河合優実が、5月14日(日)放送開始のプレミアムドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(毎週日曜夜10:00-10:50、NHK BSプレミアムほか、全10話)で主演を務めるにあたり、コメントを寄せた。同ドラマは、作家・岸田奈美の家族をめぐる自伝的エッセーをドラマ化。「楽しい」や「悲しい」など一言では説明ができない情報過多な日々の出来事を、あたたかな筆致で描き出す。

【写真】黒の衣装に身を包んだ河合優実のかっこいいショット

■ドキっとするところがたくさんありました

――台本を読んだ印象を教えてください。

1話1話読み進めていって、こんなに面白いと実感できる台本もなかなかないというのが最初の正直な印象でした。“連ドラ”をがっつりやったことがなかったので、映画より長いスパンで主人公が展開していく感じというか、話が変わるごとに次へと転んでいく感覚が新鮮で、面白かったです。家族だけにとどまらず、ちゃんと作家としての七実っていうところまで踏み込んだり、ドキっとするところがたくさんありました。

――今回、連続ドラマ初主演となりますが、主演という役割に対する構えなどはありましたか。

撮影に入ってからですかね。お客さん目線になるくらい面白い読み物として台本を読んでいたので、クランクインしてみて、主人公としての七実を意識するようになりました。常に動きまわって、直接ストーリーの推進力になるタイプの主人公でした。出演しているシーンが9割みたいな感じだったので、物語を背負っていくという実感は、演じながらどんどん強まっていきました。

■長いようで短いようで不思議な濃さのある時間でした

――ドラマでは10年近い期間を3カ月間で演じますが、これまでそのような経験はありましたか?

これだけ年数が飛ぶことも、3カ月間撮影に入ることも初めてでした。この作品を発表する時にコメントを出した際、「七実と一緒に成長していく気持ちで演じようと思います」ということを言ったんですけど、今振り返ってみるとその通りになったなと思います。劇中で20代後半に差し掛かったとき、高校時代を演じていた時は思ってもみなかった気持ちとか家族の状況に直面したり、フィクションとして演じているんですけど、本当に年を重ねている感じが自分の中に起きてくるんだなというのは今までにない発見でした。最初の頃を思い返すとすごく昔に感じますし、子どもだった気もするし、3カ月なんですけど長いようで短いようで不思議な濃さのある時間でした。

対家族の関係だったりとか、困難との向き合い方だったりとか、各年齢ならではの成長も書かれているんですけど、一方でここまで成長して、人を大切にできるようになっているのに、これはできないんだとか、人として変わる部分と変わらない部分のバランスをつけていく時に悩みました。それがチャーミングさにもなるし、キャラクターにもなるし。でも正解を分かってやっていないかもしれないです。

■エネルギーみたいなものを受け継いだ感じです

――岸田奈美さんの原作を読んだ感想を教えてください。

私の感覚で言うと今演じている七実よりもご本人の方が底抜けに明るいかもしれないです。原作からは離れて、ドラマ上の七実を作っている感覚なので、若干の違いはあるんです。でも岸田さんが生まれ持っているエネルギーと家族に対する愛は本当に受け取るものがありましたし、すごくエネルギッシュな文章で、読んでいるだけで100以上伝わってくるというか。人物像っていうよりもエネルギーみたいなものを受け継いだ感じです。

現場にお母さんと弟さんと3人でいらしてお会いした時に、本当に思った通りの、手を取り合って生きてきた3人、明るく温かく生きてきた3人を体感しました。その日を境にどんな結果になっても、何を描いたとしても、本当に岸田家に胸を張って心をこめて「一生懸命家族のドラマを作りました」と言えるようにはしたいと、強く思うようになりました。

■葵くんとおしゃべりしたいということしか思わなかった

――七実の弟を演じる吉田葵さんの印象を教えてください。

彼がダウン症であることを忘れてしまうくらい、本当に楽しく一緒に弟として接しているし、自然に関係を築きあげてきていると思います。クランクインする前に家族のキャストみんなで会う時間があったんです。私もダウン症の方とお芝居したこともないし、ちゃんと面と向かって会話したこともなかったので、構えるフィルターはありましたけど、部屋に一歩入ってあいさつしたところから、本当に葵くんと仲良くなりたい、葵くんとおしゃべりしたいということしか思わなかったです。

本当に最初の数秒で構えはなくなりました。それは人と人として私が吉田葵くんに惹かれたから、面白いと思うから、かわいいと思うから、それしかないですね。でも葵くんにとって、苦手だったり時間がかかることがあるのは事実なので、彼に演じてもらうというのはすごく大きなことで、やっぱり簡単なことじゃなかったです。

ドラマでこういうことをしている作品をあまり見たことがないし、日本の映像作品の中では大きな一歩で、みんなそこに対して努力をしたと思います。葵くんができないこと、立ち止まってしまっていること、時間がかかっていることに対して、みんな思いやろうと努めています。本来それは葵くんに対してだけじゃなくて、みんながみんなに対してすることだというのは考えますね。そしてこの作品で葵くんが希望や勇気を与える人が日本中にどれだけ居るか、それを誇りにさえ思います。

■分からないことに乗っていくのがすごく楽しかった

――大九監督の演出はいかがでしょうか?

楽しいですね。後半にかけて思い悩むこととか、話し合わなきゃいけないこととか出てきましたけど、大九さんならではの思ってもみなかったような動きを突然要求されたり、このカットって何?みたいな、今なにを撮っているの?みたいな、分からないことに乗っていくのがすごく楽しかったです。特に七実が幼くて、人を笑わせるということを純粋に楽しんでいた時代を撮影している時の、大九さんの生き生きとした演出はめちゃくちゃ楽しかったですね。どうなってもいいからとりあえずやろうと思って。私も面白がってもらうことは好きだから嬉々として色々試してしまい、そのサービス精神が行き過ぎていないか、冷静になろうという瞬間はありました。

個人的にも、関西弁でここまでしゃべりまくって、笑ってほしい、褒めてほしいという役もなかったので、自分のまだ開けたことのない扉を開ける感じがしてすごく楽しかったです。家族を支えて困難に立ち向かっていく主人公を誰かが描くとして、ここまで変でひょうきんでポンコツでダメだっていう、こんな角度からの主人公って大九さんだからだし、岸田さんだからだなと感じました。大九さんと七実の相性がすごく良かったんだろうなと思います。

■この家族に愛が生まれたと思います

――ドラマの見どころを教えてください。

最初からこれは面白いものになるっていう気持ちがずっとあって。撮っている時にそういう手応えがあることってなかなかないので。大九さんが編集しないと私も分からない部分がたくさんあるけど、感覚的にこの人にゆだねたら自分が現場で感じているよりもっと鮮やかなものができるんじゃないかって思いが日に日に増していきました。

でもいちばん大きかったのは、ちゃんとこの家族を実感できたことです。葵くんというものすごい光を持っている弟がいて、素晴らしい先輩方が大きく自由に居てくださって、ちゃんと3カ月間家族が関係を築きあげられたと思うんです。沖縄でメインビジュアルの写真を撮影して、それを拝見したんですけど、その写真1枚見るだけで、これはいいドラマになったぞって、本当にそう思いますね。大きな言葉を使うと、この家族に愛が生まれたと思います。

河合優実/(C)NHK