コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、作者・尾羊 英さんの『落ちぶれゼウスと奴隷の子』をピックアップ。

【漫画】戦士を目指す少女に訪れた転機…信念を貫く姿に「きっといい戦女神になる」の声

女性は家庭に入るのが当然な世界で父のような強い戦士を目指す女の子が自分の道を通そうと奮闘する様子が描かれた本作。尾羊 英さん自身が4月6日にTwitterに投稿したところ、4.8万件を超える「いいね」が寄せられ反響を呼んだ。この記事では、尾羊 英さんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。

■求められた女性像に馴染めない…女戦士を目指す少女に訪れた転機とは

男兄弟に囲まれて育った少女・イオは父に似た顔を誇らしく思い、父のような強い戦士になることを夢見て鍛錬を重ねていた。しかし、イオが生まれ育った都市国家・アテナイでは、家庭内で子供を産み育てる女性像が求められておりなかなか馴染めないでいた。

町で行われる訓練に参加できるのも男性だけ、イオが憧れている場所に行っても女性というだけで布をかぶって隠れていなければならなかった。父に隠れて訓練場に来ていることがバレそうになった瞬間「泥棒っ!」の声が聞こえ、イオは泥棒めがけて走り出す。

見事泥棒を打ち取り、父親に自分の強さや勇気を認めてもらえると喜んだのも束の間、父親に「恥晒しが…」とぶたれてしまう。すると、泥棒に荷物を盗まれそうになった女性が「貴方はもっとずっと強くなれるわ」と救いの手を差しのべ…。

周りに理解してもらえない状況ながらも自分の夢や信念を貫こうとする少女の強さに勇気づけられる本作。Twitter上では「かっこいい!」「素敵な女性に出会えてよかった」「自分の意志を強く持って戦える姫様かっこいい」「きっといい戦女神になる」「こういう強い女性、大好きです!」「絶対幸せになって欲しい」などのコメントが寄せられ、話題を集めている。

■「物語の中ではせめて、傷つきながらも道を貫くエネルギーや輝きを見たい」作者・尾羊 英さんが語る創作の背景とこだわり

――『落ちぶれゼウスと奴隷の子』のお話を描こうと思ったきっかけや理由をお聞かせください。

ギリシャ神話で商業連載できるなら主役はゼウスと決めていました。元々ゼウスが好きですし、ゼウスあってのギリシャ神話古代ギリシャだと思います。「神々と人の王」であるゼウスは関わる神や人も多いので話を膨らませやすいとも考えました。

そんな中で「流刑の神々」(ハインリヒ・ハイネ)という、キリスト教の広まりと共に信仰を失った神々についてのエッセーと出会いました。ゼウスの兄弟や息子達はのらりくらりやっているのですが、ゼウスは孤独で、かつての栄華は見る影もない生活を送っています。その嘆きに胸を打たれ、落ちぶれたゼウスを描きたいと思いました。ゼウスならドン底にあっても誇りや輝きを失わないはずだ!という思いが推進力になっています。

――父への憧れから周りに理解されなくても一途戦士を志す少女・イオの実直さが印象的な本作ですが、本作に込めた思いやこだわった点などがあればお聞かせください。

イオは、生まれ育ったアテナイで求められる「貞淑で我を出さず家庭内で子供を産み育てる女性像」には馴染みません。ですが、それが嫌で戦士を目指すのではなく、戦士を目指す結果求められる役割に合致できない、という順番は重要だと思っています。

「やりたいことがあって実際にやっている人もいて、なのにどうして自分にはできない/許されないのか?」

私もですが、そんな疑問や不満を一度は持ったことがある方も多いのではないでしょうか。この話では性別ですが、他にも様々な事情からやりたいことを諦める/諦めさせられることがほとんどだと思います。だから物語の中ではせめて、傷つきながらも道を貫くエネルギーや輝きを私自身が見たいと思いました。

イオがいかに属する社会から浮いた存在であるかを表現するために、当時のアテナイの文化や風俗、思想について資料をあたるだけでなく古代ギリシャ研究家の藤村シシン先生にも取材協力をお願いしました。ちょうどその時期、先生の古代ギリシャ女性史の連続講座(NHKオンライン講座)も受講しており、そちらからも大きく影響を受けています。

――本作の中で、尾羊 英さんにとって特に思い入れのあるシーンやセリフがあればお聞かせください。

公衆の面前で父親に殴られたイオにアスパシアがかけた「人と違う生き方は人より多く傷を負う」は、伝えたいことをこの短さにまとめるために悩んだ記憶があります。アスパシアはアテナイ出身ではない女性で、権力者の妾として生きる元高級娼婦です。歴史上の人物で女哲学者と称されるほどの才女でした。明らかに当時の一般的な女性像から外れており、並々ならぬ苦労があっただろうなと…そんな彼女の言葉だからこそ、イオにも響くのではないかと思います。

シーンとしては市民少年たちの運動場ギュムナシオンの描写は力を入れました。イオにとって夢、自由、権利の象徴です。ギュムナシオンはジムの語源にもなっています。あと、お父さんを投げるシーンはあえてサラッとするよう意識しました。

――本作が収録されている『落ちぶれゼウスと奴隷の子』では古代ギリシャを舞台に物語が進められています。ギリシャ神話エジプト神話が好きとのことですが、好きになったきっかけや漫画のテーマに採用しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

ギリシャ神話には小さい頃に星座の本で出会って夢中になり、私の熱狂ぶりを見た習字の先生が「聖闘士星矢」を全巻くださったことでさらに深くハマりました。中学校から高校にかけてはギリシャの神々のオリジナル物語を創作していました。今描いているゼウスはその時とキャラデザや性格がほとんど同じです。

一度は離れましたが大人になってもう一度ハマり、またしても自然と神々のお話を創作し始めました。そういう性(さが)なんだと思います。

エジプト神話は、連載デビューを目指した企画会議で担当さんから「エジプト神話いいよ」と提案されて、少し調べたところものすごく面白くてあっという間にのめり込み、結果的にデビュー作がエジプト神話の物語になりました。「落ちぶれゼウスと奴隷の子」はギリシャの神々と古代ギリシャの人々メインの話ですが、奴隷の子ではあるチェトはエジプト人です。エジプトの人々や神々とも関わっていけたらなと思っています。

――尾羊 英さんの今後の展望や目標をお聞かせください。

この作品はキャラ数も多くそれぞれに思惑や結末があるので、しっかり描き切りたいです。

また、今はこちらともう一つ「ふつつかな悪女ではございますが」のコミカライズ連載もしています。体調やスケジュール管理をしっかりして、途切れることなくどちらの連載も続けていけたらなによりです。

――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。

いつも応援してくださり本当にありがとうございます。へこたれたり落ち込んだりして何度も「もうダメかも」と思ってもその度に立ち直れるのは頂いたご声援のおかげです。本当に…!

応援やご期待に添えるようこれからも頑張ります!

強くなるのは恥…?尾羊 英さんの『落ちぶれゼウスと奴隷の子』が話題/(C)尾羊 英/朝日新聞出版