消費税の「インボイス制度」の施行が2023年10月1日に迫っていますが、施行により電気代が値上がりすることになりそうです。一見関係なさそうですが、なぜでしょうか。問題点とともに解説します。

なぜインボイス制度が「電気代値上げ」につながるのか?

消費税の「仕入税額控除」とは

なぜ、インボイス制度が施行されると電気代値上げにつながるのでしょうか。

それを理解するには、前提として、消費税の「仕入税額控除」の理解が必要です。

消費税は、事業者が納税義務を負う税金です。ただし、年間売上高が1,000万円以下等の一定の要件に該当する事業者は「免税事業者」であり、納税義務を負いません。

そして、消費税の計算方法には以下の2種類があります。

消費税の計算方法】

・仕入税額控除(本則課税)

・簡易課税制度

このうち、「仕入税額控除」(本則課税)は、年間売上高5,000万円以上の事業者に適用される計算方法です。

「売上金額」に含まれる「消費税相当額」から、「仕入額」に含まれる「消費税相当額」を控除し、その額を納税するというものです。所得の計算において「売上」から「経費」を差し引くのと同じです。

消費税インボイス制度とは何か

次に、消費税インボイス制度についても簡単に説明します。

インボイス制度は上述した「仕入税額控除」に関するルールです。仕入税額控除を行うには、仕入の際に「消費税相当額」を支払ったことを証明する資料として、仕入先からインボイス適格請求書)を受け取る必要があります。

インボイスを発行できるのは、消費税の「課税事業者」のみです。年間売上高1,000万円以下の「免税事業者」は「インボイス」を発行できません。

◆「インボイス制度」が「電気代値上げ」につながるしくみ

では、インボイス制度がなぜ電気代の値上がりにつながるのでしょうか。

これは、「FIT(固定価格買取制度)」と関わっています。

FIT」は、太陽光発電設備によって発電された「余剰電力」を、電力会社があらかじめ決まった価格で買い取る制度です。

FIT」で電力を買い取っている大手電力会社は、売上高の規模からして、すべてが消費税の計算について「仕入税額控除」を行っています。

これに対し、「FIT」で余剰電力を電力会社に販売している「売電業者」の多くは、消費税の「免税事業者」です(ちなみに、一般家庭の場合はそもそも事業者ではないので、消費税の課税対象外です)。

したがって、インボイス制度が施行されると、電力会社は、電力を買い取る際に、免税事業者である「売電業者」からインボイスを受け取れず、「仕入税額控除」ができなくなってしまうのです。

これによって、電力会社には、従来であれば「仕入税額控除」できていたはずの金額について、損失が発生することになります。

そして、現在、その損失を電気料金値上げによってカバーすることが検討されているのです。

その内容は、電気料金の一部である「再エネ賦課金」(再生可能エネルギー発電促進賦課金)に上乗せして、一般契約者から徴収することでまかなうというものです。

電気代の値上げは「総額58億円」

では、電気代はインボイス制度施行の影響でいくら値上げされるのでしょうか。

2月17日の衆議院財務金融委員会における資源エネルギー庁長官の答弁によると、「仕入税額控除できないことにより『やむをえず』発生する負担」の額は以下の通り、総額58億円です(議事録参照)。

・10kW/h未満の太陽光発電設備:15億円

・10kW/h以上の太陽光発電設備:39億円

・その他の再生エネルギー:4億円

そして、これを基に試算すると、「1kW/hあたり0.007円」の値上げになるとのことです。

ただし、この試算はあくまでも「機械的に行ったもの」だといいます。

東京商工リサーチによると、2023年4月時点でのインボイス登録は、法人が90%を超えているのに対し、個人事業主はまだ42.3%と半分にも達しておらず、進捗がはかばかしくない現状がうかがわれます。そのことからすれば、いざインボイス制度が施行されると、この金額はさらに大きくなる可能性があります。

他の事業者との間で公平性を欠く疑い

また、他の事業者との間の公平を欠くのではないかという問題点も指摘されています。

インボイス制度が施行された場合、免税事業者との取引において従来通りの「仕入税額控除」ができなくなり、損失が発生するのは、大手電力会社だけではありません。

しかるに、大手電力会社に対してだけ、電気料金への転嫁という形で損失の補てんを行うのは、公平性を欠くとの指摘がなされているのです。

経済産業省・資源エネルギー庁の回答は?

これらの問題点は、いずれも、2023年2月9日3月10日に行われた意見公募手続(パブリックコメント)において、多数の人から提起されたものです。

これに対し、経済産業省・資源エネルギー庁からは、以下の回答が行われています(意見公募手続結果参照)。

経済産業省・資源エネルギー庁の回答】

「法律に基づく再エネ電気の買取業務を行う中で、仕入税額控除ができないことにより、やむを得ず生じる、買取に要する追加的な費用については、法律に基づく再エネ電気の買取業務の継続が困難とならないよう、資源エネルギー庁審議会における公開の議論を経て、2023年度についてはFIT制度において対応することが取りまとめられました。今般の改正内容は、こうした審議会における取りまとめを尊重したものとなります。」

「引き続き、課税事業者のインボイス登録に関する周知等を通じて、インボイス制度の導入に伴う買取に要する費用への影響の抑制に取り組むとともに、2024年度以降の負担のあり方については、審議会での議論を通じて丁寧に検討してまいります。」

この文面を読む限り、2023年度についてはいったんFIT制度の枠内で対応するものの、2024年度以降については今後検討するとも解釈できます。寄せられた多数の意見に対する一定の配慮がみてとれます。

しかし、このままインボイス制度が施行されれば、結局は、それにより電力会社に発生する損失を誰がどのようにして負担するのかという問題は避けて通れません。

インボイス制度については、従来の免税事業者に著しい不利益が生じることや、課税事業者の側でも新たな事務負担が生じることなど、様々な問題点が指摘されています。

国会・政府には、インボイス制度の問題点を正面から受け止め、制度自体の見直しも含め、現実的かつ柔軟な対応を行うことが求められます。

(※画像はイメージです/PIXTA)