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 もしも独創的で、創造性あふれるアイデアが欲しいと思ったら、ちょっと眠ってみるといいかもしれない。仮眠してみるといいかもしれない。

 特に、睡眠と覚醒の間を漂う段階、いわゆる睡眠初期段階では、創造的な思考が増大するということが、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームの新たな研究によって明らかとなった。

 浅い眠りの状態は夢を見やすくなるが、この夢が創造力を高めてくれるという。

【画像】 睡眠初期段階(入眠期)と創造性

 発明王エジソンは、何かアイデアが欲しいとき、手に金属の球をもったまま昼寝をしたと伝えられている。

 だんだんウトウトし始めると、手から力がぬけ、球を落としてしまう。その拍子にハッと目覚めると、起きているときは思いつかなかった冴えたアイデアをひらめくというのだ。

 じつは睡眠と覚醒の間の境界には、創造的なアイデアをひらめかせる魔法があることが知られている。この魔法とは夢のことだ。

 眠りにはいくつかのステージがあるが、その中でもちょうど眠りに落ちる時の「N1(浅いノンレム睡眠でうとうとしている状態)」になると、人間の創造性が高まることが科学的に確認されている。

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夢の潜在的能力を引き出すデバイスを開発

 夢の持つ潜在的能力で、創造的なアイデアを教えてもらえるパワーを利用するべく、MITの研究チームによって開発されたのが、見たい夢を見ることができる「ドーミオ(Dormio)」だ。

 この手に装着するデバイスは、指の筋肉や心拍数などの状態から、それをつけている人の眠りのステージをチェックすることができる。

 そして着用者の睡眠状態が「N1」になると、連動しているスマホアプリがあらかじめ決められたテーマの夢を見るよう音声で誘導してくる。

 それから数分後、着用者が次の睡眠ステージに移ると、アプリは着用者を起こし、今見ていた夢を報告させる。

 その性能は確かなもので、ドーミオが実際に見たい夢を見るのに有効であることが実証されている。

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被験者が眠りにつくと、ドーミオは睡眠への移行を追跡しそれを中断させる。被験者は半覚醒状態になり、特定のテーマに向かって夢を誘導することができる / image credit: Fluid Interfaces Group, MIT Media Lab

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ドーミオで特定の夢に誘導することで創造力がアップ

 『Scientific Reports』(2023年5月13日付)に掲載された今回の研究では、ドーミオを使用して夢を見ると本当に創造性がアップするのか探られている。

 実験では、49人の参加者が4グループに分けられ、それぞれ条件を変えながら「ターゲットドリーム・インキュベーション(見たい夢の孵化法)」を行い、創造性への影響が観察された。

 たとえば、あるグループはドーミオを装着して45分間眠るよう指示された。ドーミオは「木」に関する夢を見るよう誘導してくるので、参加者は目が覚めたら夢の内容を報告し、また眠る(制限時間内はこれを繰り返す)。

 また別のグループは、同じようにドーミオをつけて眠ったが、木の夢ではなく、自分の考えを観察するよう誘導された。

 残り2つのグループは、45分ずっと起きていた。ただし一方のグループは、その間木について考えるようながされ、もう一方は、自分の考えを観察するよう指示された。

 この睡眠セッションの後、それぞれの参加者は木にまつわる創造的な物語を描くよう指示(ストーリーテリング課題)された。

 これをまた別の人々に読んでもらい、物語の創造性を評価してもらう。するとドーミオで木の夢を見るよう誘導されたグループが、もっとも創造的であることがわかったのだ。

 また眠るだけでも創造性がアップするようで、眠りながら自分の考えを観察するよう誘導されたグループは、起きていたグループよりは創造的な物語を書くことができた。

Dream to Create: Sleep Onset Boosts Creativity

ドーミオで創造力が約8割もアップ

 木の夢を見たグループは、ほかの創造性テストでも好成績を残している。

 そうしたテストはたとえば、木の創造的な使い方をできる限りたくさん考えたり、提示された名詞に続く動詞を考えるといったものだ(こうした創造的思考を「発散的思考」という)。

 こうした結果をまとめると、見たい夢の孵化法で木の夢を見たグループは、思考を観察したグループよりも43%、眠らなかったグループよりも78%創造性が高かったという。

 また木の夢を見たグループでも、夢を見た回数が多い人ほど、創造性の高い物語を思いつくこともわかった。そうした人たちは、夢で見た内容を物語に多く取り入れていたそうだ。

 さらに、もう1つの創造性の指標「意味的距離」の成績もアップした。

 意味的距離とは、2つの単語や概念の意味がどれだけ違うかを示すもの。たとえば、母・父・カエルという3つの単語の意味を考えると、常識的には母と父よりは、母とカエルの方が違うだろう。

 意味的に違うものを思いつける人ほど創造性が高いと言えるのだが、今回の研究では、眠った人はやはりこの点でも優れた成績を残すことがわかっている。

 このことは、眠りに落ちるとき、脳が起きているときには結びつけないような概念を結びつけているという仮説を裏付けるものであるという。

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WEB版のドーミオで誰でも試すことができる

 なお、仮眠時に見たい夢を見て創造力をアップさせる方法は、ドーミオを使わなくても試してみることができる。

 ウェブ版のドーミオ(英語)はタイマー式になっており、見たい夢をあらかじめ録音しておくことで、ちょうど眠りについた頃に見たい夢に誘導してくれる。誰でも使えるので、自分の創造力をもっと発揮したい人は試してみるといい。

 研究チームは今後、見たい夢に導く方法を、レム睡眠のようなまた別の睡眠ステージで応用する方法や、悪夢などの治療に使う方法などを調べる予定であるそうだ。

References:Dream to Create: Sleep Onset Boosts Creativity - Neuroscience News / written by hiroching / edited by / parumo

 
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目覚めた直後に創造性が増大するという研究結果。ちょっとした仮眠の後に効果を発揮