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マイケル・ライターズCEOのキャリア

2022年7月にマクラーレン・オートモーティブのCEOに就任したマイケル・ライターズは、大学卒業後、エンジニアリング会社を経てポルシェに入社。

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ここでカイエンの開発などに携わった後、2014年にフェラーリに移籍し、チーフテクニカルオフィサーとしてローマ、SF90、296GTB、プロサングエなどを生み出してきた。いわば、技術畑出身の経営者である。

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マクラーレン・オートモーティブマイケル・ライターズCEO    マクラーレン・オートモーティブ

それにしても、フェラーリから同じスーパースポーツカーブランドであるマクラーレンに移籍するとは、なかなかエポックメイキングなキャリアである。最初に現職をオファーされたときは、どんな気持ちだったのろうか?

「ナイス!と思いました(笑)」

とはいえ、フェラーリで重責を担っていただけに、最終的に決断するまでにはそれなりの時間もかかったようだ。

「複雑な状況でした。私の都合だけでなく、(もともと働いていた)会社の都合もあります。そこで、様々な議論を重ねたうえで、最終的な結論を下すことにしました」

たとえスポーツカーの開発で長年の経験があっても、ひとつの自動車メーカーを切り盛りするうえでは様々な知識や経験が必要になるはず。技術者が自動車メーカーのCEOになることには、どのような困難が伴うのだろうか?

「私は、技術者と自動車メーカーのCEOは完璧なコンビネーションだと思っています」とライターズ。「それに私は製品のエンジニアであっただけでなく、購買や生産計画などの部門で会社の運営にも関わってきました。したがって、いまは自宅にいるような(寛いだ)気分ですし、会社を運営していく自信もあります」

“明確な”モデルラインの重要性

では、具体的にライターズはマクラーレンをどう舵取りしていくつもりなのか?

「まず、製品のラインナップを改善するつもりです。私は、ひとつひとつのモデルに明確な目的があるべきだと考えています。『なぜ、自分はこのモデルを買うのか?』ということを、顧客が明確に理解できるようにすることが必要です。そして、テクノロジーによる明確なヒエラルキーの構築を進めます。私は、アルトゥーラは大きな可能性を秘めていると考えています。なぜなら、(マクラーレン・オートモーティブにとってこれが)V8エンジンを積んでいない初めてのモデルであり、V6エンジンにハイブリッドシステムを組み合わせているからです。こういったテクノロジーに関して、モデルごとに明確な位置づけを行なうことが重要です」

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今後のラインナップについて、テクノロジーによってモデル間のヒエラルキーを形作っていくと語るライターズCEO    マクラーレン・オートモーティブ

続いてライターズは製品のデザインについて触れた。

「今後は、マクラーレン・ファミリーの一員であるとの印象を失わせることなく、それぞれの個性をより明確にすることが大切です。それと同時に、ここでも顧客を納得させられるヒエラルキーを構築する必要があります。『なぜ、私は20万ポンドでも買えるクルマのために200万ポンドを支払わなければいけないのか?』 こういった疑問に対して、われわれ自身がお客さまに明確に説明できるようになることが重要です」

ちなみにマクラーレンチーフデザイナーは昨年7月に交代。GTなどのデザインに関わったゴラン・オズボルトが就任し、今年8月までその役を務める。

「したがって、デザインの変化は、私が着任する以前から自然に起きていたといえます」

デザインの話 新たな1歩は?

デザインの新しい方向性について、もう少し具体的に教えて欲しいとリクエストすると、「まあ、それは次の製品ができあがったときに説明しますよ」とライターズは答えたが、それでもなお私が食い下がると、こんなヒントをくれた。

「いままでマクラーレンのデザインはForm Follows Function(形態は機能に従う)をコンセプトとしてきましたが、私はこれをFunction Creates Beauty(機能は美しさを生む)と解釈するつもりです」

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ラインナップ、デザインに加え、品質についての取り組みも進めている。    マクラーレン・オートモーティブ

つまり、いままでのやや理性的な方向性よりも、よりエモーショナルなものに微調整するという意味か?

「そう受けとめていただいて構わないと思います」

モデル・ラインナップ、テクノロジーによるヒエラルキー、デザインの見直しとともにライターズが重要と考えているのが品質の向上だ。

「これについては否定できないと考えています」とライターズ。

「私が着任したとき、すでに開発陣は品質改善に取り組んでいましたが、そこからさらに、アルトゥーラの供給をどうすべきかについて検討しました。これは非常に難しい判断でしたが、私たちは必要な投資を行い、これを実行しました。アルトゥーラの生産はすでに再開していますが、最初の1台を納品したお客さまからは、非常に高い評価を戴いています」

ライターズは明言しなかったものの、この文脈から類推するに、アルトゥーラは一時、生産を中断して品質の改善に取り組んだようだ。おそらく、今後、日本に入ってくるのは、この品質が改善されて以降のアルトゥーラであろう。

最後に、マクラーレンのレース部門であるマクラーレン・レーシングとの連携について訊ねた。

マクラーレンにおける技術のコアは…

「これまで以上に連携を深めていくつもりです。そしてレースにおけるヘリテージを、ノスタルジックにではなく、現代的、もしくは未来的な手法で再解釈していきます。過去60年間に行なわれた活動は、革新的で先駆者的で、本当に素晴らしいものでした。これらを、いかに将来を見据えながら進化させていくかが、私たちに与えられた課題です。これは主にマーケティングに関連することですが、テクノロジーの領域でも、同じように重要です」

そう前置きしてからライターズが語り始めたのは、マクラーレンのキーテクノロジーともいうべきカーボンコンポジットに関することだった。

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日本のマクラーレンオーナーが集結するトラックデイ・ジャパン。昨年の開催では160台が集まり過去最多の参加台数を記録した。世界的に見てもこれほどマクラーレンが集まるイベントは珍しい。    マクラーレン・オートモーティブ

「私たちはF1マシンに使われているコンポーネントをそのままロードカーに転用するわけではありません。私たちの第一作であるMP4/12Cを見てください。これは、マクラーレンのF1マシンであるMP4で用いられたカーボンモノコックをロードカーに応用したものです。もちろん、F1マシンと同じモノコックではありませんが、テクノロジーは共通です。なお、すべてのモデルにカーボンモノコックを用いているスーパースポーツカーブランドは世界中でマクラーレンだけです。同様の強みはエアロダイナミクスの分野についても存在します。こうしたマクラーレン・レーシングマクラーレン・オートモーティブの協力関係は、マクラーレンの今後に大きな可能性をもたらすと考えています」

F1のテクノロジーから生まれたスーパースポーツカーマクラーレン。その魅力と強みは、ライターズをCEOに迎えて一段と強力に発揮されることになりそうだ。


マクラーレン・オートモーティブ新CEO、その視線の先にあるのは? スーパースポーツカービジネスの進む道