
居場所がなくても幸福と思える生き方とは?2040年には、独身者が「5割」に。だれも見たことのない、超ソロ社会が到来する。ますます個人化が進む中、私たちは家族や職場、地域以外に、誰と、どこで、どうつながれば、幸福度を高められるのか?また、親として、人生の先輩として、これからその時代を生きる子どもたちに何を伝えられるのか?ソロ社会及び独身生活社研究の第一人者、荒川和久氏の著作『「居場所がない」人たち』から一部抜粋してお送りします。
「女性一人につき平均1.3人出産」という報道の“ワナ”
「少子化」関連のネタは、定期的にニュースになる。そのたびに「出生数は過去最低」「国難だ」のようにインパクトのあるタイトルで話題を誘っている。
さすがに、人口動態調査に基づいた出生数や合計特殊出生率が改ざんされることはない。しかし、数字自体は正しくても、その数字がどういう計算式で成り立っているかについて、そもそも無知な記者も存在するので注意が必要だ。
たとえば、合計特殊出生率という数字。一人の女性が生涯に産む子どもの数として紹介されている。
2021年の日本のそれは1.30である。よって、女性一人につき平均1.3人しか出産していないと報じているところもあるが、それは大いに誤解を招く。
誤解とは、「1.3人しか産んでいないということは、現在は二人兄弟姉妹家庭が少なくなって、一人っ子だらけなのか」というものである。
メディアはあえてその誤解を招く形の紹介をすることで、「子育てするにもお金がかかる。夫の育休促進や保育園の問題もある。一人目は産んでも二人目は産めない。それに対応しない政府はけしからん」といいたいのだろう。
合計特殊出生率とは、15ー49歳までの全女性の各歳ごとの出生率を足し合わせて算出したものである。が、全女性という以上、この中には、15-49歳の未婚女性も分母に含まれる。
よって、未婚率が高まればそれだけ自動的に下がることになる。
2020年の国勢調査において女性の生涯未婚率(50歳時未婚率)は過去最高の17.8%となった(配偶関係不詳補完値による)。
しかし、これは対象年齢が45-54歳に限っての話である。合計特殊出生率と同様に15-49歳で見れば、未婚率は47%にもなる。つまり、分母のほぼ半分が未婚者で占められるほど未婚率が増加しているのであり、出生率の値が下がるのは当然なのだ。
ちなみに、皆婚時代と呼ばれた1980年の同年齢帯での未婚率は30%だった。
少子化問題ではなく、「少母化問題」
単純に人口千対(千人に対する割合)で計算した粗出生率というものもある。が、これも、高齢者人口比率が増えれば増えるほど計算上の出生率も減るので妥当ではない。これは全体人口の自然増減を見る時に有効な指標である。
出生動向基本調査においては、完結出生児数という指標もある。これは、結婚持続期間(結婚からの経過期間)15ー19年夫婦の平均出生子ども数を抽出調査から明らかにしたものだが、これも結婚15年未満は全部対象外である。
他にも、社人研が人口統計資料集の中で出している有配偶出生率というのがある。これは、15-49歳の有配偶女性人口を分母として、嫡出子の割合を人口千対で計算したもので、より実態に近いものといえる。
さらには、私の独自の指標として、発生結婚出生数というのもあわせて紹介したい。これは、出生数を婚姻数で除したもので、1婚姻当たりどれくらいの出生数があるかを数値化したものである。
以上、4つの指標を長期推移で見比べたものが、以下の図となる。
未婚者を含む合計特殊出生率がもっとも値が低くなるのは当然として、注目していただきたいのは、1990年以降の他の3つの指標の推移である。
完結出生児数は、2002年まで横並びで、その後は微減状態になったが、それでも2021年時点で1.90人の出生となっている。発生結婚出生数も1995年と2020年はほぼ変わらず、大体1婚姻当たり1.5〜1.6人程度の子どもが産まれていることを意味する。
これは離婚した夫婦も含むので、婚姻継続した夫婦に限れば、完結出生児数同様1.90くらいにはなるはずだ。また、有配偶出生率に至っては、むしろ1995年より2015年にかけて増えていることがわかる。
つまり、母親一人当たりの産む子どもの数は変わっていないのだ。
にもかかわらず全体の出生数が減っているのは、未婚者の増加=婚姻数の減少によるものである。いい換えると、年間出生数が80万人を割り込む勢いで激減している理由は、そもそも子どもを産む対象である母親の絶対数が減少しているからである。
メディアでは「少子化、少子化」と騒ぐが、問題の本質は、少子化ではなく、母親の数が減っていることによる「少母化」なのである。

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