慣れ親しんだ会社で働き続けることができる環境が整いつつあり、定年後も働く選択をする人が半数以上を占めるようになりました。しかしせっかく再雇用されたにも関わらず、途中で退職したり、転職したりするケースも多いとか。そこには若手社員との軋轢があるようで……みていきましょう。

60歳定年過ぎても現役…シニア従業員は増加の一途

内閣府令和4年版高齢社会白書』によると、労働力人口のうち「65~69歳」の者は410万人、「70歳以上」は516万人で、労働力人口総数に占める「65歳以上」の割合は、2000年7.6%→2005年7.6%→2010年8.8%→2015年11.3%→2020年13.3%と、上昇の一途を辿っています。

就業率の推移をみていくと、「60~64歳」では2011年57.1%→2021年71.5%、「65~69歳」で2011年36.2%→2021年50.3%、「70~74歳」で2011年22.8%→2021年32.6%、「75歳以上」で2011年8.4%→2021年10.5%と、いずれの年代でもこの10年、上昇傾向にあります。

役員を除く雇用者のうち非正規社員の割合をみていくと、男性では「55~59歳」で10.5%なのが、「60~64歳」で45.3%、「65~69歳」で67.8%と、60歳を境に大幅に上昇。女性では「55~59歳」で59.1%、「60~64歳」で74.7%、「65~69歳」で83.9%と、男性に比べて上昇幅は小さいものの、同じく60歳を境に非正規社員の割合は増えています。これは60歳の定年を境に、雇用形態を変えて働き続ける人が多いからだと推測されます。

定年後の再雇用は高年齢者雇用安定法で定められ、企業は従業員が希望すれば基本的に65歳まで雇用し続けなければいけません。厚生労働省『高年齢者雇用状況等報告』によると、60歳定年企業において、調査期間(2021年6月1日~1年間)に定年に達した人は、37万9,120人。そのうち継続雇用された人は87.1%、継続雇用を希望しない定年退職者はわずか12.7%でした。

60歳以降も働きたいと考えるのは、原則、年金の支給が65歳からというところが大きいでしょう。もし60歳定年で現役を引退してしまうと、そこから5年間は収入なし。ただ貯蓄が減っていくのを眺めることになります。長寿化が進むなか、それは苦痛以外の何物でもないでしょう。

働き続けられるのに鬱…再雇用にまつわる2つの大問題

定年を迎えても同じ会社で再雇用されるメリットとして、慣れた環境で働き続けられることにあるでしょう。気心知れた仲間と働き続けられる……しかし、喜び束の間、本来であれば65歳まで働けるにも関わらず、途中で退職してしまったり、転職してしまったりするケースも多いとか。そこには再雇用にまつわる、2つの大きな問題があります。

①「やりがい」が感じられない

再雇用前は、ベテラン社員として重要なポジションにいた人も多いでしょう。しかし定年を機に、契約社員や嘱託社員になった際に、それまでのように重要な仕事に携われることは稀。「キャリアを活かせてない……」とやりがいを感じられず悩むシニア従業員は多いといいます。「あの人、何の仕事しているんだろ?」と周囲から思われるようなポジションしか与えられないケースもあり、社内で孤立を深めてしまうことも。

②人間関係に悩む

ついこの間まで上司だったり先輩だった人が、「今日からは嘱託社員としてよろしく」といわれても、双方に納得しづらいもの。怒るに怒れない、頼るに頼れない……どこかぎこちなくなってしまうことも珍しくないようです。

また給与面でも、人間関係をややこしくします。パーソル総合研究所『シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査』によると、「私の会社ではシニア社員が給料を貰い過ぎていると思う」という社員が、20代で30.0%、30代で27.6%、40代で20.1%、50代で15.9%。若い社員ほど不公平感を覚えていることがわかります。

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、大卒・男性・正社員「55~59歳」の給与は、月収52.5万円、年収で857.6万円。そして60歳定年で、非正規社員になると月収は32.3万円、年収で490.8万円になります。

本人からすれば、4割ほど給与が減っているわけですから、「こんなに給与が減るんだ……」と肩を落としていることでしょう。ただこの月収、30代前半32.1万円と同水準。賞与を含む年収は544.9万円で、シニア従業員を50万円ほど上回っていますが、たとえお世話になった元・上司といっても「もう定年を迎えた人なのに……」と納得がいかない部分も多いでしょう。

――職場の老害がウザい

SNSで投稿されるシニア従業員への舌打ちまじりの陰口。若手社員との溝は、相当大きいものと心得ておいた方がいいでしょう。

(※写真はイメージです/PIXTA)