静かに、しかし確かに、松島幸太朗は決戦へ向けてマインドをセットしている。5月14日(日) に行なわれる『NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23』プレーオフトーナメント準決勝で、松島の所属する東京サンゴリアスはクボタスピアーズ船橋・東京ベイと激突する。『NTTリーグワン2022-23』レギュラーシーズンの成績は東京SGが3位、S東京ベイが2位だ。

両チームの過去の対戦では、東京SGがS東京ベイを圧倒してきた。実に2004年から不敗を続けてきたが、『NTTリーグワン2022-23』では2試合ともに敗れてしまった。一度目の対戦は、2022年12月18日のシーズン開幕節だった。東京SGは日本代表を数多く擁しており、FB松島らが国際舞台で戦っていたために11月下旬までチームを離れていた。

18-31でS東京ベイに敗れた開幕節について、松島は「(日本代表選手の合流が開幕間近で)チームとして詰めきれていなかった、というのはありました」と振り返る。そのうえで、24-39に終わった第16節の対戦も含めたS東京ベイ戦に触れた。「自分たちがやろうとしていることを、今ひとつできていなかったと言うか、やらせてもらえなかったところがある。過去2回の対戦から、自分たちの何がいけなかったのかははっきりしています。リーグ戦はボーナスポイントを考えたりもしますけれど、プレーオフは1点でも相手を上回ればいい。いかに自分たちの反則を減らして、優位に試合を進められるかが大事です」。

今シーズン最初の対戦では、4本のPGを決められた。それが勝敗に直接的な影響を及ぼした。松島は「相手がPGを狙える反則をしないのも大事ですが」と断りを入れてから、自分たちに矢印を向ける。「自分たちのプレーを継続するためにも、反則をできるだけ減らしていくべきだと。それによって試合の流れを引き寄せることができるし、相手にリズムをわたさないことにもつながっていくと思うので」。

どちらのチームもタレントが揃っている。「お互いに面白い選手がたくさんいますね」と、松島もうなずく。華麗なステップワークによるボールキャリーと、タックルを受けてもなお前進する力強さとしなやかさを兼備する彼は、そのなかでも注目度が高い。

キックとランの選択も適切で、ハイボールの処理にも優れる。そして、ここぞという場面でトライを取り切る決定力は、東京SGと日本代表の様々な試合で証明してきた。「パワー系の選手、スピード系の選手、スキルの高い選手がたくさんいるので、直近の試合のように観ていて面白い試合になるかもしれないですし、プレーオフなのでもっと拮抗した試合になるかもしれない。どういう試合になるとしても、観ている人たちが楽しめるものになればいいですね」。

プレーオフは一発勝負のトーナメントだ。一つひとつのプレーの重みが増す。「緊張感というものは、やはり変わってくる」と松島も言う。プレッシャーや緊張感に縛られると、大胆さが失われたりするものだ。しかし、リスクを抑えたプレーばかりでは、相手に脅威を与えられない。自分たちのアタックに、テンポやリズムも生まれない。だからこそ、松島は積極的な姿勢を貫く。「プレーオフだからと言って何か特別なことを意識することはなくて、いつも通りにミスを恐れずにプレーすることを心掛けます。ミスをした時も精神的に落ちることなく、思い切ってプレーすることが大事だと思います」。

東京SGはプレーオフの経験値が高い。トップリーグ当時からプレーオフを何度も戦い、埼玉ワイルドナイツ、東芝ブレイブルーパス東京と並ぶ最多5回の優勝を記録した。リーグワン初年度の『NTTリーグワン2022』でもプレーオフに進出し、準決勝でBL東京を退け、決勝で埼玉WKとクロスゲームを演じた。最終盤まで競り合い、12-18で2シーズン連続の準優勝となった。

2020年シーズン終了後から2022年6月まで、松島はフランス1部『トップ14』のクレルモンでプレーした。過去2シーズンのプレーオフには出場していないが、『トップリーグ』当時には日本一を決める大舞台に何度も立っている。彼自身の経験もまた、チームの大きな支えとなるだろう。「プレーオフでは経験値が必要になってくるので、そこはやっぱりシニアの選手がリードしていかなければいけない、と思います」。

2月に30歳となった。キャリアの円熟期を迎えている松島も、チームを牽引していくべき存在だ。「年齢的にも上になってきたので、しっかりとした発言をしなければならない。試合では身体を張って、チームに勢いが付くようなプレーをやらなければいけないと思います」。

フランスでの2シーズンを経て迎えた『NTTリーグワン2022-23』では、レベルアップした姿を見せてきた。「人を生かすというところは、フランスへ行く前と大きく変わったと思います。自分でキャリーするだけでなく、周りの選手をうまく生かすように意識しています。それから、キックの重要性ですね。自分たちのチームをしっかり前へ出す、FWを前へ出してあまり疲れさせない。相手のFWだったりをキックで下げて、チャンスになったらアタックするというところ。ゲームの組み立て、カウンターからのアタックの組み立てといったものを、より考えるようになりました」。

S東京ベイは大型FWを中心としたフィジカルバトルを強みとする。それだけに、キックを有効活用したエリアマネジメントは、準決勝の行方を左右することになりそうだ。松島のスキルが、存分に生かされるだろう。「相手はFWがかなり強力なので、簡単にはドミネートできないという想定もしています。そのぶん自分たちBKがエリアマネジメントをして、FW陣を優位に立たせることが大事かなと思います」。

レギュラーシーズン終了からプレーオフ準決勝までは、3週間の時間があった。技術的、戦術的なポイントを挙げつつも、松島はメンタリティの重要性を説く。「プレーオフまでの準備期間で、どれだけ自分たちの自信を磨くことができるか。試合中に自信を持ってプレーできるかどうかで、結果は変わってくると思います」。

チームが目標とするのは、2017-18シーズン以来の日本一だ。そのための第一歩として、松島は準決勝に意識を集中している。「そうですね、先は見ていません。まずはとにかく、2回負けている相手に3回目にしっかり勝つ、ということを果たしたい」。

フランスから国内復帰を果たしたのは、クラブにタイトルをもたらすために他ならない。フィジカルとメンタルのピーク5月14日(日) の12時5分に合わせて、松島はキックオフホイッスルを待つ。

取材・文=戸塚啓
撮影=スエイシナオヨシ

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 プレーオフトーナメント>
■準決勝 5月13日(土) 14:35
埼玉ワイルドナイツ(D1 1位)×横浜キヤノンイーグルス(D1 4位)

■準決勝 5月14日(日) 12:05
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 2位)×東京サンゴリアス(D1 3位)>

■3位決定戦 5月19日(金) 19:00
秩父ラグビー

■決勝 5月20日(土) 14:35
国立競技場

チケット情報はこちら:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2343373

リーグワン観戦ガイド 2022-23 特別版
ラグビー観戦初心者も安心! はじめてのポストシーズン
https://book.pia.co.jp/leagueone_guide/postseason/

松島幸太朗(東京サンゴリアス) 撮影:スエイシナオヨシ