昨今、クレームの域を通り越した「カスハラ」が社会問題化しています。クレームには自社の商品・サービスの改善のヒントが眠っていることもあります。しかし、過度なクレーム・カスハラに対応する職員の精神的負担は計り知れません。本記事では、CSマナー・クレーム対応の第一人者である古谷治子氏が、著書『カスハラ・クレーム対応 最強ノート』(ビジネス教育出版社)から、カスハラ・クレーム対応の方法について解説します。

恐怖を感じたら、怖いと伝えて緊急回避策へとシフトチェンジする

◆恐怖を感じてまで対応することはない

店内で机や椅子を叩いて叫んだり、土下座を強要するなどは法に触れる悪質な違法行為です。目の当たりにすると頭が真っ白になって何も考えられなくなるのは当たり前のことです。

残念なことに、これらの悪質クレームは近年の接客現場で頻繁に発生していますが、そもそもクレーム対応は恐怖を感じてまでやることではありません。

脅しや暴力をふるわれそうになったら、決して無理をすることなく、率直に「怖い」と伝えましょう。

「お客様の言葉で恐怖を感じて、対応することができなくなりましたので、上席の者と対応を変わらせていただきます」と、その場を離れて、上司や責任者へとエスカレーションします。

電話での対応でも、脅された場合は同じように伝えて構いません。

怖いと伝えることは、お客様に平静を取り戻してもらうための方法でもあり、悪質なクレーマーには威嚇行為だと伝えるためです。さらに対応を打ち切る理由にもなります。

◆職務を妨害する行為は警察に連絡すべき

2013年、某衣料販売チェーン店で、タオルケットに穴が空いていたと、お客が従業員に土下座をさせ、その様子を携帯電話で撮影。さらに自宅に謝罪に来るよう一筆書かせました。この騒動はネットで大炎上し、犯人は逮捕される結末となりました。

土下座の強要が営業妨害や人権侵害になると示された例で、ご存知の方も多いでしょう。

企業の責任者のなかには、悪評につながることを恐れたり、事件でもないのにと警察に連絡するのをためらう人がいますが、暴力的な言葉や態度で担当者を追い詰めるのは、明らかに職務の妨害です。

即、警察に相談する方が安全かつ速やかに事をおさめることができます。

何より、企業には従業員を守る義務があり、危機管理は重要課題です。

日ごろから悪質クレーマー対策として警察や弁護士、保険会社などの専門機関と連携を取っておくことをおすすめします。

録音、録画すると証拠になり同時に暴走を抑制できる

カスハラの場合は、メモに加えて録音、録画が有効

近年はコールセンターの多くで、「サービス向上のため、通話を録音させていただきます」と知らせた上で録音機能を導入しています。

クレーム対応では、メモを取るのが基本です。正確性を期すため、そして記録しながら話を聞くことで、対話の主導権を握るためでもあります。これらの記録はお客様が不当要求に及んだ場合には、第三者に状況を説明する際の証拠にもなります。

メモに加えて、悪質クレーマーへの対応では録音、録画を複合して使うのがオススメです。

メモだけだと、解釈の違いを指摘されたり、有効性を否定される恐れがあるからです。

メモするな、録音するな、プライバシーの侵害だなどと脅してくるクレーマーもいますが、正確に聞き取るための録音、録画は法律違反には当たりません。

可能であれば、相手の承諾を得て堂々と録音したいところ。目の前で録音することで、不当要求の抑制にもなります。

しかし、場合によっては録音しようとしただけで揉める恐れもあり、了承を得ないで記録しても法に触れることはありません。

◆録音、録画の際は注意も必要

記録のための録音録画は法に触れませんが、自分がその場にいないのに、隠して録音装置を取り付けると盗聴行為になるので要注意です。

また、近年では多くのスマートフォンに録音、録画機能が搭載されており、いつでもどこでも記録を残すことができます。

逆にいうと、対応者も知らない間に録音、録画されているかもしれないため、いつ記録されても問題になることがないよう発言には十分注意すべきです。

店舗などでは相手が大声を出したり、暴行に及びそうな場合は防犯カメラでの録画が有効ですが、写っていないと証拠にならないため、カメラが捉えられる位置で対応するように心がけましょう。

古谷 治子

マネジメントサポートグループ

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)