SNSで誹謗中傷を受けた際、相手にはどの程度の損害賠償額を請求できるのでしょうか。損害賠償を請求する際の対応方法や注意点などとともに、損害賠償額の相場についてAuthense法律事務所の弁護士が解説します。

SNSでの誹謗中傷はなぜ起こる?

誹謗中傷とは、根拠のない悪口をいいふらして相手を傷付ける行為です。誹謗中傷は損害賠償請求の原因となるほか、刑法上の侮辱罪名誉毀損罪などに該当する場合もあります。では、SNSでの誹謗中傷は、なぜ起きてしまうのでしょうか? その主な理由は、次のとおりです。

■匿名であるため

多くのSNSでは、ユーザーが匿名で利用できます。 そのため、自分が誰だかわからないであろうとの安心感から、安易に相手を攻撃する可能性があります。

■相手の顔が直接見えないため

SNSでは対面での悪口などとは異なり、相手の顔を直接見ることができません。 そのため、相手が傷ついていることへの想像力が働かず、エスカレートしやすいといえるでしょう。

■法的請求のハードルが高いため

後ほど解説するように、SNSでの誹謗中傷へ法的責任を追求するためには、まず相手を特定しなければならず、法的責任を追及するハードルは低いものではありません。 そのため、「どうせ法的責任の追及まではしてこないだろう」との算段で誹謗中傷をする場合もあります。

■表現の自由との線引きが難しいため

表現の自由とは、意見や感情などを国家権力によって抑えられない権利であり、日本国憲法21条である「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」との規定を根拠とする権利です。

SNSでの投稿にも当然表現の自由があります。表現の自由として保障される範囲内なのか範囲外なのかの判断は非常に難しく、事例ごとに判断されることとなります。誹謗中傷をする人のなかには、「表現の自由があるから、なにをいっても自分の自由だ」と誤解している人もおり、これもSNSで誹謗中傷が起きる理由の1つでしょう。

SNSで誹謗中傷を受けたら?

SNSで誹謗中傷を受けた場合には、どのように対応すればよいのでしょうか? まずは法的な対応のみに限らず、対応方法の全体像について解説していきましょう(※1)。

投稿を削除して欲しい場合

誹謗中傷する投稿を削除して欲しい場合には、SNS運営企業などに削除請求をすることができます。ただし、SNSの投稿は相手の表現の自由とのバランスが難しく、SNS各社が任意で請求に応じてくれる可能性は高くありません。

そのため、削除請求をしたい場合には、法務省が行っている「インターネット人権相談窓口」へ連絡するほか、弁護士へ相談するとよいでしょう(※2)。

ただし、刑事告訴や損害賠償請求を検討している場合には、削除請求をするかどうかについて慎重に検討する必要があります。なぜなら、先に削除請求をして証拠である投稿が削除されてしまうと、刑事告訴や損害賠償請求が難しくなる可能性が高いためです。削除請求のタイミングなどで迷ったら、誹謗中傷問題にくわしい弁護士へご相談ください。

相手を刑事告訴したい場合

誹謗中傷は、刑法上の「名誉毀損罪」や「侮辱罪」に該当する可能性があります。

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損する罪です。たとえば、X(旧Twitter)の投稿やYouTubeのコメント欄で「X氏は部下と不倫三昧だ」などと書き込む行為は、名誉毀損罪にあたる可能性が高いでしょう。

なお、ここでいう「事実」とは「本当のこと」という意味ではありません。 たとえX氏が実際には不倫をしていなかったとしても、名誉毀損罪に該当し得るということです。

一方、侮辱罪とは、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱する罪です。 名誉毀損罪とは異なり、抽象的な暴言であっても該当しうることが特徴です。たとえば、X(旧Twitter)やYouTubeのコメント欄に「不細工」「でぶ」「キモい」などと書き込む行為は、侮辱罪にあたる可能性があるでしょう。

なお、名誉毀損罪侮辱罪は、いずれも被害者側から告訴があってはじめて起訴することができる「親告罪」です。そのため、誹謗中傷をした相手をこれらの罪に問うためには、被害者側から刑事告訴をする必要があります。刑事告訴をしたい場合には、弁護士へ相談してください。

相手へ損害賠償(慰謝料)請求をしたい場合

損害賠償請求とは、自分が受けた不利益を金銭で賠償してもらう請求です。慰謝料請求といったほうが、イメージが湧きやすいかもしれません。

先ほど解説した刑事告訴は刑法上の概念である一方で、損害賠償請求は民法上のものであり、根拠となる法律が異なります。そのため、損害賠償請求には告訴や被害届の有無は関係ありません。

また、刑法上の名誉毀損罪に該当しなかったとしても、損害賠償請求ができる可能性があります。相手へ損害賠償請求をしたい場合には、できるだけ早期に弁護士へご相談ください。

SNSで誹謗中傷をした相手に損害賠償請求をする流れ

SNSで誹謗中傷をした相手に対して損害賠償請求をする場合、いきなり損害賠償請求をすることができるケースは多くありません。ほとんどないといってもよいかもしれません。なぜなら、SNSで誹謗中傷をする相手は匿名であることが多く、アカウント情報のみでは誰であるのかがわからないためです。

インターネット上での誹謗中傷に対して損害賠償請求をするための主な流れは、次のとおりです。

1.SNSに発信者情報開示請求をする

はじめに、X(旧Twitter)やYouTubeなど誹謗中傷が行われたSNSなどの運営企業等に対して、発信者情報の開示請求を行います。この開示請求によって、次のステップで必要となるIPアドレスやタイムスタンプなどの情報開示を受けます。多くの場合、裁判所の手続きを利用して、発信者情報の開示を受けることとなります。

2.プロバイダに発信者情報開示請求をする

SNS運営企業等から発信者情報の開示を受けたら、そこで開示された情報をもとにプロバイダへ次の段階の発信者情報開示請求を行います。こちらも多くの場合、裁判所の手続きを利用します。ここまでを行って、ようやく発信者の氏名などの情報が判明します。ここまでの手続きにかかる期間は、ケースにより変動しますが、おおむね半年から1年ほどといわれています。

3.損害賠償請求をする

開示請求によって相手の身元が判明したら、そこでようやく損害賠償請求を行うことが可能となります。 相手に対して損害賠償請求を行い、相手が任意に支払わなければ訴訟手続きなどへと移行します。

SNSでの誹謗中傷で認められる損害賠償額の目安

SNS上での誹謗中傷に対して認められる損害賠償の金額は、その内容や頻度などによって異なります。あくまでもおおまかな目安となりますが、被害者が一般個人である場合で1万円から50万円程度事業を営んでいる者や有名人などの場合で10万円から100万円程度といわれています。

SNSの誹謗中傷で損害賠償請求をするときの注意点

SNSで誹謗中傷をされた場合、相手に対して損害賠償請求をしたいと考えている場合には、次の点に注意しましょう。

スクリーンショットで証拠を保存する

誹謗中傷の投稿に対して損害賠償請求を検討している場合には、誹謗中傷された投稿のスクリーンショットを撮影するなどして証拠を保全しておきましょう。スクリーンショットを撮影する際には、次の項目が写るように撮影してください。

・該当する投稿の内容

・投稿者名

・ユーザー名(X(旧Twitter)では、いわゆる「ツイッターID」。「@」から始まるもの)

・投稿された日時

・URL

投稿のスクリーンショットのみでは相手のアカウント名は掲載されても、ユーザー名の表示が不完全である可能性があります。そのため、投稿画面のほか、相手のプロフィール画面などのスクリーンショットも撮影しておくとよいでしょう。

できるだけ早く行動する

インターネット上での誹謗中傷に損害賠償請求をするためには、できるだけ早く行動しましょう。なぜなら、投稿から時間が経過するとSNS運営企業やプロバイダなどでのログ保存期間が過ぎてしまい、責任の追及が困難となってしまうためです。

ログの保存期間は企業などによって異なりますが、おおむね3ヵ月から6ヵ月程度としているといわれています。また、保存期間内であっても、相手が投稿を削除してしまえば損害賠償請求が困難となる可能性があります。そのため、誹謗中傷を受けたらできるだけ早く、可能であれば投稿された当日や翌日に弁護士へ相談するとよいでしょう。

早期に弁護士へ相談する

誹謗中傷への対応を無理に自分で行うことはおすすめしません。相手から一方的に誹謗中傷をされれば反論したくなるかとは思いますが、言い返したり先にダイレクトメールを送ったりすると、損害賠償請求において不利となる可能性があるためです。その場では無視を装ったうえで、すぐに弁護士へ相談しましょう。

まとめ

SNSで誹謗中傷を受けた際、損害賠償請求をするためにもっとも重要なポイントは、自分で応戦などはせず、できるだけすぐに弁護士へ相談することです。 トラブルの発生からすぐに弁護士へ相談することで解決までの期間が早まるほか、損害賠償請求が認められやすくなるでしょう。

参考文献

※1 総務省:インターネット上の誹謗中傷への対策

※2 法務省:法務省インターネット人権相談受付窓口

Authense 法律事務所

(※写真はイメージです/PIXTA)