ドローンに期待される役割の1つは、被災地のような危険地帯で生存者を捜索することです。

しかしこうした被災地では、破裂したパイプやコンクリートの瓦礫など、機体を損傷する危険や、着地場所を確保できない可能性が高くなります。

ドローンは基本的にバッテリー容量はかなり制限されるため、着地場所がないからといってホバリングしながら捜索するわけにはいきません。

捜索救助活動に携わるドローンは、こうした特殊な環境でも衝突による損傷を防ぎ、足場の悪い場所でも着地できる必要があるのです。

そこでアメリカのアリゾナ州立大学(ASU)工学部に所属するウェンロン・ジャン氏ら研究チームは、ソフトボディのドローンを開発しました。

このドローンは、柔らかいボディにより衝突しても壊れることがなく、鳥のように枝や棒につかまって電力を温存することができます。

研究の詳細は、2023年4月10日付の科学誌『Soft Robotics』に掲載されました。

目次

  • 衝突や接触に強いソフトボディのドローン
  • 被災地の「止まり木」で休憩できる

衝突や接触に強いソフトボディのドローン

地震や津波、ハリケーンの被害を受けた地域での救助活動は時間との戦いです。

しかし崩壊した建物や柱、突き出たパイプは移動を制限するため、その中で生存者を発見するのは簡単ではありません。

被災地での捜索救助活動でドローンが役立つ
Credit:Canva

そこで小型のドローンが役立つと考えられています。

しかし従来のドローンのフレームは硬くて脆く、衝撃に弱い傾向にあります。

被災地の障害物に少し接触するだけでフレームやプロペラが損傷し、飛べなくなってしまうのです。

柔らかいボディを持つ新型ドローンを開発
Credit:Wenlong Zhang(ASU)et al., Soft Robotics(2023)

こうした課題にアプローチするため、ジャン氏ら研究チームは、衝撃を吸収するソフトボディのドローンを開発しました。

この新しいドローンは、布のような柔らかい素材を空気で膨らませたボディを持っており、障害物と接触したくらいでは損傷しません。

布のような素材を空気で膨らませたボディを持つ
Credit:Wenlong Zhang(ASU)et al., Soft Robotics(2023)

またプロペラの先端よりもソフトボディのフレームが外に突き出ているため、壁に衝突した場合にもプロペラがダメージを受けることがありません

壁にボディが衝突してもプロペラは無事
Credit:Wenlong Zhang(ASU)et al., Soft Robotics(2023)

動画では、強めに壁と衝突していますが、ソフトボディが衝撃を吸収しつつはじき返すことで、飛行し続ける様子が映し出されています。

これなら障害物だらけの被災地でも自由に活動できるでしょう。

壁と強く衝突してもドローンのボディは壊れない
Credit:Wenlong Zhang(ASU)et al., Soft Robotics(2023)

従来のドローンのように上空や離れた場所から捜索するのではなく、複雑な構造物の内部に潜って捜索できるのです。

そしてこの新ドローンには、被災地で働くためのもう1つの特徴が備わっています。

被災地の「止まり木」で休憩できる

新ドローンのもう1つの特徴とは、どんな場所にも着地し、休憩できるグリッパーです。

研究チームは、止まり木で休息する鳥から着想を得ました。

ドローンの下方には、開閉する「柔軟性のあるグリッパー」が備わっています。

衝撃でカールし、空気圧で戻る材料を使用
Credit:Wenlong Zhang(ASU)et al., Soft Robotics(2023)

このグリッパーには、衝撃で曲がり、空気圧で解放される材料が使用されています。

新型ソフトドローンは、これを利用して「つかむ」ようになっており、様々な形や大きさの物体を包み込めます。

動画ではドローンが素早く降下してパイプや角材に接触した途端、グリップがそれらを止まり木のようにつかんでいます。

パイプをつかんだり、解放したりできる
Credit:Wenlong Zhang(ASU)et al., Soft Robotics(2023)

またつかんだ後は、グリップがはがれることなく、ドローンは体勢を維持し続けられます。

さらにドローンが浮上し始めると、空気圧を利用してグリップが開放されるため、休憩から飛行へとスムーズに移行できます

しかもこのグリップ双安定性を有しており、グリップが開いた状態と閉じた状態の両方で、エネルギーを消費しません

「止まり木」につかまって電力を温存しながら捜索できる
Credit:Wenlong Zhang(ASU)_Built to bounce back(2023, EurekAlert)

つまりドローンがパイプや木材などの「止まり木」につかまっている間は、エネルギーを消費することがないのです。

これによりドローンは、目的地に移動した後、止まり木で電力を温存しながら、周囲を観察して生存者を探せます

ひたすらホバリングしながら捜索する従来のドローンよりもはるかに省エネだと言えますね。

グリッパーにより「どこにでも」とまれる
Credit:Wenlong Zhang(ASU)et al., Soft Robotics(2023)

今後、捜索救助に特化したドローンが、1人でも多くの命を救うため、被災地で活躍するでしょう。

さらに研究チームは、今回のアイデアが、捜索救助だけでなく、森林火災の監視、軍事偵察の支援、さらには、惑星の表面探査などにも役立つと考えています。

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参考文献

Built to bounce back https://www.eurekalert.org/news-releases/986076 Built to bounce back: Robotics researchers design drone to cope with collisions https://techxplore.com/news/2023-04-built-robotics-drone-cope-collisions.html

元論文

A Soft-Bodied Aerial Robot for Collision Resilience and Contact-Reactive Perching https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/soro.2022.0010
「ぶつかっても壊れない」「どこにでもとまれる」災害救助ソフトドローン