ゴールデンウィークやお盆休み、年末年始などの連休は、多くの人が楽しみにしている時期。その反面、連休明けのことを考えると気分が落ち込んだり、うつ気味になる人も多く注意が必要です。常に一定のモチベーションを保つのは、決して簡単なことではありません。日頃から厳しい練習を積み重ね、心身ともに酷使し続けるアスリートです。彼らは、世間一般的に”メンタルが強い”と思われています。しかし才能と鍛錬を積み重ねたトップアスリート同士の戦いは、ほんの僅かな気持ちの強さの差で勝敗が別れるものです。

独特のプレッシャーの中でストレスを感じ、アスリートならではの心の問題を抱え込んでしまうことがあります。近年では、有名アスリートがうつ病であることを公表。メンタルを重要視する海外アスリートは、トレーニングやケアを欠かさず行っています。日本人アスリートにとってもメンタルケアは、パフォーマンスの結果を左右するほど大きな課題となってくることは間違いありません。今回は、アスリートが陥りやすい”燃え尽き症候群バーンアウト)”についてお話します。

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”侮れない心の病”、燃え尽き症候群(バーンアウト)

1980年アメリカの心理学者であるハーバート・フロイデンバーガーによって提唱された”燃え尽き症候群バーンアウト)”です。高い意欲を持っていた人が何らかの原因によってある日突然やる気を失い、文字通り燃え尽きたかのように無気力になってしまう状態のことです。

医学的には、うつ病の一種にとして分類されています。例えば、責任感を持って練習に取り組んでいた人が急に手抜きをするようになったり休みが増えるような状態があれば、燃え尽き症候群に陥っている可能性が高いと考えられます。また努力したにも関わらず、見合った結果が出なかった時、逆に掲げていた大きな目標を達成したあとなどに現れやすいのが燃え尽き症候群です。

この言葉は、数年前まで医学用語として使用されず一つの概念でしかありませんでした。しかし慢性的な職場ストレスにより、健康状態に影響を及ぼすことも考えられ、30年ぶりに改定された国際疾病分類の定義で記載されるようになったのです。この診断をもとに”うつ病”や”適応障害”として病名がつけられています。

燃え尽き症候群に陥る原因は、心身の不調やストレスが主な要因だと言われています。例を挙げるとチームでの人間関係や休息を取れないまま気持ちがすり減り、練習に追い詰められているなどです。『エネルギーがなくなるほどの疲労を抱えてしまう』また『練習や試合に対しての達成感が無くなる』さらには『チームから離れたい気持ちが強くなる』などの状態です。

周囲から見ても『あんなに熱意があった人がなぜこんな状態になるのか』と驚くほどの急激な心情の変化が起きてしまいます。燃え尽き症候群は、決して侮ってはいけない心の病なのです。

”メンタルの強さは関係ない”、陥りやすい人の特徴

メンタルの強さに関わらず、突然患うこともある燃え尽き症候群です。陥りやすい人の特徴としては、真面目な人や完璧主義者のように仕事に手を抜いてこなかった人が挙げられます。また周囲の人とのコミュニケーションも丁寧にこなしてきた人や精神的に追い込まれるほど厳しい練習のノルマをこなしてきた人、チームの中心となっている人などです。

どのタイプの人にも当てはまる共通点は、競技で受けたストレスを上手に発散できていないこと。なかには、”ストレスを溜め込んでいる”という自覚さえ無い人もいます。

燃え尽き症候群に陥った人が感じる具体的な症状として大きく分けて3つあります。

まず1つ目に”情緒的消耗感”です。

”情緒が消耗する”との文字通り、競技に対しての情熱が燃え尽きて熱意や意欲が低下してしまっている状態。例えば『今まで楽しいと感じていた競技がつまらないと感じてきた』または『練習に精一杯になりすぎて心身ともに疲れ果てた』と感じてしまいます。

2つ目に”脱人格化”です。

”人格を脱する”との文字通り、それまでの人格がまるで嘘だったかのように周りに対して攻撃的になり思いやりのない態度な状態。例えば『チームメイトなどの顔を見るとイライラするようになった』または『いつも自然とできていた周囲への気配りをしたくない』と感じるようになります。

3つ目に”個人的達成度の低下”です。

今まで試合で得られていた達成感が失われてしまう状態です。試合を終えても達成感が得られなくなり、競技に対しての有能感も消えて自己否定の気持ちさえ生まれてきます。反対に燃え尽き症候群になりにくい人は、競技とプライベートはキッパリと分けることができます。そして上手に息抜きをしている人や一人では抱え込まずに周囲を頼れる人などストレスを溜め込んでいない人なのです。

心掛ける対処法

目標を達成した後などにもアスリートが陥りやすい燃え尽き症候群。ストレスを溜め込まないことが一番良いことですが、なかにはストレスを抱えているという自覚がない人もいます。そして燃え尽き症候群や心の病に陥らないための克服方法は、単にメンタルを鍛えれば済むというわけではありません。

メンタルヘルスを良好に保つために必要なのは、レジリエンスという能力を身につけることが効果的です。レジリエンスとは、ストレスを抱えた時や失敗などをしても自己回復力や適応力で精神的な弾力性を維持できる能力です。そして適切に対応でき、困難な状況からも立ち上がる能力でもあります。

元々の語源は、生物学用語として使用されていた”復元力”から来たものです。約40年ほど前に研究され始め、現在のように”精神的回復力”という意味を持つようになりました。研究の結果、高いレジリエンスを持つ人が備えていたのは3つの能力。

まず1つ目に緩衝力です。緩衝力は、ストレスなどの要因が心に与えるネガティブな影響を緩和する能力。

2つ目に適応力です。目まぐるしく変わる外的環境の変化にも柔軟に対応する能力。ストレスとなる出来事を成長の糧と捉え、自分の見方や考え方を転換させる能力でもあります。

3つ目に回復力です。辛く苦い経験からでもスムーズに元の状態に戻せる能力。

レジリエンスを鍛えることで”心の免疫と言われるストレスへの免疫力”、”心の柔軟性と言われる変化適応力”、”心の筋肉と言われる目標達成力”を得ることができます。アスリートのようにメンタルを強くしたいと考える人が身につけるべき能力は、レジリエンスなのです。

今後もアスリートにとってパフォーマンス向上に役立てていただけるような情報を発信していきます。

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。

アスリートも要注意、うつ病にも発展する燃え尽き症候群