや設定は尊重しなければなりません。一方で、観客が映画館で作品を体験することを考えると、何かしらの進化や成長のドラマを描く必要があります。

ですから、ゲームのマリオに寄り添い過ぎてしまうと大きなスクリーンでうまく存在感を出すことができなくて失敗してしまうでしょうし、映画のことだけを考えてしまうと私たちが長年に渡って愛してきたキャラクターと違ったものになって失敗してしまうわけです」

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を成功に導いた“ふたつの力”

そこで重要になったのは、マリオの世界に精通した任天堂のメンバーと、数々の映画づくりを成功させてきたイルミネーションのメンバーが四つに組むことだった。

「この映画では両社が本当に密接にコラボレーションすることができました。例えば、CGアニメーションをつくる際には“リグ”というものを設定して、キャラクターを動かすポイントをいくつも設定することができます。つまり、今回の作品ではゲームのマリオよりもさらに幅の広い動きが可能なわけです。そこで私たちは、このツールを“キャラクターが本来持っている精神”を守りながら駆使することを重視しました。

その作業や工夫は、本当に細かいニュアンスや、細部の動きにまでおよびました。マリオを映画として描くためには、細部=ディテールの積み重ねが不可欠だと思ったからです。そこで重要になったのが、宮本さんと任天堂のチームのみなさんの力とマリオへの愛情、そしてイルミネーションの優れたスタッフの力でした。ふたつの力を集結させて、観客のみなさんにスクリーンに写っているマリオや仲間たち、その世界観が“長年に渡って知っているもの”だと感じてもらうことを目指したのです」

その結果、本作はマリオの世界観やキャラクターが見事にスクリーンで表現され、目の前にあるのはスクリーンで、映画館にいるのに“自分がマリオを操作して遊んでいる時と同じ感覚”が楽しめる映画になった。

完成形にたどり着くために多くのスタッフが創作と工夫を積み重ねることになったが、ここでもポイントになったのは“宮本茂”だとメレダンドリは笑顔を見せる。

「宮本さんは神秘的で、神話に出てくる伝説的な人物のような方ですが、実際にお会いして話をすると、非常に寛容な方なんです。さらに重要なのは、宮本さんは一緒に仕事をする周囲の人間に大きな影響を与える人だということです。

彼と一緒に仕事をすると、いつしか誰もが『自分も最高の仕事をしなければならない』と思えてくるのです。その結果、彼の周囲にいる誰もが仕事を“しなければ”ではなく、自分から“やりたい”と思ってしまうんですよ(笑)。

宮本さんの持っている知識やビジョンに見合うだけの仕事をしたいと、任天堂のみなさんとイルミネーションの才能あるスタッフが力を合わせてがんばった結果、本作が完成したと思っています」

メレダンドリは、創作の過程に最初から最後まで伴走する“ストーリーを伝えるプロデューサー”で「私は他のアニメーション会社のように任命した監督を制作の途中でクビにすることは絶対にないですし、課題や問題が起こっても、いつも監督の味方になって最後まで共に作業を続けたいと思っています」と言い切る。

宮本茂任天堂のチーム、そしてメレダンドリ率いるイルミネーションのチーム。両社が“兄弟”のようなタッグを組むことで、本作は多くのファンが納得する作品に仕上がったのだ。

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー
4月28日(金)全国公開
(C)2022 Nintendo and Universal Studios

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』