昨今、クレームの域を通り越した「カスハラ」が社会問題化しています。クレームには自社の商品・サービスの改善のヒントが眠っていることもあります。しかし、過度なクレーム・カスハラに対応する職員の精神的負担は計り知れません。本記事では、CSマナー・クレーム対応の第一人者である古谷治子氏が、著書『カスハラ・クレーム対応 最強ノート』(ビジネス教育出版社)から、カスハラ・クレーム対応の方法について解説します。

怒りに至ったお客様の心理を理解しましょう

◆第一の被害者はお客様の方である

接客に携わる方々からご相談を受けると、多くの方が「クレームは厄介なことを言われる辛い仕事」と感じておられます。

たしかに苦情対応はダメージを伴う仕事ではありますが、神経をすり減らす原因の一つは、自分を被害者だと感じているからではないでしょうか。

「自分が悪くないのに、なぜこんなことを言われないといけないのか」と、お客様を加害者のように捉えていませんか。

ここでは、お客様の怒りを理解するために、2段階で怒りの感情を整理してみましょう。

お客様は商品やサービスへの期待が裏切られて残念に思っています。

これが「1次感情」。そしてクレームで怒るのは、「2次的な感情」です。

楽しみにしていた商品が壊れていた、電子マネーが使えず必要な買い物ができなかったなど、残念さを訴えるために怒りを用いるわけで、クレームの現場では、被害者はお客様の方です。

◆お客様は問題が起きたから腹を立てている

人は納得のいかない状況に陥ると、とりあえず文句を言いたくなるもの。本人が気づかなくても、怒りを吐き出したくなるのです。

喜怒哀楽のうち「怒り」が厄介なのは、一旦怒りを覚えると吐き出すまでなかなか収まりがつかなくなるからです。

最初は冷静に話していたお客様でも、対応する側が早くクレームから逃れようとして、話を十分に聞かないまま、説明や弁明に走ると、一気に怒りが爆発してしまいます。そして、必要以上に不満の言葉を浴びせてしまうのです。

クレーム対応の初期段階で行うべきは、お客様の残念な思いを受け止めること。お客様が最初に聞きたいのは、謝罪の言葉です。

急がず、焦らず、お客様の気持ちに寄り添って謝罪の言葉を伝えれば、一気にクレームの場がクールダウンします。

お客様の心情に気づけば、「今できることは何だろう」と自分ごとのように考えることができ、対応する側の気持ちも楽になります。

お客様の不満に焦点を絞ってお詫びする

◆話をすべて聞かないままの「全面謝罪」は危険

初期対応では謝罪が大事、と言われても、クレームの場で最初にお詫びすることに抵抗を感じる人は少なくありません。

実際に窓口対応の方々からは、「こちらに非があるとは限らないのに」、「最初に謝ってしまうと全面的に相手の言い分を聞かないといけなくなってしまうのではないか?」、あるいは「訳もわからないまま頭を下げると、かえってお客様を怒らせてしまいそう」というご質問をよく受けます。

たしかに欧米では、弁済や弁償請求を認めることになるため、簡単に謝らないほうが良いともいわれます。

しかし、クレームが発生した時点で唯一わかっていることは、お客様が不満に思っているということ。適切に謝罪するのは基本中の基本です。

とはいえ、話をきちんと聞かないまま、「すべてこちらの責任です」と、頭を下げてしまうのは危険です。受け止め方によっては非を全面的に認めることになってしまいます。

◆お客様の話に集中して「部分謝罪」する

適切な謝罪とは、「お待たせして申し訳ございません」「ご案内が行き届かずご迷惑をおかけしました」というように、お客様が不満に思っていることにポイントを絞って「部分(的に)謝罪」(限定付き謝罪ともいう)することです。

クレームが発生するとお客様は対立の態勢になりがち。ですから、最初に謝罪することで、スタート地点に立てると思ってください。

お客様の言葉に圧力を感じることがあるかも知れませんが、その状況から早く脱出するためにも、部分謝罪は有効です。適切にお詫びすることでお客様の怒りを一旦落ち着かせ、冷静に話ができる状況へと進めることができます。

どこに謝罪の焦点を当てるのかを見極めるには、お客様の話をしっかりと聞くこと。

丁寧に耳を傾けることは、商品やサービスにどんな問題が起こったのかを探る上でも重要です。

古谷 治子

マネジメントサポートグループ

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)