東京都美術館4月27日(木) より、『マティス展』が開幕。8月20日(日) まで開催される。フォーヴィスムの巨匠として知られる画家マティスの大回顧展が日本国内で開催されるのは約20年ぶりのことだ。

力強い筆致と色彩からなる絵画様式、フォーヴィスム(野獣派)を生み出し、それ以降の美術、そして人々の価値観や審美眼を大きく変えたアンリ・マティス(1869〜1954年)。同展は、世界最大規模のマティス・コレクションを所蔵するパリのポンピドゥー・センターの協力を得て開催。2004年に国立西洋美術館で開催されたマティス展以来、日本国内では約20年ぶりの大規模回顧展となる。

展示は全8章構成。生涯にわたり色と光の魅力を探求し続けたマティスの生涯を、年代順に追っていく。

7章「切り紙絵と最晩年の作品 1930–1954」展示風景より 左:《オレンジのあるヌード》1953年 右:《軽業師》1952年 いずれもポンピドゥー・センター/国立近代美術館

1章「フォーヴィスムに向かって 1895–1909」は、画家になることを決意し、パリ国立美術学校(ボザール)で、恩師ギュスターヴ・モローの教えを受けたマティスの画風の変遷をたどる。

《読書する女性》はマティスの作品で初めて国家買い上げとなった物。カミーユ・コローの影響を受けた作品だ。

《読書する女性》1895年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

そして、《豪奢、静寂、逸楽》は日本初公開作品。マティスは1904年に、筆触分割技法で知られる画家、ポール・シニャックの招きでサントロペを訪問。この作品はシニャックに影響を受け、筆触分割技法を試みている。この翌年、マティスはサロン・ドートンヌで激しい色彩の絵を発表。大論争となり、批判する評論家の「野獣のようだ」という言葉からフォーヴィスムと呼ばれるようになった。

《豪奢、静寂、逸楽》1904年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

2点の作品の間にながれる時間はわずか9年。短い期間で彼の画風は大幅に変化していったのだ。そしてこの後も大きく変わっていく。

2章「ラディカルな探求の時代 1914–1918」は第一次世界大戦中のマティスに着目する。息子など身近な人間が徴兵され、孤独を感じたマティスはその心情を作品にしたかのような、それまでとは異なる作品を制作しはじめる。《金魚鉢のある室内》をはじめ、窓を描く作品が多いのもこの時期のマティスの特長だ。

金魚鉢のある室内》1914年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

《コリウールフランス窓》は、第一次世界大戦勃発の翌月に描かれた作品。画面中央が黒く塗りつぶされて、窓が閉じているのか開いているのかがわからない。なにかを暗示しているかのような、謎めいた作品だ。

《コリウールフランス窓》1914年  ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

3章「並行する探求─ 彫刻と絵画 1913-1930」は、マティスが手掛けた彫刻のみが展示される。《背中I–IV》は、左端から右端の作品まで20年以上の月日をかけて制作された大作。時代を経るにつれて、対象が単純化されていることがわかる。この4点の作品は、マティスの転機となる絵画作品が制作された時期に、それぞれ制作されていることが判明している。

《背中Ⅰ-Ⅳ》1909〜1930年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

マティスは、活動拠点をパリから南仏のニースに移した。環境を大きく変えたマティスはそれまでよりも小さなカンヴァスを用い、そして多作になるなど、制作スタイルも大きく変わっていく。4章「人物画と室内画 1918–1929」では、ニース時代の人物画や室内画、ドローイングを取り上げる。

続く5章「広がりと実験 1930-1937」では、マティスの助手を務めたリディア・デレクトルスカヤを描いた作品を中心に紹介する。リディアは《夢》のモデルをつとめたあとマティスのお気に入りモデルとなり、晩年までマティスに付き添っていた。

《赤いキュロットのオダリスク》1921年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
《夢》1935年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

第二次世界大戦が始まると、マティスはニースから離れた町、ヴァンスへ居を移す。ヴァンス時代のマティスは「室内画シリーズ」を多く手掛けた。《赤の大きな室内》は、シリーズの締めくくりとなる作品。そしてマティス最後の油彩画でもある。

《赤の大きな室内》1948年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

1941年、大病から生還したマティスは、ベッド上でハサミを自由にあやつり、切り紙絵を制作し始める。7章「切り紙絵と最晩年の作品 1930–1954」では、20点の切り紙絵をもとにした画文集『ジャズ』や、《オセアニア、空》、《オセアニア、海》など、鮮やかな色彩と自由なフォルムの作品が並ぶ。

展示風景より《オセアニア、空》、《オセアニア、海》1948年 ポンピドゥー・センター/国立近代美術館
ジャズ」シリーズより 1947年  ポンピドゥー・センター/国立近代美術館

そして、展覧会の最後でクライマックスとなるのが8章「ヴァンス・ロザリオ礼拝堂 1948–1951」だ。マティスはヴァンスにある小さな礼拝堂のために、設計や装飾、家具、衣装などを手掛け、色彩と光にあふれた理想の空間を作り出した。この章では撮り下ろした4K映像とともに、マティスが残したドローイングなどを展示する。ロザリオ礼拝堂はステンドグラスの光が照らす空間が見どころ。映像はその魅力をしっかりと伝えている。

左:上祭服[正面のマケット、実現せず]1950-52年  右:ヴァンス礼拝堂、ファサード円形装飾《母子像》(デッサン1951年カトー=カンブレジ・マティス美術館
ロザリオ礼拝堂 堂内 (C)NHK
ロザリオ礼拝堂 堂内 (C)NHK

変遷を続けたマティスの芸術を豊富な作品とともにたどることができる展覧会。この機会を逃さず美術館に足を運んでみよう。

取材・文:浦島茂世

<開催情報>
『マティス展』

2023年4月27日(木)~8月20日(日)、東京都美術館にて開催
https://matisse2023.exhibit.jp/

5章「広がりと実験 1930-1937」展示風景より 左:《赤の大きな室内》1948年 右:《マグノリアのある静物》1941年 いずれもポンピドゥー・センター/国立近代美術館蔵