日本初上陸の最新海外ドラマと厳選作品が観られるAmazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」とスカパーの「スターチャンネル」ではGWスペシャルとして、「マストで観るべき本邦初公開韓国映画2」を特集。20年以上韓国映画を観続けてきた目利きの担当者が、現地から直接買いつけた選りすぐりの作品をお届けするこの企画は、昨年11月に続く第2弾となり、日本では劇場公開されず、未ソフト化の貴重な作品5本を独占配信&公開する。

【写真を見る】2006年の韓国公開当時、ロマンチストのイメージが強かったハン・ソッキュだったが…(『殴打誘発者たち』)

第1弾に続きこの特集を企画、作品チョイスをしたプロデューサーの飯森盛良と、MOVIE WALKER PRESS編集部員の鄭智喜、韓流コンテンツに詳しいライター・鳥居美保の3人で、本特集で取り上げられる韓国映画5作の魅力について語り尽くした。

■選んだ基準は「まず自分が観たかった作品」(飯森)

鳥居「まず、第2弾で5本を選ばれた理由を教えてください」

飯森「第1弾と同様に、今回も日本未公開の韓国映画の膨大なリストを韓国のパートナーから貰ったんです。もちろん観たことがない作品ばかりだったんですが、『なんかおもしろそうだな』と感じたものと、タイトルは知っていて『いつか観たい』と思っていたものを選びました。要するに、まずは自分が観たいもの(笑)。僕と同じ感性の人がいたら、喜んでもらえるかな、という感覚で選びました」

■これでもか!の圧倒的なバイオレンス描写のハン・ソッキュ主演作『殴打誘発者たち』

1本目は2006年に韓国で公開された、『シュリ』(99)で知られるハン・ソッキュ主演の『殴打誘発者たち』。監督は『サスペクト 哀しき容疑者』(13)、『殺人者の記憶法』(17)を手掛けたウォンシニョン。田舎道をベンツでドライブする、声楽科教授と女生徒。その途中で彼女がデートレイプに遭ったことから始まるスリラー。河原で見るからに危険な人々と出会い、悪夢のような経験をする超バイオレンス作品だ。

鳥居「では、今回の特集の最初を飾る『殴打誘発者たち』から」

飯森「初回放送のトップバッターなので放送時刻が早すぎました。気持ち的には夜9時ぐらいから観たいゴールデン級の作品なんですけど(笑)。でも、河原で肉を焼いて皆で食べるシーンがあるんですが、同じように家で昼からサムギョプサル(豚の三枚肉)を焼いてビールでも飲みながら観るのもいいかもしれませんね。余談はともかく、これは本当におもしろかったです!映画の感想で“おもしろかったです”ってのは一番バカっぽいんですけど(笑)、ネタバレになるんでそれしか言いようがない。いわゆる“田舎ホラー”です。アウトドアを楽しみに行った人たちが、常識の通じない世界に紛れ込んじゃってひどい目に遭わされる、バート・レイノルズ出演の『脱出』(72)という映画がありますが、この作品もそんな感じで。『脱出』に匹敵するおもしろさでした」

鄭「最初は、ただのコメディかな?と思ったら、哲学的というかブラックコメディというか、ホラーな展開になっていったりして、そのよくわかんない感じになっていくのがおもしろかったです」

飯森「どこに話が転がっていくのかまったくわからないんですよね」

鳥居「手持ちカメラで撮ってるみたいに、ずっと画面が微妙に揺れているんですよ。それがなんか気持ち悪くて、不安感を掻き立てられました」

飯森「観ているうちにぐるぐるしてくる感じ。それと、『VOICE ヴォイス』(05)というホラー映画(韓国の原題は『女高怪談4』)以来好きで、本作のあとに韓国のいろんなドラマで活躍するチャ・イェリョンが女学生役で出ているんですが、かわいいんですよ」

鳥居「出演者でいえば、イ・ムンシクがよかったです。一見、人のいい笑顔で心を許してしまいそうなんですけど、信用したら危ない、という典型で、彼のそういった持ち味を上手く生かした役だったなぁ、と。なんか胡散臭いんだけど、せっぱつまっていたらあの笑顔に騙されて誘いに乗ってしまう心理は理解できます」

飯森「ハン・ソッキュがやたら唾を吐くんですけど、切れ味がいい唾じゃなくてドロッと吐くんですよね(笑)。『この人たち汚らしい』っていう嫌悪感を煽るような演出もすばらしかったです」

鄭「公開当時のハン・ソッキュって、ロマンチストのイメージが強かったんですよ。だから、“この役で仕事が減っちゃいそう…”って心配していたらしいです(笑)」

飯森「あと、タイトルの『殴打誘発者たち』って原題の意味が最初よくわからなかったんですが、“殴られても仕方がない人たち”という意味なんですか?」

鄭「韓国語だと、“殴りたくなるやつ”という感じが近いですね。この作品がきっかけで、韓国で“○○誘発者たち”という言葉が流行ったんですよ」

飯森「そうなんですか!そんな影響が出るくらいよくできた作品ですよ。なんで日本の配給会社がスルーしたのか、本当に理解できない。韓国バイオレンスものの傑作として語り継がれるべき作品です」

■韓国初のラジオドラマはドタバタ続き!『ラヂオの時代』

2作目は2008年に公開された『ラヂオの時代』。『容疑者X 天才数学者アリバイ』(12)や『ベルリンファイル』(13)のリュ・スンボムが主演し、1930年の日本統治下の韓国での朝鮮語ラジオ放送局を舞台に、韓国初のラジオドラマの生放送に奮闘する人々の騒動を描きだす。ノスタルジックな雰囲気漂うドタバタの展開が笑いを誘うコメディだ。

鳥居「今回の5本のうち、この作品だけが原題タイトルではないんですよね?」

飯森「この作品の原題は『ラジオ・デイズ』なんですが、そのままだとウディ・アレンの同名映画があるので、ウェブの検索で引っ掛からなくなる。SEO対策であえて『ラヂオの時代』にしました。英和直訳しただけですけど。実は、韓国でも“(同じタイトルで)やらかした!”と思ったんでしょうかね。公開初期は『Radio Days』という表記だったのが、いつのまにか『Radio Dayz』って、“z”がラッパーみたいな表記に変わっていて(笑)。1930年代の話なのに。でも、この作品は完全にノーマークだったんですが、今回の5本の中で一番好きでした。おもしろくてびっくりしましたよ」

鳥居「私もそうです。でも、日本統治下の時代背景から、日本での公開に躊躇したのかな、とは思いました」

飯森「どうなんでしょうね。最近では『暗殺』(15)とか『ハンサン ―龍の出現―』(22)もやっていますけど…。でも、もしそれが理由で公開されなかったんだとしたら、非常にもったいなかったですね。めちゃくちゃよかったし、日本人がすごく観やすい作品なのに。日本人が残酷なことをする内容だとつらいけど、この作品はそういう要素がないじゃないですか。常にユーモアと明るさを維持したままラストまでいくので、娯楽作として本当によくできている。これも多くの方に観てもらいたいです」

鄭「主演のリュ・スンボムもよかったですよね。最近はどうしているのかわからないですけど…」

鳥居「このあいだ新しい事務所と契約して、今年からは精力的に動くみたいなので、また期待できそうですよ。ほかにも、『エクストリームジョブ』(12)や『サイコだけど大丈夫』のオ・ジョンセとか、『イルタ・スキャンダル』のファン・ボラとか、いまでは日本で有名になった俳優さんが大挙していますね」

飯森「芸達者たちの競演です。おもしろい映画、時間の無駄にならない映画を紹介してくれ、と言われたら、この作品と先ほどの『殴打誘発者たち』を挙げますね。今回の特集の5本という枠をとっぱらっても、絶対間違いなくおもしろいと保証できる作品です。ビッグバンドの演奏をバックにタップダンスを踊るエンドロールも圧巻なので、最後まで楽しんでいただきたいです」

■「イカゲーム」のイ・ジョンジェ主演の豪華アクション時代劇『1724 妓房乱動事件』

3作目は「イカゲーム」のイ・ジョンジェと『悪女/AKUJO』(17)のキム・オクビンを主演に迎えた、2008年公開の『1724 妓房(読み:きばん)乱動事件』。「韓国ヤクザの組織間抗争が朝鮮王朝時代にもあったら?」というテーマで、アメコミテイストの映像など斬新な演出で魅せるアクション娯楽時代劇だ。監督のヨ・ギュドンによると、「朝鮮時代に路地裏で起きていたような争いを、やや誇張とウソを交えて描いた作品」だという。

飯森「この作品を選んだのは、『イ・ジョンジェだ!』ってことで(笑)。まぁチャウ・シンチー作品みたいな映画です」

鳥居「時代劇なのにアメコミ要素を入れてきて、製作側の『斬新なことをやってみました』という意図をものすごく感じました(笑)」

飯森「これが公開された2008年は、『インクレディブル・ハルク』や『アイアンマン』が公開された時で、“ちょうどいまからアメコミがナウなヤングにウケる!”と思って流行を先取りしたんですかね(笑)」

鄭「それと、時代劇なのに、公開当時の韓国の流行語や、ドラマやCMのセリフが使われているんですよ。その違和感のおもしろさが日本の観客にはなかなか伝わりにくいのが残念だな、と思いました」

鳥居「公開当時、イ・ジョンジェが『脚本を読んで、こんなにおもしろい作品は逃してはいけない、と思って出演を決めた』ってインタビューで言っていました」

飯森「なるほど…(笑)。時代劇や妓生ものが好きな人も楽しめる、かなり豪華なコメディです。時代劇としてすごく金がかかっているな、と思いました」

鄭「衣装をアンドレ・キムという韓国の超有名なデザイナーが担当しているんですよ」

鳥居「だからあんなに豪華絢爛なんですね。とにかく、妓生のキム・オクビンの美しさとイ・ジョンジェのかっこよさを堪能できる作品でした」

■連続30問正解すれば133億ウォン。賞金を狙って知識のない人々が知恵を絞る『クイズ王』

4作目は、2010年に公開された『クイズ王』。放送開始以来、一度も優勝者が出ていないクイズショーの優勝賞金はなんと133億ウォン(約13億2,600万円、4月27日現在)。ある事故にかかわった人々が、このクイズショーの最後の問題の正解だけを知ることになり、賞金獲得を夢見て無謀にも番組に参戦するという群像コメディ。キム・スロ、ハン・ジェソク、リュ・スンリョン、シム・ウンギョンなど、豪華出演陣で話題となった作品でもある。

飯森「これは、韓国のホリデームービーで、家族揃って楽しめる作品です。これこそ、スター大集合の豪華キャスト作品ですよね」

鄭「監督のチャン・ジンは、映画ファンから『チャン・ジン作品ならおもしろいだろう』と信頼されている人で、これも期待を裏切らなかったです。彼が気に入っている、“チャン・ジンファミリー”的な俳優が大集結していますね」

飯森「最後の1問の答えだけはわかったけど、そこに至るまで29問のクイズに正解しなきゃならないというほぼ無理な状況なのに、優勝賞金の大金にみんな色めき立つんですよね。冷静に考えたら、29問連続正解なんてできない、って心が折れると思うんですけど(笑)」

鳥居「過去に失敗したクイズのシーンで、巨人の原辰徳監督(当時)や映画の『Love Letter』(95)に関する問題が出てきて、日本ネタが使われているのが意外でした」

飯森「日本で公開してほしかったのかな?公開当時の2010年の日本は、韓国映画を結構なんでも配給していた時代なんですけど、なぜこれはやらなかったのか…」

鳥居「ひとつ考えられるのは、当時だとキャストに引きがなかった、とか?」

飯森「いまとなっては、すごく豪華なんですけどね…。あと、字幕の問題かも。クイズの問題って専門的だったりするので、字数が限られた字幕では説明が非常に難しいんですよ。これは、今回もとても苦労しました。そんな難しさもあったかもしれないですね」

鳥居「韓国ドラマでおなじみの俳優が次々に出てくるので、『この人が!あの人も!』と楽しみながら観てほしいですね」

■カノジョが死んだあとに生まれた奇妙な三角関係…。『幻想の中の君』

最後は、アカデミー賞でも話題となった『ミナリ』(20)で母親役を演じたハン・イェリが主演する、2013年公開の『幻想の中の君』。男性1人、女性2人の三角関係。男性の彼女だった女性が事故死してしまい、あることをきっかけに、遺された2人に彼女が見えるようになり、奇妙な三角関係になっていく…。映像が美しいせつなく不思議なラブストーリーだ。

飯森「この作品に出ているイ・ヨンジンが『少女たちの遺言』(99)というホラー映画(韓国の原題は『女高怪談2』)以来好きで、彼女の主演作は全部観たいと思っていたんで、今回観られてよかったです」

鳥居「イ・ヒジュンが演じた男性が、女性視点だと本当に“悪い男”だと思いました」

鄭「鳥居さんと2人で『あいつ、最低!』って、ずっと悪口言っていました(笑)」

鳥居「彼女が死んで1年は経っているけど、寂しさにまかせて彼女の友だちと寝ちゃうのがまずないし、行為中もその女性に対する思いやりもまったくない。挙句の果てには勢いまかせにしてしまったのを謝り倒す、という…。女性としては一番傷つくパターンですよ」

鄭「最後の最後までクソ男です(笑)」

飯森「男性の僕は思いもしなかった視点ですね!まあ言われれば、そういう受け止め方もあるのかも。僕は、クソ野郎というより彼は心がどんどん壊れていっているんだな、と、同情ではないですが、そんなふうに受け止めました。あと、映像がひたすら綺麗だという点と、水族館とイルカはどういう意味があるんだろう…と考えるほうに気持ちがいってたかな」

鳥居「ハン・イェリは結局、幽霊なのか幻想なのか…」

鄭「そのよくわからないぼんやりしている点も、この映画の魅力だと思います」

飯森「不思議な作品ですよね。観終わってから『あのシーンは…』って、話し合えたりもしますしね」

鳥居「では最後に。今回の5本中、飯森さんが1本だけ選ぶなら?」

飯森「うーん…。2本、『殴打誘発者たち』と『ラヂオの時代』ですね。“意外なめっけモノ”ではなく“マスターピース”と言っても過言ではないこの2本が、ちゃんとした形で輸入されなかったのは、本当に大損害だと思っていて、今回皆さんに観ていただく機会があってよかったです。個人的には、第1弾の5本を含めてもこの2本がトップ2です。もちろん、ほかの3本が『これが一番よかった』という方も居るはずで。“どんな映画でも必ず観たい人がいる”と僕は思っているので、まず自分で観ていいと感じた作品だけお届けする、ということは僕はしていないです。明らかに人気が出そうだな、とか視聴率が稼げそうだな、という観点で選ぶのは、つまらないですよ」

文・構成/鳥居美保

妓生のキム・オクビンの美しさとイ・ジョンジェのかっこよさを堪能できる作品(『1724 妓房乱動事件』)/(C)2008 SIDUS FNH,All Rights Reserved.