2019年9月から活動を開始した、VTuber・LUCAS(りゅか)をご存知だろうか。儚くも美しい独特の世界観が注目を浴び、また本人もVRoid(※1)モデラーとして、VSingerとして、あるいは配信者として、マルチな活躍を続ける気鋭のVTuberだ。

(※1)「VRoid」:pixiv社が提供する3Dモデリングソフト『VRoid Studio』で制作することができる3Dアバターのこと。

 2020年6月に1stシングル「創造」で“光れなくなった光”たる自身の世界観を発信すると、その後もコンスタントに楽曲をリリース。同年8月からは同じくVSingerとして活動するPolaris Noxポラリスノクス)と共にユニット「LUMINOX(ルミノックス)」を結成。2022年3月にはホロライブ獅白ぼたんが「創造」をカバーするなど、シンガーとしてもその名前が知れ渡り始めるなか、9月にはアルバム「新世界」をリリース。着実にステップアップを重ねている。

【画像】儚さと美しさを両立した世界観が特徴のLUCAS

 それだけに留まらず、VRoidモデラーとしても自身のオリジナルブランド「MONARCH」を展開するなど、全方面にわたって精力的な活動を続けるLUCAS。もともとは絵の領域で創作活動をしていたという彼女がシーンに飛び込んだきっかけや、4年の活動を通して変わったこと、世界観を表現し続ける創作論について、話を聞いた。(編集部)

・VTuber・VSingerとしてのデビューは“勢い”から始まった

ーー「LUCAS」としての活動を始めたきっかけを教えてください。

LUCAS:もともと絵を描く活動はしていたんですが、とにかく新しいことを始めたいと思って始めたのがVTuberだったんですよ。なので、VTuberの存在自体は知っていたものの、実はこれっていう理由はないんです。そこから9月にTwitterアカウントを作って、最初はLive2Dアバターを作ろうと思っていたんですが、デジタルのイラストは描けなかったので、もっと簡単なソフトを探して見つかったのが『VRoid Studio』でした。実際に使ってアバター製作をしてみたらかなり楽しかったので、その勢いのまま4日後にデビューした記憶があります。

 活動を始めて半年後くらいに、友達のVTuberさんにVRoidアバターを作ったんですよ。そうしたら、すごく反響が良くて。その方が「製作依頼を受け付けてみたら?」と言ってくれて、そこから依頼を受け始めました。

ーーモデラーとしての制作技術は、独学で学んだんですか?

LUCAS:そうですね。今年で活動4周年を迎えるんですが、活動を始めた当時は、『VRoid Studio』の勉強資料みたいなものがなかったので、独学でやっていました。当時はVTuberのモデラーとして活動する人自体が少なくて、VRoidモデラーもほとんどいませんでしたから。

ーー活動4年の中で、新たに取り組み始めたことなどはありますか?

 LUCAS:歌を始めたことですね。もともと音楽活動の経験がなかったんですが、VTuberってみんな歌ってるイメージがあって。活動を続けていくうちに、自分も歌ってみたいと思い始めたんです。その先駆けが、VTuberのコンピレーションアルバムへの参加でした。実は、アルバムへの参加が決まった時にテンションが上がってしまって、勢いで作曲家さんを探して、コンピに出る前にオリジナル楽曲を作っちゃったんですよ(笑)。それが初のオリジナル楽曲『創造』です。

ーー心境の変化で活動内容が変化したということではなく、「いろんなことに挑戦していこう」という、活動を始めた理由とも合致する部分だったんですね。『創造』の制作時のエピソードや、苦労した点などがあれば教えてください。

LUCAS:楽曲自体は作曲家さんにメロディーを考えてもらって、作詞は自分でしました。でも、作詞をすると詩的な文章になりすぎてしまったんですね。なので、いまになって振り返ると最初の方はあまり歌詞が良くなかった気がします。

 それと、VTuberで音楽やってる方々は、学生時代にバンドをやられていたという方も多いじゃないですか。自分はそんな経験がなかったので、数年間はコンプレックスを感じながら活動していましたね。

ーーいまでは自信を持って活動されていらっしゃるようにみえますが、そういう時期もあったんですね。コンプレックスというのは、音楽をやってこなかったことに対してですか?

LUCAS:音楽をやってこなかったこともそうですし、そもそも歌がすごく下手なんです。何より自分の声が好きではなくて。「楽しそう」で始めたのはいいものの、すこしずつ数字が増えていくにつれて、他のVTuberの方も目に入るようになるじゃないですか。それでどんどん気になるようになっちゃって……。2年間くらいは本当に大変だったんですけど、今はハッピーなんで全然最高です(笑)。

ーーそうしたコンプレックスを克服できた要因はなんだったんでしょう?

LUCAS:純粋に歌が上手くなって自信がついてきたのかなと思います。ボイストレーニングに通っているわけではないんですが、歌いつづけていたらすこしずつマシになってきました。上手くなったというよりかは、自分の声に聞き慣れてきたというのもあるかもしれないです。

ーー今年4周年を迎えて、今までの活動を振り返って印象深い出来事って何かありますか?

LUCAS:一緒に制作をしているクリエイターの方々にも嬉しい出来事が起きたことですね。普段、音源のミックスはchammyさんという方にお願いしていて、ロゴの制作も固定で同じ方にお願いしているんです。基本的にオリジナル曲の音源もchammyさんか阿部直樹さんという方にずっとお願いしていて、そうしたら依頼する度に「LUCASさんのおかげで依頼が増えました!」って毎回言ってもらえて。それがすごく嬉しいです。やっぱり自分もクリエイターなので、同じクリエイターの方にも良いことが起きて、そうやって喜んでくれているのは嬉しいです。

・大きな影響を受けたのはシンガーのAURORA 「早くこの境地にたどり着きたくてしょうがない」(LUCAS

ーーいまの音楽活動に影響を与えているアーティストや楽曲はありますか?

LUCAS:一番影響を受けたのは、AURORAというノルウェーのシンガーソングライターで、LUCASとして活動を始める前からずっと好きなんです。もともと『Queendom』という曲から彼女のことを好きになったんですが、あまりにもその曲が好きすぎて、VRoidの手首に曲名をタトゥーで入れています。

 最近「Cure For Me」という曲がTikTokでめちゃくちゃバズったらしくて、嬉しかった一方で「LUCASはずっと前からファンだぞ」と思いながらずっと応援しています(笑)。

ーーどういった所に惹かれたんでしょう?

LUCAS:LUCASは、基本的に歌詞よりも楽曲の旋律自体で聴くかどうか決めるんですが、AURORAの楽曲は、旋律ももちろん、歌詞もめちゃくちゃ好みなんです。たとえば、「The Seed」という曲は歌詞にインディアンの格言を引用していて、これが本当にすごくて。〈最後の木が切り落とされて、最後の魚が食べられて、最後の川が毒された時、やっとお金が食べられないことに気づくだろう〉という詞なんですが、23歳でこれを引用して歌詞を作れるのはわけがわからなくないですか……。

ーー特定のジャンルというよりは、アーティストの世界観や感性みたいなところに惹かれているんですね。

LUCAS:そうですね。LUCASが目指している形はここな気がする、と思って活動しています。AURORAって、基本的に世界平和を歌っているんですが、LUCASが書いている詞って、こじんまりとした世界観に収まっちゃっているから……早くこの境地にたどり着きたくてしょうがないですね。

ーーAURORA以外ではいかがでしょう?

LUCAS:昔からKOKIAが大好きです。ケルト系の曲を聴くのがもともと好きで、調べていると必ずKOKIAが候補に出てくるんですよ。それがきっかけだったと思います。

 『ドラゴンネスト』というMMORPGのPVに使われていた「Road to Glory~for Dragon Nest」という曲を聴いて、こんな声でこの世界観を醸し出せる人がいるのか……と衝撃を受けました。

 自分の世界観が「独特で好き」と言ってくれる方がたくさんいらっしゃるんですが、多分それは、流行りの曲を知らないがゆえの無知から生まれてくるものじゃないかなとも思っています。

 ちなみに、KOKIA世界平和を願っているんですよ。それも踏まえると、やはり改てLUCAS世界平和を訴えていきたいと想います。世界平和を訴えることができるということは、完全に自分と向き合い終わって、達観し終わったあとじゃないですか。

ーー願いや祈りといえば「GASSHOW」のカバーもアップロードされていましたね。

LUCASRADWIMPSの野田洋次郎さんが個人名義でやっている、illionの「GASSHOW」ですね。初めて聞いた時、実はRADWIMPSを知らなかったんです。LUCASとしての活動を始めたばっかりの頃、歌動画もまだ全然上げてなかった頃に、初めてアカペラで出した曲がこれだったんですよ。

 この曲って曲調、ハモリの取り方、歌詞全てが最強なんですよね。やっぱりここまでパワーがある人が歌ってこそ、本当の祈りの曲になるよなっていうのをひしひしと考えてしまうくらい、衝撃を受けましたね。

ーーLUCASとしての活動が始まって以降、影響を受けたアーティストはいますか?

LUCAS:花譜ちゃんですね。世界一可愛いVSingerですよ。あの可愛い声で、あれだけ力強い歌い方ができて、めちゃくちゃ感情が乗っているのも伝わってくる……本当にいいなって思います。個人的には、「危ノーマル」という曲がめちゃくちゃ好きで。あれほど背中を押してくれる曲はないと思います。

・「少しずつみんなの言葉が自信に繋がって、自分の作品に対して、ネガティブな感情を持たなくなった」(LUCAS

ーーソロで活動しながら「LUMINOX」というユニット結成した経緯はどういったものだったんでしょうか?

LUCAS:もともとプライベートで仲が良かったのも大きいんですが、ポラちゃん(Polaris Nox)は芯のある歌声で、逆にLUCASは芯のない声をしてるので、合わさったらすごくバランスが良くなるんじゃないかな、と思ったのが1番ですね。「これはあまりにも相性がいいんじゃないか」と思っちゃって。

ーーソロでの活動も並行していらっしゃいますが、どういう棲み分けを?

LUCAS:ソロとLUMINOXでは系統が違うので、ソロとユニットで分けたというよりかは、それぞれやりたいことを残したかったんですね。あくまでユニットは楽しんでやろうって思っていて、高みを目指そうとかは思ってないです。自分たちのペースで楽しく、お友達と仲良くやっていこうみたいな感じですね。個人ではでお互いに自分たちの世界観を大切にして、LUMINOXでやるときは、好みが合うものをまた別でやろうみたいな。

ーー音楽活動における一貫したこだわりや、逆に変化していったことなどはありますか?

LUCAS:ソロに関しては、最初は楽しいだけでやってたんですよ。作りたいものをそのまま作るみたいな。ただ、LUCASは純粋な音楽だけで勝負できるほど、歌が強くないんですよ。だから、MV、イラスト、モデル、衣装や自分の声とか、全部を合わせて完璧にした音楽体験を提供したいんです。

 ただ、昔はそうは思ってなくて、人のために歌おうとかも全く思ってなかったし、『創造』の歌詞なんて、自分のネガティブなところがよく出ている歌詞だな、といつも思うんですが、LUCASは基本的に何を作るにしても嫌な出来事を消化するために創作をやっていて、自分は人と話してる時に、何でもかんでも相手に合わせて喋っちゃう人だから、創作だけが唯一“何でも許される場所”なんですよ。だから音楽もその消化の一環として発表していたんですが、その消化活動が最近終わってきたなって。

 消化するほど嫌なこともなくなってきたんですね。たぶん、ちょっとずつ4年間のVTuber生活で鍛えられたんじゃないかと思うんです。VTuber界隈って、作り手にとても優しいじゃないですか。LUCASはこれまで創作で優しくしてもらったことがなかったから、それで少しずつみんなの言葉が自信に繋がって、LUCASも自分の作品に対して、ネガティブな感情を持たなくなったりしました。

ーー楽曲でいうと、どのあたりからそういう思考に変わったんですか?

LUCAS:3周年でリリースした『新世界』ですね。前より筆が軽くなったというか、気の迷いみたいなものがなくなりましたね。作るという行為自体は苦痛に思わなくて、一生何かを作って一生それを出すっていう作業みたいになっているので、むしろ幸せかもしれないです。

 前みたいに「ネガティブな要素や怒りをクリエイティブに落とし込む」ということをずっとやっていたら、本当に病みそうな気がします。実際、去年か一昨年あたりに本当にもうダメなんじゃないかというくらい病んでいた時があったので、変われてよかったと思います。

ーーこれまでリリースしたオリジナル楽曲で、印象深いのはどの曲でしょう?

LUCAS:『創造』になっちゃうのかな。いや、『ベールを纏う』も好きなんですよね……。改めて歌詞を見ると、すごくネガティブな割に、前を向こうと頑張っているなって毎回思います。

 でもやっぱり『創造』が1番等身大の自分に近いんじゃないかなって気がします。初めて作ってもらった曲で、初めて自分で作詞した曲なので粗削りではあるんですが、本当に“素のままの自分”が出ていて、いいなって思います。ネガティブだし、人に言い返したりも何もできないような不器用な性格なんですが、何言われても絶対流されないんですよ。

ーーオリジナル楽曲ができるまでにどのくらいの時間を要するんでしょうか。

LUCAS:楽曲自体は、大体1~2週間で完成します。MVが入ってくると、3DのMVで2、3ヶ月……イラストだけだったら1ヶ月くらいですね。これまでのクオリティーを維持して作っていくとなると、どうしてもコンスタントにというか、短いスパンで出すのは難しいですね。『新世界』を出しちゃったから、もうクオリティを落とせないんですよ(笑)。

 楽曲自体は、7曲ほどストックがあるんですけど、一生MV制作が終わらなくてずっとリリースできないみたいな状態になっています。外部に頼んで作ればいいとは思うんですが、結局「自分で衣装もやりたいし、デザインもやりたいし……みたいになってしまうから「クリエイターってVTuberをやるべきじゃないのかな」なんていつも思ってしまいます。

ーーMVに関しては、どんなこだわりを持って制作していますか?

LUCAS:VTuberって基本的に自分で身体を作っていない限り、基本の衣装があって、その衣装でステージに立つ感じの方が多いと思うんですが、LUCASは毎回服と髪型を全て一新しています。

 VTuberとしてのMVというよりかは、本当にリアルの人間、実写の人たちみたいに、完璧にコンセプトが練られた状態のものを出したいとずっと思っていて。予算の都合でイラストのみになってしまう時もあるんですが、基本は背景美術からメイク、髪型、衣装に至るまでの全てを完璧に自分で監修したものにしたい、といつも思っています。

 なので、いつも違う衣装をポンポン作っているんですが、LUCASのイメージから外れすぎず、でも外れたいっていう、葛藤を繰り返しながら作っているんです。VTuberさんって基礎のイメージがちゃんとあって、その世界観を表現してる人が多いから、逆にそこはブレてもいいのかなって思いつつやっていますね。

ーーどのMVもすごいなと思うんですが、特に『新世界』を初めて見た時は衝撃を受けました。

LUCAS:『新世界』は、自分の中でもかなり良いラインに乗れたなと思っています。バーチャルも大切にしたいし、実写的なリアルさも欲しいって考えた時に、かなりベストなポジションの作品を作れました。

ーー今後MVを出していく上で、挑戦してみたいことってありますか?

LUCAS:モーションをフルトラッキングで撮ったコンテンポラリー系のダンスMVを出してみたいなと思っています。振り付けも自分で考えて……最近、体力が落ちまくっているので、どこまで踊れるんだろうとは自分でも思うんですけど(笑)。

ーーちなみにMVは、構想も含めるとどのような流れで出来上がっていくんですか?

LUCAS:楽曲によりますね。何も考えていないまま曲だけを用意して、ギリギリで後付けのMVができることもあります。逆に『新世界』は、壮大なMVが見たいと最初に思ったので、それに合わせて壮大な曲を依頼しました。

ーーLUCASさんのメンタル面はまさにクリエイター気質だな、と思うんですが、そもそも業界内でモデラーとシンガーを両立してる人をあんまり見かけないですよね。

LUCAS:確かにあまり見かけないですね。もちろんいるにはいるんだろうけど、どちらかの活動に寄りがちな気がします。周年の節目などにオリジナル楽曲をリリースする、みたいな方はいるとは思うんですが、シンガーと名乗っているモデラーの方はほとんど見たことないですね。

ーー両方の活動を両立するのはかなり大変そうに思えます。

LUCAS:LUCAS自身も周りから見ると、VRoidの依頼を受けて作ってるVRoidモデラーとして認識されているかもしれません。けれど、元はLUCASのモデルを作って、オリジナル曲のために衣装を作ってMVを出しているので、双方の活動はワンセットなんですよ。VRoidと歌をそもそも分けてやってるって意識はないです。でも、かといって「LUCASは歌一本で売るぞ」みたいなことは1ミリも思っていないので、あくまで総合芸術として“そこに歌が必要だから歌を歌っている”感覚なんですよね。

ーー活動全体を通して、挑戦したいことはありますか?

LUCAS:これはずっと言っていることなんですが、自身のライブをやって、そこでVRoidモデラーを集めたランウェイを開催したいんですよ。都合がつかなくて、まだ実行できていないんですけど、技術的には可能だと聞いたので、VRoidのお洋服屋さんとVRoidのVTuberを集めて、ランウェイをやった後に自分個人とLUMINOXのライブをやるっていうのをずっと夢見ています。

 いわば「FAVRIC」のVRoid版ですね。配信なのか、リアルライブになるのかはまだ全然未定ですが、これが目下一番の目標です。あとは、衣装をこれまでたくさん作ってきたので、もうちょっと増やして、バーチャル上にポップアップストアを作ってみたいです。最近ステージ作りにハマっていて、その派生で自分のショップも作りたいなって思っています。

ーー他に展望はありますか?

LUCAS:一昨年くらいから去年にかけて、活動頻度が低かったので、もうちょっと真面目に活動しないといけないなって思ってます。オリジナル楽曲のリリース頻度をもう少し上げたいですね。直近はアルバムを1枚リリースしたんですけど、今度EPを出す予定なので、それを完成させたいです。
(取材・文=東雲りん)

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