いま、日本が抱える一番重要な問題は「少子高齢化」といえます。少子高齢化による総需要の減少によって、デフレ人手不足中小企業の低収益化、年金問題、貧富の差の拡大、財政の悪化といったさまざまな問題が引き起こされてきたのです。

少子化による低成長化

日本が抱える多くの問題の中で「まず日本の少子高齢化を何とかしなければならない」と答えると、いろいろな反論が返ってくるでしょう。特に経済の低成長化に対する問題については、多くの経済学者が疑問を呈しています。

その大きな理由は、大きく分けて二つあり、一つ目は、人口増加率と国民一人当たりのGDPの伸び率は無関係だとする説。もう一つは、「人口増加率の低下(働き手の減少)による生産性の減少は、生産過程を機械化する事によって代替可能である」といったものです。

しかし、我が国においてこの考えは完全に的外れだといわざるを得ません。

まず一つ目の、人口増加率と国民一人当たりのGDPの伸び率が全くの無関係だとする説ですが、その根拠となる資料にOECD加盟国の1990年以降の人口増加率と経済成長というものがあります。

この調査では1990年以降の人口増加率と、それに対する一人当たりのGDPの伸び率には全く関連性がない……、と表面上は推察する事ができます。しかし私の説では、この資料にはある重大な欠陥があり、このため一見しただけでは人口増加率とそれに対する一人当たりのGDPの伸び率には全く関連性がないように見えてしまっていただけの話だったのです。

では、その欠陥とは一体何でしょうか? それは、国の成長率の伸び方には大きく分けて二種類あり、人間に例えると、成長盛んな子供の時期と、大人になり成長が止まった成熟期に分けられ、このOECDデータも本来は成熟期を迎えた先進国と、成長盛んな発展途上国とに分けて比較、検証しなければならなかったという事なのです。

では、先進国発展途上国とでは、どうしてこうも経済成長の仕方が違うのでしょうか? それを答える前に、そもそも「経済成長」とは経済学的にどういった現象の事をいうのでしょう。

経済成長とは、その国の需要と供給において、有りあまる需要に対し供給がそれに追いつこうとする現象(スピード)の事をいいます。これが、経済学における最も根本的な原則であり、どの国においても必ず当てはまる法則です。

つまり、その国が少子化傾向だろうと何だろうと、その国の総需要が供給能力よりも大きく上回っていればいるほど、経済成長率が高くなりやすいという事なのです。

このため、発展途上国では生産能力が需要に対して未熟なため、作れば作るだけモノが売れ続けてしまっていたのです。

しかし、需要に対し供給が完全に追いついてしまった日本においては、話が全く違ってきます。もうすでに欲しいモノのほとんどを手に入れてしまっている日本人からすれば、余計に作ってしまった分だけ在庫があまり、けっして去年以上の数が売れる事はありません。

そしてそこに少子高齢化による人口減少によって、今後は逆に需要が落ち込み始める事が、予想されているのです。

政治家、経済学者…少子化対策に消極的な人が多いワケ

では、なぜ日本の政治家や経済学者の中には、少子化対策について消極的な考え方の人が多いのでしょうか? それは、戦後の少子化が、日本の高度経済成長を支えた国策の一つだったからです。

もともと少子化は、吉田茂による戦後日本の復興政策の一つでした。終戦後、焼け野原だったその当時の日本は、戦場が日本本土だった事から、日本の供給設備が徹底的に破壊され尽くし、まともに市場に物が供給できるような状態ではありませんでした。

それによるモノ不足……、ここでいう有りあまる需要を解消するために、当時の日本政府がとった政策の一つが少子化政策だったのです。

発展途上国が有りあまる需要に対して、市場に十分にモノやサービスを供給できるようになるためには、子供の出生数を減らさなければならない。なぜなら、子供一人にかける教育のレベルを上げるためには、子供の数を減らしたほうが都合がいいからなのです。

また、企業の生産性(供給能力)を上げるためには、企業は積極的に設備投資をしなければなりません。しかし、そのためには国民はできるだけ消費を抑え、その分を銀行に貯蓄し、その貯蓄した資金を銀行は企業に貸し付けなければ、企業は設備投資を行う事ができません。

しかし、子沢山の家庭では、とても貯蓄を行うだけの余裕が生まれにくく、このため日本政府は企業の生産性を上げるために、戦後、積極的に少子化政策を推し進めてきたのです。

この理由から、今では世界のマーケットで十分戦っていけるだけの競争力を持った製品を、我が国は市場に安定的に供給できるようになり、モノ不足も無事解消されるようになりました。そして、今では供給が需要に追いつきモノあまりの時代になってしまったのです。

大山 昌之

(※写真はイメージです/PIXTA)