メタボは確実に体に負担をかけ、寿命を縮めます。今メタボの人が痩せることで得られるメリットは、お金に見積もったらいくらになるのでしょうか。医師から「5キロ痩せたら1年寿命が延びる」といわれて生活習慣の改善に取り組んだ経験をもつ経済ジャーナリストの荻原博子氏が、著書『5キロ痩せたら100万円 「健康」は最高の節約』(PHP研究所)より、医療費や保険料等の経済的な観点から実感を込めて解説します。

メタボより怖い「糖尿病」

メタボは、非メタボより医療費がかかりますが、さらに深刻な事実をお伝えしましょう。

メタボを放置すると発症しがちな「糖尿病」のリスクです。

医療経済研究機構の「政府管掌健康保険における医療費等に関する調査研究報告書・平成16年度」によれば、糖尿病患者1人当たりの平均的な医療費は年間24万7,000円とのこと。本人負担が3割のケースだと年間7万4,100円です。

ただしこれは糖尿病になると平均的にかかる医療費であり、糖尿病が本当に怖いのは、この病気が様々な合併症を併発し、そのたびに医療費の負担が増えていくことです。

「糖尿病+合併症4つ」で医療費は2.5倍に!?

糖尿病の3大合併症は、神経障害、網膜症、腎症です。

神経障害は、主に末梢神経と呼ばれている足の指など、体の末端に張り巡らされた神経で起きる障害で、足の裏ビリビリしたり、本来なら感じるはずの足の傷の痛みを感じなかったり、立ち上がった時にふらついたりするほか、自律神経の乱れから便秘になったりといった症状も起きます。

神経障害から血流障害がひどくなると、足が壊疽(えそ)して切断しなくてはならないケースも出てくるようです。

網膜症では、視力が低下したり、白内障、緑内障、角膜の炎症などを引き起こす可能性があります。ひどいケースだと眼底出血や網膜剥離が起こり、失明することも。

こうした状況が5〜10年続くと腎症を発症します。これは「肝臓の障害」です。むくみや倦怠感、尿量の低下などが起こり、症状がさらに悪化すると人工透析が必要になる可能性もあります。

さらに、動脈硬化による脳梗塞や虚血性心疾患などを併発する可能性があります。

前述の医療経済研究機構によれば、糖尿病で合併症を発症した場合の1人当たりの年間の医療費(レセプトの点数・2003年)も明らかになっています([図表1])。

これによると、合併症が1つなら、合併症がない場合に比べて医療費は1.2倍。合併症が2つなら約1.8倍、合併症が3つなら約2倍、合併症が4つ重なると、なんと約2.5倍の費用がかかるとのことです。

体重が重いほど、医療費はアップ

個人的にショックだったのは、体重が増えれば増えるほど、糖尿病の合併症を併発しやすく、医療費が上がっていく傾向にあるということです。

経済学者の古川雅一氏らの研究によれば、この調査のBMI(体重[キロ]を身長[メートル]の二乗で割った数値、ボディマス数値)の平均値は23ですが、このデータが発表された2007年時点では、BMIが30以上になると糖尿病の医療費が2.5倍に、高血圧なら医療費は1.3倍にまで上がる可能性があるそうです。

BMIが30といえば、平均的な男性なら体重が約20キロ増える、女性なら体重が約16キロ増える状態([図表2])。

ちょっと気を抜けば、起こりうる体重の変化ではないかと、私自身の経験から思うのです。

もちろん、メタボから発症しやすい病気は糖尿病だけでありません。高血圧、脂質異常なども発症し、脳卒中や心筋梗塞といった病気も併発し、さらに多額の医療費がかかる可能性があります。

このような病気で、様々な薬をもらい続けていくことになると、40歳でメタボの人は、その後の約50年で、薬の自己負担額だけでも100万円〜200万円かかると言われています(2017年9月時点での試算)から、家計にも大きなダメージを与えるのは明らかです。

■節約ポイント

医療費が増える原因は、糖尿病とそれによって併発しやすくなる様々な「合併症」。それを防ぐためには、まず体重が増えないように注意する。

スナック菓子が家計に与える「見えない影響」

メタボになると、医療費の出費が増えるため、そのぶん「貯金」ができなくなります。

しかも、栄養が偏ってメタボになる人のなかには、食事が外食やコンビニ弁当という人も少なくありません。そうなると、自炊するよりも食費が割高になり、さらに貯金できないという悪循環に陥るケースも出てきます。

若い時は基本的に健康なので、問題はないでしょうが、栄養が偏った状況が長く続くと、体調不良になりやすく、ある程度の年齢になって体調不良が続くと、十分な働きができなくなって収入が下がってしまうかもしれません。

体調も不調になり、貯金もできないというのは、人生における最悪な状況です。

メタボになると、医療費が増えて貯金ができなくなる」と聞いても、にわかには信じられないという人のために、「肥満と家計の関係性」についての調査を見てみましょう。

「お金持ちほど太っている」は昔の話

お金があれば、たくさん食べ物などを買えるので太りそうな気がしますが、じつは、「世帯年収が低くなると肥満リスクが高まる」という調査結果があります。

滋賀医科大学アジア疫学研究所(現在の滋賀医科大学NCD疫学研究センター)が、厚生労働省発表の「国民生活基礎調査」と「国民健康・栄養調査」(2010年)をもとに分析した2018年3月発表のデータによれば、世帯年収200万円未満の群は、世帯年収200万円〜600万円の群、世帯年収600万円以上の群よりも、肥満リスクが高くなるそうです([図表3])。

その背景には、炭水化物の摂取量があるようです。パンやおにぎりなど、安くて簡単に買って食べられる食事には炭水化物が多く含まれる傾向にありますが、収入が少ないと、どうしてもこうした炭水化物中心の食事に偏りがち。

昭和の時代までは、「貧乏な人ほど痩せていて、お金持ちほど太っている」のが世間の常識と思われていました。

ところが、今はその逆で「お金持ちほどスリムで、お金がない人ほど太っている」という傾向にあるようです。

たしかに、年収が低い方ほど、食生活の選択肢も狭まりがちで、自炊をせず、コンビニ弁当やハンバーガー、牛丼などを食べて、間食にポテトチップや甘いお菓子を食べているという人も少なくないのではないでしょうか?

その結果、太ってしまうというわけです。

この傾向は、日本だけではなく、アメリカでも顕著に現れています。

米国のハーバード公衆衛生大学院の研究チームが、成人600万人以上が自己申告した体格指数(BMI)を分析し、高度肥満のリスクは、とくに女性、非中南米系の黒人の成人、年収5万ドル(約650万円)未満の低所得者層に多いという結果を2019年12月に発表しました。

なぜ貧困層などで肥満率が上がっているかといえば、糖分の多い飲み物やカロリーばかりが高い食べ物に食生活が偏りがちだから。

ファストフードにみられるような高カロリー食品のほうが、お金持ちが摂っているオーガニック食品などよりも安価で手に入るからです。

また、時間やお金に余裕のある方が行なうエクササイズによる体重管理も、収入が低いと取り組みにくいことも要因に挙げられています。

「貯金ができない」と嘆く前に、まずは自分自身が偏った食生活を送っていないかどうか振り返ってみましょう。

■節約ポイント

1日の食事内容を書き出し、炭水化物中心の「高カロリー生活」になっていないかチェックする。

荻原 博子

経済ジャーナリスト

(※写真はイメージです/PIXTA)