華やかな暮らしに憧れて購入を決意することも多い「タワマン」。3年前にもひとり、部屋からの美しい眺望に魅せられ、タワマン購入を決断したひとりの独身女性がいました。しかし、購入後にほころびが出てくることも多々あって……。本記事では、FP1級の川淵ゆかり氏がタワマンを購入したAさんの事例とともに、独身女性の住宅ローンリスクについて解説します。

39歳・外資系化粧品メーカー管理職の独身女性、タワマン購入を決断!

Aさんは、月収65万円で外資系化粧品メーカーのマネージャーとして勤務する39歳女性です。

3年ほど前に「仕事もかなり順調だし、結婚はもうしないだろう」と思い、資産形成も考え、思い切って憧れの都心の1LDKのタワーマンションを約6,000万円のローンで購入しました。最初、Aさんはタワーマンションなど買うつもりはなかったのですが、予想以上に住宅ローンが借りられたことと、物件を内見したときの高階層の素晴らしい眺望に魅せられ、購入を決意しました。

Aさんは、日本中のデパートを回ったり、海外への出張もこなしたりとパワフルに仕事をこなしていましたが、新型コロナウィルスが猛威を振るったことにより、生活が一変してしまいます。外出自粛やマスク着用で、口紅をはじめとする化粧品の売り上げも大幅に落ち込んだことで、Aさんの収入への影響も出てしまい、就職して初めての年収ダウンを経験しました。

ですが、貯蓄もそれなりにあり、毎月の返済額も16万円程度でしたので、高所得者のAさんにはローン返済に頭を悩ますことはありませんでした。

住み始めてから徐々にほころびが…

国内や世界中を飛び回っていたAさんですが、出張や残業もほとんどなくなり、在宅勤務が増えたことで、これまでとは真逆の生活を送ることになります。

原因不明めまいが起きたり、朝はベッドから出られなくなったり、といった症状が出るようになります。明るかったAさんですが、人に直接会うこともほとんどなくなったせいか、自宅のリビングから美しい夜景を眺めても気持ちが落ち込むばかりです。最初は新型コロナの影響での生活の変化だと思っていましたが、どうも年齢的な問題もあるようです。気が付けば、40代も目前。体調に変化があってもおかしくありません。

収入ダウンを経験したこともあり、「この年収もいつまで続くかわからない」「もし、大きな病気をしたらどうなるだろう」「定年まではいられるかもしれないが、いまの地位はいつまでもいられないな」といったいろいろな考えが頭をよぎり、そういった不安でまた体調が悪くなってしまいます。

自粛や在宅でもうひとつ、困ったことが「電気代」です。出張や残業で家を空けることが多かったAさんですが、家にいることが多くなると電気代もかかるようになります。

「タワマンは眺めもいいですが、夏は暑いんですよ。夏場の日中の暑さは尋常ではありません。私の部屋は南西向きで午前中から暗くなるまでまでカーテン閉めていますが、そのせいで気持ちも塞いでしまいます。せっかくの眺めも台無しです。

それに、管理費も上がりました。内廊下ですから共用部分の照明や空調、高速エレベータなど、住んでみてわかりましたが、タワマンはけっこう電気を消費します。電気代の値上がりはかなり応えます。今年の夏も怖いですよ」

独身女性の住宅ローンリスク

筆者には10年ほど前から独身女性のマンション購入のための住宅ローン相談も増えてきました。

背景には、

・老後の安心のため、住み続けられる住まいを持ちたかった。

・マンションは資産として有利だと聞いたから。

・賃貸だと家賃がもったいない。

といった理由があります。たしかに納得の理由です。とはいえ、結婚している女性は夫婦で力を合わせて返済もできますが、独身ですと当然ながら1人で返済していかないといけません。

また、夫婦の場合、夫に万が一のことがあっても団体信用生命保険でローンの負担なく妻は住み続けられますが、独身女性は自分の責任で完済しないと住み続けられません。終身雇用制度が崩壊したといってもいいいま、Aさんの事例からもみてとれるように、独身女性は特に慎重に「生涯の住まい」と「仕事」について考えていかないといけません。

「家を買おう」と思っている時期は誰もが収入や仕事に不安のない時期ですから、将来のことをあまり考えず(考えているようで考えていない)に買う人も多いのですが、将来の収入ダウンや老後の生活も考えて返済金額や期間を決定する必要があります。

Aさんは6,000万円の変動金利型ローンを利用しており、毎月の返済額は約16万円ということでしたが、返済を始めてまだ3年しか経っていません。ローン残高は5,500万円以上もあるのと、返済完了の年齢は71歳です。この残高を60歳までに完済しようとするといまと同じ金利でも毎月の返済額は約24万円となります。長期のローンで返済額が抑えられ、いまは無理がないと感じているだけです。このままでは破産に直面します。

Aさんは住宅ローンの返済には不安がないと思っているようでしたが、金利上昇やインフレなど将来のことを考えて余裕のあるうちに繰り上げ返済を検討したほうがいいでしょう。

また、高齢になってくると高階層での暮らしは不便になってきます。降りるのも億劫になりますから部屋に閉じこもりきりになる危険性もあります。「高齢になると住居の確保が心配だ」、という理由で住まいを購入する人もいますが、高齢になったときのことをよく考えれば高階層での住まいは選ばないでしょう。

Aさんのお住まいは都心で資産価値もあり、当面は売却しても損はしないでしょうが、地方だと人口減少の影響で価値が下がっていく危険性があります。

また、マンションでは修繕積立金のアップに気を付けてください。修繕積立金は銀行の預金口座に預け入れられるのが普通です。超低金利のいまはほとんど増えることはありませんので、人件費や材料費などの値上がりについていけません。いざ、修理となった場合、一時金などでまとまったお金を請求されたり、積立金が上がったりすることは十分考えられますから、家計に余裕がないと住み続けるのも大変になります。

購入前に相談してくれる方は本当に助かるのですが、購入後に急に不安になって相談にやってくる方も意外にも多いのです。「借りられる金額=返せる金額」とは限りません。高い買い物ですから、購入前の相談や生涯のマネープランをご検討のうえ、住まいの購入は決定するようにしましょう。

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)