中国オタク事情を連載している百元です。第4回は近年の中国のオタク界隈における大人気作品のひとつ『ソードアート・オンライン』(中国語タイトルは「刀剣神域」、以下SAOと略)に関して紹介させていただきます。

関連情報を含む記事はこちら

 SAOは中国で日本のライトノベルが広く知られるようになって以降に大人気になった作品でして、中国で日本のラノベを翻訳出版している天聞角川のラノベ売り上げランキングでは、2013年の上位5冊のうち4冊がSAOになっています。また今年7月に始まり中国でも正規配信されているアニメの第2期も、第2話配信の時点で200万アクセスを超えその後も順調にアクセスが伸び続けるといったことになっているそうです。

 ここ数年行われている中国のアニメ配信において、続編はアクセス数の伸びに関して苦戦する傾向があるのですが、第1期以上の大人気となりアクセス数が伸びているSAOは、第1期が配信された時期が中国における正規アニメ配信の流れが始まったばかりの頃だったことを差し引いても珍しいケースですね。

 そんな中国におけるSAOの人気ですが、作品の面白さへの評価に加えて中国独自の事情による評価も見受けられます。

 その中国独自の事情のひとつ目は、「中国の若者の間では定番中の定番のテーマがアニメ化された」ということです。

 現在の中国ではオリジナルのネット小説が非常に強いコンテンツとなっていることに加えて、オンラインゲームがゲームの主流となっていることから、SAOのような「オンラインゲームの中に入ってしまう、そしてゲームの世界の中でご都合主義的な大活躍をする」というのは中国のネット小説によくある題材、誰もがちょっと妄想してしまう話となっているそうです。

 その為、SAOの設定やストーリー展開は中国のオタクをやっている若者からすれば慣れ親しんだものですし、言い方を変えればありふれた題材でもあります。しかしそれが「アニメになる」とまた別の話になります。

 最近の中国ではネット小説が盛んで別媒体への展開も活発ではあるものの、アニメ化に関して、特に中国のオタクな若者が満足できるレベルの「トリップ系作品のアニメ化」というのは、SAO以前にはほぼ無い状態でした。

 そのような背景があったことから、SAOのアニメは中国のオタクにとってかなり衝撃的なものとなったそうです。例えばある中国のオタクの人の話によれば、SAO第1話キリトがナーヴギアを装着してゲーム世界に入っていく、そしてゲームのインターフェースが現れるシーンは、原作を知っていたり、この手の作品のお約束的展開を分かっていたりしても、非常にワクワクするモノに思えたという話です。また中国のネットを巡回している時に、SAOのアニメについての感想で「俺達の妄想がアニメになった」といった発言を見かけたこともあります。

 そして2つ目は、「中国のネット小説との比較により、マニア寄りの層からも一定の評価を受けている」ということです。これに関してはSAOのweb連載版が出た時期と作品の構成等が大きいという話です。

 SAOは2004年頃には既に日本のネットで高い知名度と人気を誇るオリジナルのネット小説となっていましたが、この時期は中国のネット小説界隈で言えば本格的に盛り上がる前、或いは草創期にあたります。SAOは中国でネット小説が大きく盛り上がる前に日本のwebに商業出版前のweb連載版が既に存在していたということで、現在の中国の感覚で言えばありふれた設定の作品であっても別格の存在だと見做されている所があるそうです。

 また作品の構成に関しては「強くなり過ぎたキャラの仕切り直し」が上手く行われているという点も評価されているそうです。
中国のネット小説は文字数が課金額に直結するシステムなこともあってか長編が主流となっていますが、長期連載になった人気作品が引き伸ばしでグダグダになったり、キャラが強くなり過ぎて話が盛り上がらなくなったりすることが頻繁に発生しているそうです。

 例えば中国のネット小説では定番の中華ファンタジー、武侠系の作品で言えば、当初は流派レベルだった話が、国、果ては世界レベルにまでなり、更には強くなり過ぎたキャラをもっと活躍させるために別世界等の異なるステージに転移させてある程度のリセットや仕切り直しを行うといったことも珍しく無いという話です。そして引き伸ばしや延命措置の結果、グダグダになってしまう作品もかなり多いのだとか。

 こういった中国のネット小説でありがちな失速、失敗と比べると、SAOは舞台となるゲームを渡り歩きながら主人公の強さ、活躍に一定の仕切り直しを上手く行い、世界観を発展させながら完結させていると見る人も少なくないそうで、それが高い評価につながっているとのことです。

 ちなみに、中国のオタク界隈ではSAOに対してよく考えもせずに「我が国のネット小説にもよくある、ありふれ過ぎた話だ」とバカにするような発言をすると、マニアの方から「作品の出た時期を考えろ」、「批判するなら原作を最後のアリシゼーション編まで読んでからにしろ」といった反論や作品擁護の声が返ってきたりもするそうです。

 以上のように作品自体の面白さに加えて中国独自の事情による評価もあることから、中国におけるSAOの人気、話題性は非常に高いものとなっていますし、他の日本の作品とは少々異なる強さを持つ作品となっている模様です。

文=百元籠羊

日本だけでなく、中国でも大人気の『ソードアート・オンライン』。サイマル放送も話題になった