カラパイアの元の記事はこちらからご覧ください

 東京まで約1時間…宇都宮駅東京駅を結ぶ新幹線の話でない。ニューヨークと東京を結ぶ飛行機の話だ。

 米国テキサス州に本社がある「ヴィーナスエアロスペース社(Venus Aerospace)」は、マッハ9で飛行する極超音速旅客機スターゲイザー」の開発を進めている。

 ”星を見る者”を意味するスターゲイザーは、12人の乗客を乗せて宇宙の暗闇が見えそうな高度まで上昇し、1万キロ以上ある東京・ニューヨーク間をたった1時間で結ぶことができる。

 最近、ヴィーナス社はその極超音速を生み出す「回転デトネーションエンジン」の試験に成功したそうだ。

【画像】 超音速機を超える極超音速機「スターゲイザー」

 全長45m、全幅30mの「スターゲイザー」は、超音速機ならぬ極超音速機だ。

 「極超音速(ハイパーソニック)」とは、音速の5倍を超えるスピード、つまりマッハ5(約時速6125km)以上のことだ。

 それを大きく凌駕するマッハ9で飛行するスターゲイザーは、それゆえに極超音速機なのだ。

 ちなみにかつて存在した超音速旅客機コンコルド」の飛行速度はマッハ2、ロッキード社が開発した史上最速の航空機「SR-71(通称ブラックバード)」ですらマッハ3.2だ。完成したスターゲイザーの圧倒的なスピードがわかるだろう。

[もっと知りたい!→]中国、マッハ5.5で核兵器を射出する超音速兵器「星空二号」の実験を実施

1_e

極超音速で飛行するスターゲイザーのイメージ image credit:Venus Aerospace

回転デトネーションエンジンを採用

 この極超音速は、1秒間に2万回転する「回転デトネーションエンジン」によって生み出される。

 ヴィーナス社の共同設立者アンドリュー・ダグルビー氏は、「回転デトネーションとは、エンジン内部で超音速燃焼を連続的に起こすこと」と説明する。

 「デトネーション」とは日本語に直訳すると爆轟(ばくごう)で、燃料が酸化剤と混合した後に燃焼したガスの膨張速度が音速を超えるスピードになる現象のことだ。

 ヴィーナス社が公開したエンジンの試験映像には、起爆波が超音速でエンジンの周りを移動する様子が映されている。

no title

 アメリカ海軍も推進する回転デトネーションエンジンは、従来のエンジンより20%燃費がよく、技術的にはすでに成功している。

・合わせて読みたい→人類史上最速記録を持つ物体はマンホールの蓋!核実験で宇宙へと飛ばされる

 ただしヴィーナス社が行った試験は、常温で保存できる燃料を使用したものとしては世界初。これにより回転デトネーションエンジンの実用化がよりいっそう近づいたことになる。

3

極超音速飛行の鍵を握るのが「回転デトネーションエンジン」だ / image credit: Venus Aerospace

地球の曲線が見える高高度を飛行

 ”星を見る者”と名付けられたスターゲイザーは、高度5万1800mと一般的な旅客機の5倍近い高度を飛行する。

 とは言っても、そこは厳密には宇宙ではない。宇宙とされるのは、海抜高度100km上空のカーマン・ラインより上なので、そこには届かない。それでも地球の曲線や宇宙の漆黒を目にするには十分な高さだ。

 カーマン・ラインは、海抜高度100kmに引かれた仮想のラインで、国際航空連盟 によって定められた。このラインを超えた先が宇宙空間、この高度以下は地球の大気圏と定義される。

 ヴィーナス社が機体の開発に着手したのは2020年のことで、開発資金として3300万ドル(現在の為替なら約45億円)の調達に成功している。

 同社は今後、全長6.1mドローンで極超音速飛行テストを行い、マッハ5を目指す。これに成功したのち、いよいよスターゲイザープロトタイプ製造に着手する予定だという。

 実現すれば東京・ニューヨーク間が1時間。夢のような話じゃないか。

Venus Stargazer Spaceplane, the Future of Hypersonic Flight

極超音速旅客機を目指すライバルたち

 なお極超音速旅客機の実現を目指す企業は、ヴィーナス社以外にもある。

 米国の企業としては、「Dream Chaser」を開発する宇宙企業シエラ・スペース(Sierra Space)社や、「Quarterhorse」を開発するヘルメス(Hermeus)社がある。

 また中国の凌空天行(スペース・トランスポーテーション)社は、時速7000km飛行し、ニューヨークから北京まで1時間で結ぶ12人乗りのジェット機を開発中だ。

 これほどの速度で移動する物体は、もうミサイルと言ってもいいかもしれない。

 また極超音速機ではないが、米国のヴァージン・ギャラクティック社は超音速旅客機で遠く離れた都市をつなぐ計画を進めている。

 2018年、同社のUnity 2はマッハ2.47に到達し、それまで最速の旅客機だったコンコルドの記録マッハ2.02を破った。

追記:(2023/05/25)本文を一部訂正して再送します。

References:Stargazer - Venus Aerospace / Meet ‘Stargazer,’ the Hypersonic Jet That Flies NYC to Tokyo in 1 Hour – Robb Report / written by konohazuku / edited by / parumo

 
画像・動画、SNSが見られない場合はこちら

東京・ニューヨーク間が1時間。新しい極超音速機「スターゲイザー」