117.35mもの横幅から「世界最大の飛行機」とも称される、米国・ストラトローンチ社の双胴の巨大機「ロック」。その操縦の方法は、通常の飛行機とどのような差があるのでしょうか。

操縦は「右胴体」で!?

117.35mにも及ぶ横幅から「世界最大の飛行機」とも称される航空機が、米国・ストラトローンチ社の双胴機「ロック」。2023年5月13日には、11回目のフライトに成功しています。その規格外の胴体ゆえ、操縦は一見しただけで明らかに難しそうですが、双胴の巨体を一体どのようにして着陸させるのでしょうか。この1機しかない機体を操るパイロットが、海外メディアの取材に対し明かしています。

これを明かしたのは、2022年にロックのテストパイロットになったスティーブ・レイニー氏です。彼は米空軍に在籍し、ロッキード・マーチンF-22戦闘機チーフテストパイロットを務めた経歴を持ちます。

「ロック」は今も拠点とする米国カリフォルニア州のモハーベ航空宇宙港で、2019年4月に初飛行しました。胴体が2つあるのは、宇宙空間の低軌道へ打ち上げるロケットを吊り下げるためでしたが、現在は無人極超音速機試験機の発射というミッションのため、試験を重ねています。先日実施されたテスト飛行では、この試験機の原型機を吊り下げ、空中での切り離しに成功するなど、同機にまつわる動きは、一層活発になりつつあります。

この「ロック」の操縦において、レイニー氏は、左右の胴体で離れた車輪間隔と巨体が受ける横風への対応を、特に気を払うポイントとして掲げています。

2本の胴体をもつ「ロック」ですが、その操縦室は右胴体にあり、ここには、正副パイロットとペイロードオペレーターを兼ねた航空機関士の3人が乗りこみます。モハーベ航空宇宙港の滑走路の幅は最も広いもので60m。そのようななか「ロック」の左右の車輪間は約36mで、着陸時には左右のブレなく設置することが求められるそう。レイニー氏「エラーが許される余地はほとんどありません」とコメントしています。

特別すぎたゆえ?普通の航空機と結構違う着陸法!

飛行機は横風が吹く状況下で滑走路へ着陸する際には、おもにふたつの方法を用います。接地直前まで機首を風上側へ向けながら降下する方法と、機首を滑走路へ正対させて翼を風上側へ下げる方法です。民間機が機首を横に向け滑走路に進入するシーンなどが動画サイトなどにアップロードされていますが、それはおもに前者の方法が使われています。

しかし「ロック」では、機首をいかに滑走路にまっすぐ向けながら降りるかに神経をつかうと言います。そのため、横風が吹く状況では、風上側へ翼を下げる方法を用いるとのことです。

一般的に、航空機の使う磁気コンパスの多くが上2桁の値で示されますが、「ロック」では末尾も含めた3桁を用いることで、より精密に方向を定められるようになっています。磁気コンパスと滑走路の方角のずれを「0」を保ち進入すると言います。

着陸時など低速時に翼の面積を増やし、飛行を続けられるようにする「フラップ」と呼ばれる装置も、特徴的です。民間機などではフラップの展開具合を複数パターンから選択できることが一般的ですが、「ロック」では、「ジャンボ機」ことボーイング747の車輪ドアの伸縮機構を流用しているため、“格納”と“全開”しか選択できないそう。全開したフラップは気流の影響を大きく受けると、レイニー氏は言います。

このように、操縦室ではパイロットが注意深く細かな操縦をしている「ロック」ですが、外から見れば大きな姿には威容を感じます。ボーイング7471969年2月に初飛行した時も、随伴機のパイロットが「(飛行する姿は)まさにファンタスティックだ」と伝えると、747のパイロットは「マジェスティック(威厳がある)といってもらいたいね」と無線交信で返した話が残っていますから、巨大機どうし、「ロック」も同じなのでしょう。

ちなみに「ロック」は、古代神話の巨鳥から名付けられたということですが、その姿は動画やSNS越しでも、やはり威風堂々としています。その裏では、パイロットの繊細な乗りこなしがありました。そうなると、この機のフライトはまた異なる意味で注目できるでしょう。

ストラトローンチ「ロック」(画像:ストラトローンチ・システムズ)。