●群馬・伊勢崎市で70年以上前から親しまれる「神社コロッケ」。そのルーツと、独特の味わいを探りに行った!

 全国的にはさほど名が通っていない一方、群馬県人の大半が知っているコロッケがあります。伊勢崎市に根付く「神社コロッケ」がそれです。その素朴かつ独特の味わいは、伊勢崎市民はもちろん群馬県民のソウルフードとも言われているそうです。

「神社」と「コロッケ」という意外な組み合わせに興味がそそられた筆者。今回は、そのルーツと独特だというその味わいを探るべく、伊勢崎市まで「神社コロッケ」を買いに行ってきました!

「子どもたちがお腹いっぱいになるように!」と考案

誕生の舞台は「伊勢崎神社」でした
誕生の舞台は「伊勢崎神社」でした

 「神社コロッケ」は、「子どもでも食べやすいように」と一般的なコロッケよりもかなり薄く揚げられているのが特徴で、素材はじゃがいも、青のり、小麦粉といたってシンプル。モチモチとした食感に仕上げられており、これがクセになるのだそう。『秘密のケンミンSHOW』でも取り上げられたこともあり、文字通り「伊勢崎の名物グルメ」の代表の一つになっています。

 ルーツを紐解くと、「神社コロッケ」が誕生したのは今から約73年前の1950年頃。とある夫婦が考案したと言われています。戦後まだ食事がままならない時代に「子どもたちにお腹いっぱい食べてほしい」とコロッケを考案。伊勢崎市の伊勢崎神社前やその周辺の空き地などで屋台販売を始めたところ、子どもたちに大人気となり、やがて子どもたちが「神社コロッケ」と呼称し、その味が「名物」として定着していったとされています。

 この屋台は、2005年まで伊勢崎神社付近で販売されていたものの、店主の他界を機に閉店。しかし、2~3世代にわたって愛された「神社コロッケ」の味は地元の人たちによって継承され、伊勢崎市内はもとより、群馬県各地の各惣菜店・飲食店などで出されるようになりました。

伊勢崎市内には「神社コロッケ」専門店もあります
伊勢崎市内には「神社コロッケ」専門店もあります

 まさにソウルフードと呼ぶにふさわしい、伊勢崎市民と群馬県民にとって欠かすことができない味。それが「神社コロッケ」なのです。

 ここからは、この「神社コロッケ」を2つの名店で購入し、食べ比べ。地元で食べる一般的なコロッケとも比べつつご紹介します!

「神社コロッケ専門店」の代表格!『ふらっと』の「神社コロッケ」

『ふらっと』の「神社コロッケ」各90円。左:ソースかけ、右:味噌かけ
『ふらっと』の「神社コロッケ」各90円。左:ソースかけ、右:味噌かけ

 まずは伊勢崎市にある専門店『ふらっと』の「神社コロッケ」をいただきます。「神社コロッケ」の定義を忠実に守り抜いた味わいである一方、「ソースかけ」、「味噌かけ」の2種類を用意しており、味を選ぶ楽しさもある名店です。

『ふらっと』の「神社コロッケ」の断面図
『ふらっと』の「神社コロッケ」の断面図

 約1センチにも満たない極薄のコロッケですが、その中身は濃厚。前述の素材がきめ細かく練られた生地は、小麦粉によるモチモチとした弾力と、じゃがいもと青のりの風味が相まって、素朴ながらもクセになる味わいです。

 味わいをグッと引き上げるソースは、良い意味でB級グルメ感があってこれまたいい感じ。一方の味噌のほうは、お焼きのような味わいでこちらもまた美味しいです。「神社コロッケ」はどんな調味料にもマッチするんだろうな、と思いました。

「いせさきグルメグランプリ」優勝店!『むらさき庵』の「神社コロッケ」

『むらさき庵』の「神社コロッケ」70円
むらさき庵』の「神社コロッケ」70円

 続いて、同じく伊勢崎市内にある『むらさき庵』の「神社コロッケ」をいただきます。こちらのお店は、「いせさきグルメグランプリ」という恒例のグルメイベントで「神社コロッケ」で優勝&複数回入賞している人気店。出向いたときも、「神社コロッケ」の注文予約の電話がひっきりなしにかかっていました。

『むらさき庵』の「神社コロッケ」の断面図
むらさき庵』の「神社コロッケ」の断面図

むらさき庵』の「神社コロッケ」は、前述の『ふらっと』よりもさらに薄い印象で中身がギュッと詰め込まれているようにも見えます。

 さっそくいただいてみると、衣のカリッとした口当たりと、モチモチの餡の食感のコントラストが絶妙。味わいは実に繊細で、素材の優しい旨みが口いっぱいに広がっていきます。本家の「神社コロッケ」の味を筆者は知り得ませんが、もしかすると、本家の味わいをさらに上品な味わいへと飛躍させた一品なのではないかとも思いました。

伊勢崎市の「普通のコロッケ」も「神社コロッケ」の影響あり?

『農畜産物直売所あずま店』の「コロッケ」120円
『農畜産物直売所あずま店』の「コロッケ120円

 伊勢崎市には一般的なコロッケももちろんあります。「神社コロッケ」との差を調べるべく、『農畜産物直売所あずま店』に普通のコロッケを買いに行きました。

 じゃがいもがいっぱい詰まった「普通のコロッケ」ですが、他地域で見るコロッケよりやや薄めで、そして餡がギュッと詰まっています。これはこれでもちろん美味しいのですが、どことなく、「神社コロッケ」ともリンクするような口当たりと味わいです。

『農畜産物直売所あずま店』の「コロッケ」の断面図
『農畜産物直売所あずま店』の「コロッケ」の断面図

 普通の「コロッケ」でも中身がギュッと詰め込まれており、これが「神社コロッケ」の影響なのか、それとも、そもそもこれが「神社コロッケ」のルーツなのかは定かではありませんが、やはり他地域に見るコロッケとはやや趣きが異なっていました。素材の味わいを、1個で存分に楽しめる実に美味しいコロッケ。伊勢崎や群馬の人たちを羨ましく思うばかりでした。

●まとめ

左から『ふらっと』の「神社コロッケ」、『むらさき庵』の「神社コロッケ」、『農畜産物直売所あずま店』の「コロッケ」
左から『ふらっと』の「神社コロッケ」、『むらさき庵』の「神社コロッケ」、『農畜産物直売所あずま店』の「コロッケ

 群馬・伊勢崎市の「神社コロッケ」は、確かに全国的には無名です。しかし、その地に根付き、地元の人たちに愛され続けた味わいは、素朴で懐かしく、そしてどこか温かい味わいでした。

 ネットを検索すれば、多くの群馬県人が思い思いの「神社コロッケ」のレシピを公開しています。伊勢崎市および群馬のソウルフードである「神社コロッケ」。伊勢崎市に行く機会があれば、ぜひこの「神社コロッケ」を食べてみてください。一口かじると、その素朴な美味しさのトリコになると思いますよ。

(撮影・文◎松田義人)

●SHOP INFO

店名:ふらっと

住:伊勢崎市連取町3290-5
TEL:080-6767-0082
営:金・土10:00~18:00/日10:00~15:00
休:月~木曜

店名:むらさき

住:伊勢崎市昭和町1616-5
TEL:0270-21-6656
営:10:00~16:00
休:月・日・祝

店名:農畜産物直売所あずま

住:群馬県伊勢崎市東町2800-7
TEL:0270-62-3550
営:9:30~18:00
休:火曜

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