壮大な英雄伝説を最近はカッコよく“サーガ”というが、ボクシング映画の王道中の王道“『ロッキーサーガ”の最新作『クリード 過去の逆襲』が、5月26日(金) に日本公開される。

1976年に不屈のヒーロー『ロッキー』が登場、創造主であるシルベスタ・スタローン主演のシリーズは2006年に6作目で完結した。それが2015年、ロッキーの良きライバルだったアポロ・クリードの息子を主人公にマイケル・B・ジョーダン主演の『クリード』として蘇った。

その3作目が今回の作品。3月に全米で公開されると、なんとシリーズ史上最高のヒットとなった。 シリーズ作は数を重ねるごとに、少しずつ影響力を失っていくものだが、『クリード』はそうではない。例えばアメリカの辛口映画サイトRotten Tomatoesの採点では89%の支持率を獲得、評価もすこぶる高いのだ。ヒットの秘密はどこにあるのか──。

『クリード 過去の逆襲』

日本風にいえば、例えば老舗の世代交代の成功。無一文から商いを始め大成功を収めた大店の代替わり。店の志を先代の知人の息子が引き継いで業績はその後順調にみえたが、新たな危機がおしよせる。そして、そこから初めて2代目が独自のアイデアと方法で成功をつかむ……。

今作が、これまでのクリード2作品と決定的にちがうのは、ロッキーが登場しないこと。前作『クリード 炎の宿敵』では、スタローンロッキー役として出演するだけでなく、脚本も担当していた。今回は、脚本はキーナン・クーグラーとザック・ベイリン。世界観は依るものの、完全にマイケル・B・ジョーダンが演じるアドニス・クリードの物語になっている。ジョーダンは監督にも初挑戦。彼の魅力と実力、そしてセンスが、アメリカの映画ファンの心をとらえた。

ストーリーはこんな感じ。​​​​

クリードはヘビー級チャンピオンの座を勝ち取った後、引退。いまはジムを経営し、そこから新しいチャンピオンを生み出しているいわば成功者だ。妻のビアンカテッサトンプソン)も歌手から作曲家、プロデューサーとして活躍。聴覚障がいのある娘アマーラ(ミラ・デイビス・ケント)とロサンゼルスで3人暮らし。母メアリー・アン(フィリシア・ラシャド)は脳卒中を患っているが、独りで生きることを望み、別に住む。小さな悩みはあるものの、幸せな人生を送っている。

そこに、クリードの少年時代の仲間、兄弟のように親しかったデイムが現れる。18年刑務所に服役していたが、彼こそがクリードにボクシングを最初に教えた恩人であり、自身天才ボクサーだった。デイムは、クリードの力を借りて、世の中にうってでたいと考えている。しかしそれは同時に、グリードにとって、封印していた自分の負の歴史と向き合うことになる……。

スタローン演じるロッキーは、街のチンピラだった。いわば“負け犬”がチャンスを必死につかんでのし上った、そのロッキーと同じ境遇なのが今作ではデイムだ。

しかし、映画は、負け犬の挑戦と成功、だけでは終わらない。彼がアメリカンドリームをつかんだ後、手の負えないモンスターと化し、暴走を始めたことが、クリードにある決心をさせることになる……。いわばそれが、メインイベントだ。

デイムを演じるジョナサンメジャースの名演も特筆もの。

2月に日本でも公開されたマーベル映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』で、アベンジャーズの新たなる敵役カーンに扮した注目の男優。

最初はおずおずとクリードに近づき、それからだんだんと存在感を増していく。身体能力も抜群、8カ月の特訓で作り上げたボクサーの体、動きは、いかにもクリード最大の敵。

役者たちの迫真の演技に加え、マイケル・B・ジョーダンが新たなセンスで魅せたのは、映像だ。

テレビ中継のボクシング試合は、ややひいたショットが多い。映画でも手持ちカメラをリングに上げて撮影すると、躍動感はあるが、多少映像はあれる。それはそれで迫力があるものだが、今回、撮影に超高解像度を誇るIMAXカメラを使用することで、臨場感が鳥肌ものになったのである。

パンチが当たる、相手の体がぐにゃっと反応する、汗の一粒一粒がほとばしる……。リングの上からとらえたIMAX映像によるファイトシーンは、これまで観たことがないものだ。

IMAX仕様で撮影された初のスポーツ映画、これも大成功を決定づけた大きなポイント。ぜひ、IMAXスクリーンでご覧いただきたいと思いマス。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

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『クリード 過去の逆襲』