「十年ひと昔」と申しますが、アニメの世界で10年前は大昔のように感じることもあれば、今でもバリバリ現役のシリーズ作品がすでに放送されていたりという、微妙かつちょうどいい間合いの時間です。

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今回はそんな10年前──2013年の春クール、TVアニメの世界でどんな作品が放送されていたのかを見ていきたいと思います。

 

進撃の巨人

 


2009年の雑誌連載開始当初から大きな話題を呼んでいた「進撃の巨人」が、このシーズンにアニメ化されました。

 

世界観についてはもはや説明の必要もないでしょう。人を食う「巨人」の脅威に人類が怯える世界、主人公のエレン・イェーガーは壁の外の世界に憧れ、過酷な調査兵団に入団します。

メインキャラクターであっても容赦なく巨人に喰われるハードな世界観。街を蹂躙する巨人に、等身大の人間が立ち向かう姿が強烈な印象を与える「立体機動」アクション。未熟な少年エレンがさまざまな試練に立ち向かって強くなる成長譚的な要素。個性的なキャラクターたちによる群像劇

新鮮な要素はとにかく新鮮でありつつ、娯楽の王道的な面白さはキッチリと押さえられています。原作の諫山創氏はこれがデビュー作というのですから、世に言われるとおりの天才と言えるでしょう。

 

そのようなわけで、アニメ版にかかる期待は非常に大きなものがありました。制作するのは、作画の美しさに定評のあるProduction I.Gと縁の深いWIT STUDIO。スタッフは、監督に「DEATH NOTE」「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」の荒木哲郎氏、シリーズ構成は「仮面ライダー電王」「ジョジョの奇妙な冒険」の小林靖子氏、キャラクターデザインに「PSYCHO-PASS サイコパス」の浅野恭司氏とベテラン・実力派を揃えています。

 

本作におけるメディアミックスの難しさは、どのキャラクターにもファンがいる中で群像劇を描かなければならないこと。そして、ダイナミックな立体機動を動きのある映像としなければならないことの2点が大きいでしょう。注目作だけに、解釈違いなどはもってのほか。少しのミスが大ごとになりかねない状況です。

しかし、前述したスタッフ陣はこの困難を見事に乗り越えて、本作は現時点で4期続く大河シリーズへと成長しました。

 

アクションシーンの迫力と作画の高品質さはかなりのもので、放映時にはネットで「まるで劇場用アニメを見ているかのよう」という声も聞かれました。原作コミックでは作者・諫山創氏の作家性を生で味わい、アニメでは動きや声優の演技、再構築された脚本で物語を楽しめるのですからファンとしても大満足。

諫山氏は自分のブログ(http://blog.livedoor.jp/isayamahazime/archives/7819782.html)で冗談交じりに「原作はアニメの方、僕は絵の描けないコミカライズ担当という感じ」と語っていますが、それほどにすぐれたアニメ化だったのです。

 

はたらく魔王さま!

 


和ヶ原聡司氏の人気ライトノベルが、このクールにアニメ化されました。

 

真奥貞夫(まおうさだお)こと魔王サタンは、勇者との戦いに敗れて現代日本へ転移。慣れない世界に苦労しつつも、持ち前の度量の大きさで適応し、ファーストフード店で正社員になることを目標に日々を暮らします。

そこに現れたのが、遊佐恵美(ゆさえみ)の偽名を名乗る、真奥の仇敵・勇者エミリア。彼女は契約社員として働きつつ、真奥を監視するためストーキングするのです。

本作の魅力は、魔王や勇者といった超存在たちが現代日本でカルチャーショックを受けつつ暮らす姿の面白さにあるでしょう。魔王でありながらもお金に苦労し、部下に無駄遣いをたしなめられる真奥の姿からは、理屈抜きの笑いが生まれます。

 

このほか、悪魔大元帥なのにやりくり上手な芦屋四郎(あしやしろう)ことアルシエル堕天使なのにニートで周囲から冷たい目で見られる漆原半蔵(うるしはらはんぞう)ことルシフェルといった個性的なキャラクターたちが多数登場。異世界ではすごい人たちであるはずなのに人間臭く庶民的で、感情移入してしまうのです。

 

アニメ版は「ヨルムンガンド」を手がけ、後に「ご注文はうさぎですか?」「ゴブリンスレイヤー」のアニメ化でも高く評価されるWHITE FOXが制作を担当。原作者に依頼して真奥たちの異世界「エンテ・イスラ」の言語を設定するなど、ていねいなアニメ化が行われています。前評判だけでなく、実際に放映されての評価も高かった本作ですが、第2期はなかなか作られず、続編の「はたらく魔王さま!!」まで9年ものスパンが空いてしまいました。その間原作はすでに20巻を数えていただけに、熱心なファンからは再アニメ化を喜ぶ声が聞かれたのです。

革命機ヴァルヴレイヴ

 


サンライズ制作のロボットアニメ、その第1シーズンは2013年春クールに放映されています。サンライズといえば「機動戦士ガンダム」をはじめとする名作を多数世に送り出し、ロボットアニメのブームを牽引した、いわば名門スタジオです。

しかし2013年当時、ロボットアニメは世相なのか、作画と設定に要するカロリーが非常に高いためか、作品数はブームの頃よりも少なくなっていました(サンライズ自身も、この頃はアイドルものメディアミックス作品「アイカツ!」「ラブライブ!」を手がけています)。それでもサンライズではロボットアニメへのこだわりが強かったようで、3年ほどの準備期間を経て本作の制作にこぎ着けたといいます。くしくも同じ2013年春には「翠星のガルガンティア」「銀河機攻隊 マジェスティックプリンス」といったロボットアニメが複数タイトル放映されており、ロボットアニメを求める機運が高まっていたことがうかがえます。

 

監督は、美しいドールたちが活躍する「ローゼンメイデン」や、ダークな世界観のホラーをプレスコ(先に台詞を収録してから絵を作る、通常とは逆の形式)で描く異色作「RED GARDEN」など、意欲的な作品を手がけた松尾 衡氏。そして、シリーズ構成は「OVERMANキングゲイナー」「コードギアス 反逆のルルーシュ」といったサンライズロボットアニメでも人気を集める大河内一楼氏が手がけました。「革命機ヴァルヴレイヴ」は「RED GARDEN」と同様にプレスコ形式で制作され、キャストの演技が映像面に与えた影響は少なくありません。そのためか、作画の質でも高い評価を得ています。

 

本作は、人類の多くが宇宙で暮らす時代を舞台に、2人の主人公の活躍を描きます。ひとり目の主人公は心やさしい高校生・時縞ハルト。「宇宙都市モジュール77」に住む彼は、ある日敵の攻撃に巻き込まれるも、謎のロボットであるヴァルヴレイヴに乗り込んでこれを撃退。戦うことの重さと意味を問い続けながら成長していきます。もうひとりの主人公は、高い戦闘能力と明晰な頭脳をあわせ持つ軍人のエルエルフ。年齢こそハルトと同じですが、孤児でありテロリストの末端構成員として使い捨てられた経験のせいか、非情な側面を持っています。とある目的から転校生としてハルトの学校に潜入した彼は、ハルトに自分との「契約」を持ちかけるのです。平和な学園と戦争、対照的な2人の美形主人公、息をもつかせぬ物語が好評を博し、小説や漫画などメディアミックス展開も見られました。

 

ちなみに現在大人気を博している2023年春クールアニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女」ですが、こちらのシリーズ構成も本作と同じ大河内一楼氏が手がけています。「水星の魔女」を楽しみんでいる方で、まだ「革命機ヴァルヴレイヴ」を未体験という読者は、ぜひこの機会に10年前に大きな話題を呼んだ同じシナリオライターの作品を楽しんでみてはいかがでしょうか。


(文/箭本進一)


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【2013年春アニメを振り返ろう!】「進撃の巨人」「はたらく魔王さま!」「革命機ヴァルヴレイヴ」──2010年代を代表する重要な作品が多数スタート!【アニメ10年ひとむかし】