静岡ホビーショーで初公開されたもののひとつに、御殿場市のNPO団体が出展した実物の九五式軽戦車があります。そこでNPO代表が感じたのは、まだ認知度が低いという点。日本製の本物の戦車だと積極的に発信するところから始めるそうです。

一般初公開となった80年前の動く戦車

静岡県静岡市で2023年5月10日から14日まで開催されている「第61回静岡ホビーショー」。このイベントに、今回初めて展示された車両があります。それがNPO法人「防衛技術博物館を創る会」が保有する九五式軽戦車です。

この戦車は、第2次世界大戦前に旧日本陸軍が正式化した兵器で、当該車両はもともと太平洋戦争中に南太平洋のポナペ(ポンペイ)島に配備されていたもの。戦後しばらくは放置されていましたが、日本人が引き揚げて京都や和歌山などで展示されていました。

しかし、その日本人所有者が手放したことで、車両は外国人コレクターへと渡りました。国内に2つとない貴重な車両を日本に戻そうと、NPO法人クラウドファンディングで広く支援を募って購入資金を確保し、外国人コレクターから買い戻して、昨年(2022年)12月に日本へ里帰りさせています。

先月には無事の帰国を記念した支援者限定のお披露目会を実施しましたが、一般イベントでこの九五式軽戦車が展示・公開されるのは今回が初めてになるそうです。

旧日本軍の戦車と静岡ホビーショーという組み合わせは一見すると不思議な組み合わせのようにも思えます。NPO法人の代表理事である小林雅彦さんに、今回の展示について理由を尋ねてみました。

「そもそも展示した一番の理由は、九五式軽戦車の現物を多くの人に見てもらいたいという点にあります。また、NPO法人としては、不特定多数の人々が集まり、かつ参加料が無料であるイベントが望ましいと考えていましたので、今回の静岡ホビーショーはその点でも合致していました。さらにもう一つ付け加えれば、プラモデルが好きな人は、戦車というものにも理解があると考えたからです」

NPO代表の「自ら発信せねば」の意味

実際に展示された九五式軽戦車を見た来場者の反応はさまざまで、小林さんに聞いたところ最も多かった反応は「これ本物ですか?」という質問だったとのこと。なかには、「これは3Dプリンターで作ったんですか?」と、ある意味でホビーショーらしい質問をしてくる人までいたそうです。

ミリタリーに日頃から興味のある人々のあいだでは、この里帰りした九五式軽戦車は比較的知られた存在になったといえるでしょう。しかし、世間一般から見れば、その知名度はまだまだ低く、会場で見ていた筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)の印象では、これが日本製の戦車だということすら知らない人が多かったように感じました。

しかし、そのような会場の反応に対しても、小林さんは前向きな言葉を述べていました。「情報という字は『情けに報いる』と書きますよね。私は、情報とは集めるものではなく、こちらから発信することで、初めて反応が返ってくるものだと考えています。まずは知ってもらうところから始めて、本物の戦車を見て興味を持ってもらい、我々の活動の応援団になってくれればと思っています」

静岡ホビーショーでは九五式軽戦車の実物展示のほかに、小林代表がブースに立って質問に答えたり、映像やパネルを展示したりと、まずは認知してもらおうと積極的に動いていることが感じられました。

小林さんいわく、今後もさまざまなイベントに九五式軽戦車を出展させる予定とのことなので、その際にはぜひ足を運んで、NPO法人の活動とともに本物の戦車の迫力を感じてみてください。

第61回静岡ホビーショーで展示されるNPO法人「防衛技術博物館を創る会」の九五式軽戦車(布留川 司撮影)。