5月3日憲法記念日憲法改正に賛成派、反対派ともにこれまでになく緊迫感のうちに過ぎたようだ。

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 コロナ禍を経験して、国会が機能しない場合も考えられる状況に直面したことから、緊急事態条項の必要性を感得したこともあるのだろう。

 改憲論議も条文案作成という改憲への具体的な一歩を踏み出す段階に来つつあるように思えた。

 これは筆者が永田町の砂防会館で開かれた改憲派の「国難迫る―急げ、憲法に国防条項・緊急事態条項の明記を!」に参加しての理解である。

 別の会場で開かれた護憲派の集まりでは、岸田文雄首相が憲法改正の賛否を問う国民投票の早期実現に意欲を示したことに危機感をあらわにしたようである。

「『対決し、阻止しなければならない』と聴衆に呼びかけた」と翌日の産経新聞が報じた。

 このことからも、改憲が政治の線上に上がってきたと言えるのではないだろうか。

改憲の本丸は9条と自衛隊関係

「国難迫る」という民間団体(美しい日本の憲法をつくる国民の会、ならびに「二十一世紀の日本と憲法」有識者懇談会共催)のフォーラムに寄せた首相のメッセージや民間団体の改憲意識の第一にあるのは言うまでもなく9条と自衛隊問題であった。

 しかし、参加した政党代表の挨拶からは緊急事態条項についての合意ができつつあるが、9条関連は進捗が見られないかのような発言が多かった。

 主に衆議院議員の任期延長を軸にした議論のようであるが、緊急事態対応であるから議員の手前味噌とかお手盛り議論などと茶化すつもりはない。

 しかし、聞こえてくるのは立法権としての議員の任期延長問題ばかりで、行政や司法についても議論しているのだろうかという疑問がわく。

 言うまでもないことながら、いついかなる状況においても変則的な形であっても三権(立法、行政、司法)が機能する仕組みを考えなければいけないのではないだろうか。

 さりながら、憲法改正の本丸というか、最大関心事はほとんどの期間政権を担ってきた自由民主党の立党当初から今日に至るまで9条と自衛隊の関係ではなかっただろうか。

 日本語として馴染めない文字をはじめ、憲法改正の必要性を指摘されながら改正に手がつけられないままで来たのは、「改正」の中身に9条を含むという認識が共有されてきたからであろう。

 あえて言えば、この一項(9条問題)が日本国憲法をして一字の改正も許さない硬性憲法にしてきたのではないだろうか。

自衛隊関係は取り残される危惧

 ともあれ、緊急事態条項は憲法になかったもので与野党を問わず多くの政党が必要性を認識し、条文案の作成も視野に入りつつあるとのことである。

 ところが、憲法改正の本丸は9条と自衛隊の関係である。

 国際情勢、中でも近隣情勢の激変から緊急を要するのは、自衛隊に明確な地位を与え、持てる力を存分に発揮して国家と国民を守れる状態にすることではないだろうか。

 これこそが自衛隊法に明記する身を賭して国民の付託に応えるということである。

 兵器・装備は最新型を持っていいですよ、しかしその能力の100%発揮はダメだというのでは何のために多大の予算を使っている自衛隊か理解に苦しむ。

「存在する自衛隊」時代は給油装置を持った戦闘機を購入しながら戦略的な運用はダメとして、カネをかけて給油装置を取り外した。

 もはやそんな悠長な時代ではなく、「戦う自衛隊」の時代である。

 しかし、現在の9条は「戦う自衛隊」を許さない。他方で、日本のこうした状況を横に見ながら、近隣国は戦略・戦術兵器の開発と配備に血眼である。

「台湾有事は日本有事」の認識は高まっている。

 他方で半島有事については誰も端的な表現をしないが、同様に「半島有事は(も)日本有事」である。

 台湾や半島情勢が日本有事を惹起するばかりでない。中国は日本固有の尖閣諸島さえ「核心的利益」に組み込んでおり、現実に同島周辺での存在感を日に日に増している。

「戦う自衛隊」は国際法の縛りは受けるが、領域と国民を守るために国内法で最大限の力を発揮できるようにしなければならない。

 分かりやすい表現をするならば、シビリアンコントロールを受ける以外の縛りはなくして、国家の資源と自分の持てる能力を効率的・効果的に最大限活用できるようにしなければならない。

 縛りは9条から出てきているわけで、自衛隊の認知と縛りの解放は喫緊である。

 ところが、フォーラムで聴いた範囲では、政党間の合意形成の容易性ということから、緊急事態条項のみが先行して、身を犠牲にしてでも国家・国民を守るという自衛隊が後回しにされかねないようだ。

 硬性憲法と呼ばれるように、一字一句も改正されなかった憲法に何としても風穴を開ければ、積み残した問題(中でも9条)に対する改憲のハードルも低下し、しばしば改憲も行われるようになるという認識も可能であろう。

 しかし、ここには9条が硬性憲法たらしめていたという認識が忘却され、一度でも改正されれば軟性憲法に転化するとみる過分の推量が働いている。

軟性憲法化するのは9条以外に対してのみ

 一度改正すれば、次の改正も容易になると言う認識は多くの人が持っているに違いない。

 一般的に頷けることであり、憲法を論ずる多くの識者もそのように言っていた。

 しかし改正に何とか近づいてきた今、落ち着いて考えてみると、75年以上も頑として改正できなかった憲法に関してだけは一般的な見方が通用しないのではないだろうか。

 中でも9条がらみではなおさらの感がする。

 教育問題、合区の問題もあるが、これらと戦争意識に関わる9条は日本人の感性では全く違った受け止め方をされてきた。

 いま大きな問題として出てきている同性婚LGBT問題などもある。

 容認派と否認派では大いに見解が違っているが、それでも9条問題とは比較のしようがないほど合意は取り付けやすいのではないだろうか。

 緊急事態条項の加憲が成立しても、次に9条改正が成立するとは限らない。

 次に改正されるのは教育や合区問題、さらには新出の同性婚LGBT問題かもしれず、これらに関しては憲法の軟性化が実現しても、こと9条と自衛隊に関して硬性憲法であり続けないとは誰が言えようか。

 ともあれ、軟性憲法に転化したとしても、それらは教育、合区、婚姻、少数者問題などに於けることで、こと9条絡みでは初回に取り残されたならば依然として硬性憲法として立ちはだかる危惧が絶えない。

中国の台湾侵攻予測

 中国の台湾侵攻がいつ行われるかは議論が分かれている。しかし、習近平主席の任期が終わる2027年までの間という見解では一致している。

 米国のアントニー・ブリンケン国務長官は現政権に油断があってはならないことからか「近々にも可能性がある」ように発言している。

 習近平氏が3期目に就く前に見られた発言よりも、侵攻時期の予測が早まっていることは確かである。それにはロシアウクライナ侵攻の影響もあると見られる。

 侵攻が生起した場合に対処の責任を有するインド太平洋軍司令官の発言が時期予測の発端であった。

 習近平氏が3期目の主席に就任することは濃厚であったので就任したとしてその間に侵攻するだろうと予測した。その後に就任した司令官も期間内とはいえ、より早めの時期を想定した。

 その後、ロシアウクライナ侵攻があり、推移が捗々しくないことも中国の行動予測に影響を及ぼしている。

 NATO(北大西洋条約機構)は中国がロシアに加担することを警戒しているが、中国から見れば米国に二正面作戦を強いることになれば効果的である。

 このことを考慮すれば米国がウクライナに関わっている状況下が中国にとっては魅力となるからだ。

 こうして、中国は早ければ今年明年中にも台湾に侵攻する可能性があるという見方も出てきた。

 このためにはロシアに頑張って米国を引きつけてもらわなければならない。したがって、中国は自国の国力が減少しない範囲でロシアにエールを送り続けるのではないだろうか。

おわりに

 中国は台湾解放の時期を慎重に探っているに違いない。

 時期の決定要因にはいくつもの課題があるであろうが、米国の覚悟、日本の防衛努力もそうした要因になっていることは確かだ。

 そうであるならば、日本を侵略したり、日本の安全を損なうような行動を取ればタダでは済まないぞ、最悪の場合、自国(この場合は中国)の国民が蜂起し、日頃の抑圧の鬱憤をはらうべく体制の転覆に乗り出し、主席たちの安全は言うまでもなく覚束なくなるぞと思わせることが重要である。

 日本の防衛努力、関係国との緊密な連携、何よりも自由や人権といった人間性の回復などを重視する諸国民を糾合する努力などが大切である。

 日本の為政者も今ようやくそうしたことに気づいた感がある。その第一歩が自衛隊と9条の関係の見直しにほかならない。

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