動画編集ソフトとして広く利用されている『Adobe Premiere Pro』に、新機能「文字起こしベースの編集(Text-Based Editing)」が追加された。現在はベータ版として提供されている機能だが、既存のユーザーはすでにこの機能にアクセスすることができるのでぜひ触ってみてほしい。単なる「ソフトウェアのアップデート」にとどまらない衝撃的な機能だということがわかるはずだ。

【画像】まるでテキストエディタかのように動画編集をおこなえる

・「文字ベース」で動画編集をすることの恩恵とは

 「文字起こしベースの編集」は、動画内の音声を『Adobe Premiere Pro』が自動で認識して文字起こしを行い、そのテキストデータを利用して編集作業を行う機能である。起こされたテキストは動画の時間軸に応じて縦に並び、そのテキストをクリックするとタイムラインが瞬時に移動する。

 特定の単語やフレーズを含む部分を探す際には、キーワード検索機能を利用することもできる。『Adobe Premiere Pro』でこの機能を利用しているときのウインドウは、まるで高性能なテキストエディタのようだ。これまで動画編集において特定のシーンを探し出すには手動でタイムラインを眺めながら探していたわけだが、この機能を利用することで、簡単に特定の箇所を見つけ出すことができるようになったわけだ。

 また、文字起こしに基づいて行う動画編集作業では、その編集は映像・音声と連動する。たちえば不要な箇所をカットする際には、該当部分のテキストを削除するだけで、自動的にその部分の映像・音声もカットされる。人の話す動画など、未編集の段階では「あの~」といった不要な言葉を発しているシーンが多いものだが、文字ベースでこうした不要部分を見つけ出し、ザクザクと編集していくことも可能だ。

 さらに、この機能は外部の音声トラックにも対応しており、例えばインタビューなどの場合、専用の音声ファイルを用意しておいて、それを文字起こしして編集作業を進めることができる。

・数多の可能性が生まれるアップデート

 特に人が言語を話しているようなコンテンツを作るには最高のアップデートだ。とりあえず『Adobe Premiere Pro』に読み込むだけでシーンに応じた最適な文字量のキャプションを生成できるのに加えて、多言語字幕を生成することもこれまで以上に簡単だ。

 加えて個人的には、これまでの「動画編集」という作業の工程・工数をまったく根底から変えてしまう衝撃的なアップデートだと感じる。編集作業がよりスムーズかつ効率的に行えるようになるのはもちろんのこと、例えば、特定の部分をカットする必要がある場合、テキストを編集するだけで自動的に動画がカットされるというのは、以前の動画編集にかけていた作業工程を考えるともうまったく別の作業だといっても過言ではないだろう。

 また、単なる業務効率化の面だけでなく、アクセシビリティの面でもすばらしいアップデートだと感じる。特に聴覚にハンディキャップを抱えるようなクリエイターにとっては、耳が聞こえなくても動画編集をできる場面が増えるかもしれない。

 「文字起こしベースの編集」は、従来の編集作業に比べて、より効率的かつ正確な作業が可能となり、編集作業のストレスを軽減することができる画期的な機能と言える。この他にも、「自動トーンマッピング機能(異なるカメラで撮った映像の色合いを自動的に調整できる機能)」などのアップデートが行われているので、『Adobe Premiere Pro』のユーザーはぜひ試してみたうえで、これらの機能の活用方法と、その可能性について考えてみてほしい。
(文=白石倖介)

動画スクリーンショットより