知られざる「日本の住宅とその性能」について焦点をあてる本連載。今回のテーマは「断熱性能」「気密性能」。高性能な住まいを考えるのであれば、絶対に必要な視点だといいます。住まいづくりのプロによる解説です。

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高性能な住まい…「断熱性能」「気密性能」も必要

マイホームを建てる際、構造は何を選べばいいのか……悩まれる人も多いでしょう。「高性能な住まい」を手に入れたいのであれば、「耐震性」「耐久性」はもちろん、我が国ではこれまで重視されてこなかった「断熱性能」「気密性能」を確保することが必要です。

そこで「高性能な住まい」づくりという観点から、構造は何を選ぶのがいいのかについて説明します。

住宅の構造は大きく分けると4種類

一戸建て住宅の構造・建築工法は、大きくは「木造」、「RC造(鉄筋コンクリート造)」、「鉄骨造」の3種類にわかれます。さらに「木造」は「木造軸組在来工法」と「木造枠組壁式(ツーバイフォー)工法」に分かれますので、工法としては、おおざっぱに分けると、4種類ということになります(図表1)

まず、高断熱化という観点から評価すると、まず鉄骨造は、断熱性能の確保に難があります。鉄は木の約350倍の熱を通すため、どうしても断熱性能の確保には不利な工法です(図表2)

すきま風がない家…日本には気密性能の基準がない

そして、夏涼しく冬暖かく省エネな家にするためには、断熱性能と併せて、気密性能、つまり、すきま風のない家にすることが重要です。ところが我が国には、残念ながら、国が定める省エネ基準等には、気密性能に関する定めはありません。気密性能は、家全体の隙間面積÷床面積で算出します。これをC値(㎠/㎡)といいますが、たとえば、100㎡の床面積の住宅で10cm×10cm=100㎠の隙間面積があれば、C値は1.0ということになります(図表3)

欧米諸国ではこのC値の基準が定められており、たとえば ドイツは0.3㎠/㎡、ベルギーは0.4㎠/㎡、カナダは0.9㎠/㎡…となっています(図表4)

日本の一戸建て住宅は、夏暑く、冬寒いのが当たり前のように言われてきましたが、これは、気候等が影響しているのではなく、住宅の気密性や断熱性の性能が低いことを要因としているのです。また、高気密住宅は、日本の気候に合わないと考える人が多いようですが、これも以前ご説明した通り、大きな誤解です(関連記事:『耐震性にも影響…「高温多湿の日本では、通風のいい家がよい」という“とんでもない誤解”』)。

鉄骨造は気密性能の確保が苦手

鉄骨造は、断熱性能の確保に不利である以上に、気密性能の確保に向いていません。鉄は木に比べて温度による伸び縮みが大きく、壁の中の構造も複雑であるためではないかと言われています(図表5)

少なくても、鉄骨造の大手ハウスメーカーで、気密性能を売りにしている会社は、筆者の知る限りでは存在しません。

鉄骨コンクリート造ならば、外断熱にこだわりたい

次に、鉄筋コンクリート(RC)造(以下「RC造」という)ですが、建築費が高いことが最大のデメリットです。性能面では、RC造には、外断熱工法と内断熱工法がありますが、外断熱工法であれば、高気密・高断熱に適しており、室内環境を快適に保てます。

外断熱工法とは、文字通り建物の外側を断熱する工法です(図表6)コンクリートの躯体が外気の影響を受けにくく、躯体の温度が室温に追随するため、外気温による輻射熱の影響がなく、室内が快適になります。さらに躯体そのものも外気温変化や風雨から守られ、劣化しにくくなります。ただし、熱橋対策等、コストは少し割高になります。

ちなみに熱橋とは、ヒートブリッジとも呼ばれ、建物の中でも熱を伝えやすい部分で、熱を橋渡ししてしまう箇所のことを指します。RC造の場合は、バルコニーや廊下がそれにあたります。局部的に熱を伝えてしまう部分で、室内外をつなぐ部分となるため、断熱性能の低下を招きます。また結露の原因にもなり、省エネという観点からも冷暖房効率を落とす原因となり光熱費の増大を招くことになります。

一方の内断熱工法は、コンクリートの内側を断熱していく工法です。コンクリートの躯体は外気温の影響を受けることになりますので、室内の温度もそれに伴って変化しやすくなります。そのため、室内の温熱環境の確保に難があります。また、躯体が外気温の変化に影響を受けるとともに、風雨に晒されるため、劣化も早くなります(図表7)

ちなみに、アメリカ、イギリスドイツイタリアフランスデンマークオーストラリア、韓国といった先進国では、法律で、RC造は外断熱と定められているようです。日本では不思議なことに、RC造では、内断熱工法が圧倒的で、外断熱工法の分譲マンションは極めてまれです。

ただし、注文住宅をRC造で建てるのならば、外断熱工法にこだわるべきだと思います。

木造の唯一の欠点は「腐れとシロアリ被害のリスク」

最後に、木造ですが、高気密・高断熱の性能を確保しやすく、コストも高くなく、最もバランスが取れた工法になります。よほど予算に余裕があって、RC造が好きということでなければ、木造の一択だと思います。「軸組在来工法」と「木造枠組壁式(ツーバイフォー)工法」は、多少の一長一短はありますが、他の工法に比べるとその違いは大きくないと言えます。 

ただし、木造の唯一の欠点は、腐れとシロアリ被害のリスクです。このリスク解消ためには、しっかりとした劣化対策と防蟻処理を行うことが必要となります(関連記事:『恐ろしい…EUの禁止農薬が使われる「日本のシロアリ対策」驚愕の実態』)。また、最近は従来の防蟻処理では通用しない外来種の被害が急増していることも以前ご説明した通りですので、その点に留意した防蟻対策についても確認していただければと思います(関連記事:『外来シロアリに食い潰される!「日本の木造の家」全滅の危機』)。

このように、断熱・気密性能にこだわった住まいには、木造が最も適しています。断熱・気密対策をしっかりと行うことで、快適な住環境が確保できますし、コストも高くありません。ただし、劣化対策をきちんと行えば、長い期間安心して、健康・快適・省エネに住まうことが可能なのです。

今後重視される「炭素貯蔵量」と「建築時CO2排出量」

1~3階建てで、性能にこだわるのであれば、木造の一択なのですが、今後さらに、脱炭素化の流れが、木造の優位性を高めることになると思われます。それが、「炭素貯蔵量」と「建築時のCO2排出量」です。

林野庁令和3年に、「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」を公表しています。

森林が吸収した炭素を貯蔵している木材を、国内における⽊材の主な⽤途である建築物等において利⽤を進めることは 、「都市等における第2の森林づくり」として、2050年カーボンニュートラルの実現など地球温暖化防止への貢献が期待されています。

2019年の森林吸収量実績のうち木材利用による効果は約380万t-CO2であり、木材利用の促進は更なる森林吸収量の増加に繋がることが期待されます。

⽊材利⽤の⼀層の促進を通じた地球温暖化防止を図るため、建築物に利⽤した⽊材に係る炭素貯蔵量を国民や企業にとって分かり易く表⽰する方法を示したのがこのガイドラインです。

また、脱炭素の流れの中で、住宅・建築業界においても、「調達・製造」「施工」「運用・居住」「解体・廃棄」といったサプライチェーン全体での取り組みが重視されており、「調達・製造」から「施工」においては、「建築時のCO2排出量」が大きな要素となってきます。

【図表8】にあるように、木造住宅は、炭素貯蔵量・材料製造時の炭素排出量とも、他の構造に比べて優れた数値を示しています。

国際的に、今後よりいっそう脱炭素への厳しい取り組みが要求されることが不可避な状況にありますから、木造化の流れがより一層進むものと思われます。これから住まいづくりをされる方は、これらのことを踏まえたうえで、信頼できる高性能住宅を建てている工務店・ハウスメーカーを選んでいただき、快適で暮らしやすく、資産価値が高い住宅を手にしていただければと思います。

写真提供:永峰昌治建築設計事務所 写真:百武てつご