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 ツタンカーメンの棺が開けられてまもなく、墓の発掘に資金を提供したカーナヴォン卿が亡くなったとき、ミイラの呪いではないかとメディアが色めき立った。

 2002年の研究で、たとえ呪いがあったとしても、死の危険とはなにも関係がないことが示され、呪い説は否定された。

 だが、古代の墓の中に、死に至る危険な病原体(真菌)がはびこっていた可能性はどうなのだろうか?

 カーナヴォン卿の死を少年王、ツタンカーメンに結びつけることができる、もっと決定的な説明はあるだろうか? 

【画像】 カーナヴォン卿の死因に真菌は関係しているのか?

 この発掘の資金提供者である裕福なカーナヴォン卿(ジョージ・ハーバート)は、ツタンカーメン王の墓の発見からおよそ5ヶ月たった1923年4月に56歳で亡くなった。

 その死の詳細は詳しくはわかっていないが、敗血症もしくは肺炎が原因だったのではないかという説が濃厚だ。

 56歳の死は、現代では若死にという印象だが、1923年当時の男性の平均余命からしたら標準だ。

 蚊に刺されたことによる感染症が原因だというのが有力な説だが、ミイラの棺の中で発生していた真菌が関係しているという考えもある。

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 ひんやりと冷たく暗いツタンカーメンの棺の中に、アスペルギルス菌の胞子が巣くっていた可能性はあるだろうか?

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ツタンカーメンの墓の開封に立ち会いその約5ヶ月後に亡くなったカーナヴォン卿(ジョージ・ハーバート) / image credit:public domain/wikimedia

アスペルギルス菌とはなにか?

 アスペルギルス菌は、人体の組織(ほとんどは肺)にアスペルギルス症を引き起こす、真菌性病原体だ。

 米国疾病予防管理センターによると、人は日常的にこの菌の胞子を吸い込んでいるが、病気になることはほとんどない。

 しかし、免疫システムに障害があると、副鼻腔炎や静脈洞炎を引き起こし、肺の中に球菌ができて、喀血や肺炎につながる。

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アスペルギルス菌 / image credit:public domain/wikimedia

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ミイラの棺の中にいたアスペルギルス菌に感染した可能性

 シェリフとタリク・エル=タウィルは、カーナヴァン卿が亡くなったのは、ミイラの棺の中を棲みかにしていたアスペルギルス菌に感染したことが原因である可能性があるという説を医学専門誌『ランセット』で展開している。

 だが墓をあばいてから数ヶ月たってから、カーナヴォン卿が病に倒れたことから、この説は否定されていた。

 しかし、アスペルギルス菌の胞子は、感染した肺の中で長期間休眠してから活性化することがあるため、シェリフとタリクは、この説を支持している。

「1922年11月に初めて墓に足を踏み入れてから5ヶ月間、カーナヴォン卿は、まったくの無症状だったと考えられる」と彼らは書いている。

「しかし、1923年3月17日ロンドンタイムズ紙は、カーナヴォン卿が、目や鼻腔の炎症による痛みに苦しんでいたと伝えている」

「これは、局所的に眼窩に広がった侵襲性アスペルギルス性副鼻腔炎の症状と一致する。ただ、こうした洞眼窩感染症が、死因とされた大葉性肺炎を悪化させた可能性は低い」

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古代の墓に住む真菌病原体による感染症

 古代の墓からアスペルギルス菌が見つかっているように、真菌病原体による感染症の例がほかにないわけではない。

 14世紀ポーランドの王、カジミェシュ4世の墓にまつわる不可解な事件の説明として、この考えは大々的に報道されている。

 王の墓をあばいた研究者10人が次々と死亡し、これは棺を開けたことによって、中に格納されていた生物爆弾がまき散らされたことと関係があるのではないかと、取りざたされたのだ。

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カジミェシュ4世とその棺 / image credit:public domain/wikimedia

ツタンカーメンの墓の発掘後、ほかに亡くなったのは誰か?

 ツタンカーメンの墓をあばいた後のその他の死についてはどうだろうか?

 アメリカの財政家ジョージジェイグールドは、墓を訪れた後、やはり1923年に肺炎で亡くなった。

 ツタンカーメンの遺体をレントゲン撮影した放射線医のアーチボルトダグラス=リード卿は、1924年原因不明の病で亡くなった。

 これらの死は、ツタンカーメンの棺にいた病原菌と関係がある可能性はあるが、それを証明する確かな証拠はない。

 1920年代に、マスコミが躍起になってその死をミイラの呪いと結びつけようとした発掘メンバーは、ほかにもいる

 ミイラ化した手から作られた文鎮を贈られたブルース・インガム卿が、家の火災で焼死した。

 さらに、1923年に亡くなったエジプトのアリ・カメル・ファーミー・ベイ王子が妻に射殺されたのも、呪いのせいだとされたが、かなり無理があるように思われる。

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 こうした死が、呪いのせいだという証拠は、ますますあいまいになった。極めつけはハワード・カーター本人だ。

 ツタンカーメンの墓の発掘にまさにどっぷりとつかっていた中心人物が、60代までごく普通に生き続けた。

 死人が続いた原因は、真菌なのか、呪いなのか、はたまた人生の豊かな色模様なのか? 科学ではよくあることだが、もっともハリウッド的ではない結論が、一番ありえる説なのかもしれない。

References:Could A Deadly Fungal Infection Explain The "Curse" Of Tutankhamun's Tomb? | IFLScience / written by konohazuku / edited by / parumo

 
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ツタンカーメンの墓の呪いの正体は真菌か?