(山下 和之:住宅ジャーナリスト)

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 2023年3月の首都圏の新築マンション平均価格が1億円を超え、東京23区だけに限れば2億円を突破した。そんなに急騰しているのに首都圏全体の契約率は79.5%で、東京23区は84.5%と順調に売れている。なぜ、超高額マンションが売れ続けているのか。そして、どんな人が買っているのか──。

東京都港区にある2棟の“超高額物件”

 不動産経済研究所の調査によると、2023年3月の首都圏新築マンションの平均価格は1億4360万円だった。2022年には、東京23区だけに限ると1億円を超えたこともあったが、首都圏全体の平均が1億円を超えるのは初めてのことだ。別掲の【グラフ】にあるように、近畿圏の価格が落ち着いているなかで、首都圏だけが突出した動きとなった。

 最大の要因は、ふたつの“超高額物件”が売りに出されたことにある。ともに東京都港区にあるため、東京23区だけに限ると何と平均2億1750万円と、初の2億円超えとなった。

 その物件というのは、総戸数1002戸の「三田ガーデンヒルズ」と、総戸数389戸の「ワールドタワーレジデンス」。2棟とも平均価格が1億円を超えの超高額物件で、首都圏全体、東京23区の平均価格を大きく押し上げることとなった。それぞれどんな物件なのか──。

選ばれた人のみが安心して住める「邸宅」

 三田ガーデンヒルズは、三井不動産レジデンシャルと三菱地所レジデンスの大手2社による共同開発で、ガーデンヒルズブランドが使われるのは都心を代表するヴィンテージマンションとなっている「広尾ガーデンヒルズ」以来。開発当初から注目度が高く、いったいどんなマンションが建てられるのか、価格はいくらになるのか業界関係者が固唾をのんで見守っていた。

 その広尾ガーデンヒルズは、竣工から30年以上が経過しているものの、現在も分譲時価格以上で取り引きされている。2億円超で売り出されている物件もあり、建物の位置によっては物件が出れば売値で購入するというウェイティング客がいるともいわれている。そのガーデンヒルズと名がつく新築マンションなのだから、超破格の高額物件でも人気になって当然だろう。

 場所は東京都港区三田一丁目、東京メトロ南北線都営地下鉄大江戸線「麻布十番」駅から徒歩5~7分で、建物は地上14階建てが2棟、総戸数は1002戸の都心の一等地では希少な大規模開発物件。2025年3月竣工、同年6月入居予定だ。

 都心ではあり得ないような豊かな緑に囲まれた立地で、旧逓信省の歴史的建造物を継承する建築美の建物と、帝国ホテルとの提携による最上級のホスピタリティーが用意されている。

 また、外部の人が入れない広い庭園に囲まれており、セキュリティ、プライバシーが確保されている。超高層マンションの多くでは、周辺に公開空地を設けており、外部の人も自由に立ち入ることができるが、ここでは住民専用で、外部の人が入ることはできない庭園となっている。

 住む人に安らぎ、解放感を与えてくれ、選ばれた人だけが安心して住まえる邸宅といっていいのではないだろうか。それも超高額物件にかかわらず高い人気につながっている理由のひとつといっていいだろう。

購入者は「億単位の資産を有するスタートアップ創業者」など

 三田ガーデンヒルズの肝心の販売状況はというと、2023年2月、第1期第1次として321戸が売り出され、専有面積80m2台から370m2台まであり、価格は2億3100万円からなんと45億円まで。最多価格帯は3億8000万円台だったが、平均2.5倍で完売したそうだ。

 最近は夫婦ともに高額所得である「パワーカップル」の億ション購入が増えているといわれるが、ここまで高くなると、夫婦合わせて年収1400万円、1500万円といった世帯でも相当な自己資金がないと購入は難しい。

 購入者のなかでも目立つのが、スタートアップ企業の創業者などで、年収が何千万円、何億円といった人たちだという。すでに持ち家があり、億単位の資産を有している人が多い。

 なかには、稀に夫婦ともに勤務医で年収が2000万円を超える世帯、個人投資家として成功している人たちもいるそうだ。インバウンドの復活によって、中国や東南アジアの資産家も関心を示すようになっているという。

 そのほか、地方の資産家で、東京に迎賓館的な位置づけで拠点を持っておきたいとして購入する人もいるそうだ。持っていることがステータスになり、かつ将来的な資産価値の上昇も期待できるのだから、資産家には所有しておくメリットが大きいのだろう。

平均価格「2億5000万円」で最高倍率は「81倍」

 一方、ワールドタワーレジデンスの所在地は東京都港区浜松町二丁目で、最大の特徴はJR山手線の「浜松町」駅から徒歩2分という好立地にあることだ。

 都営地下鉄浅草線都営地下鉄大江戸線の「大門」駅からも徒歩4分、東京モノレールモノレール浜松町」駅から徒歩3分と、都内各方面に簡単にアクセスできるほか、空の玄関口である羽田空港とも直結している。

 建物は鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄筋コンクリート造)の地上46階地下2階建てで、総戸数は389戸となっている。こちらは第1期1次として169戸が売り出され、平均4.8倍、最高81倍で完売したという。

 世界貿易センタービルディング、鹿島建設、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、東京建物などによる共同開発で、2024年11月の竣工予定、入居時期は2025年3月の予定だ。

 専有面積は50m2台から80m2台、間取りは2LDK~3LDKで、平均価格は2億4933万円。最高価格は15億円に近い超高額物件もあったが、三田ガーデンヒルズに比べると、専有面積が小さめの住戸もあり、最も安い物件としては1億2000万円台が用意された。

 そのため、超高額物件といっても専有面積的には一般のファミリータイプの住戸が中心であることも手伝って、交通アクセス重視のパワーカップルなどの購入が多かったようだ。

 販売担当者によると、高額所得のパワーカップルの場合、夫婦ともに忙しい仕事なので、交通アクセスが何より大切で、浜松町のアクセスの良さはそのニーズを十分に満たしているのだという。しかも、都心にもかかわらず、商業施設や飲食施設などが比較的充実している利便性の高さも評価されているという。

 たとえば、夫婦ともに優良企業の管理職クラスで、ふたり合わせた年収が2000万円、夫婦がそれぞれに1億円近いローンを組んで、2億円台の住戸を購入するといったケースもあったそうだ。

東京タワーを眺めながら優雅にお酒が飲める「バーラウンジ」も

 交通アクセスが良いだけではなく、ルーフデッキ(歩行者デッキ)で「浜松町」駅とつながっているので、雨に濡れることもなく通勤・通学が可能なうえ、羽田空港を利用しての出張、国内・海外旅行も容易で、アクティブなライフスタイルを目指す人たちからの人気が高い。

 地上46階建てのうち、低層階は商業施設やオフィスで、住居部分は14階から上になるので、周囲には超高層ビルが多いとはいえ、開放的で眺望にも恵まれている。

 エントランスのある3階にはスーパーも設置されるので、日常の買い物はここで済ますことができるし、週末などには散歩を楽しみながら銀座などでショッピングや観劇などを楽しめそうだ。

 そのほか、13階にはお酒も楽しめるバーラウンジがあり、すぐ近くの東京タワーを望める立地になっている。キッチン設備のあるパーティールームが設置され、ゴルフラウンジ、フィットネスルームやゲストルームも設けられるので、親戚・知人などを招いて眺望を楽しむことができる。

 ちなみに、ワールドタワーレジデンスは2023年6月中旬に第1期3次販売が予定されており、三田ガーデンヒルズも6月下旬に第1期4次販売が予定されている。

 どちらも抽選に漏れた人や、希望の住戸を買えなかった人が多く残されており、何としても手に入れたい、多少希望と異なる住戸でも仕方ないという人は少なくないはず。それだけに、当初ほどではないにしても、販売のために多くの希望者が集まり、人気を集め続けるのは間違いないだろう。

 ここまで高くなれば、いずれピークを打って、下落に転じるのではないかと期待する人が多いかもしれないが、それはどうだろうか。都心の人気エリアでの新築マンション開発の用地確保は極めて難しくなっており、あったとしても高い取得価格が避けられず、建築費高騰も続いていることから、価格の低下は期待しにくい。郊外部ではそろそろピークアウトするエリアが広がっていく可能性は高いものの、都心部の人気エリアは当分高い状態が続くことになるだろう。

 いずれにせよ、ともに超高額物件なので、簡単には手が届かない人が多いかもしれないが、“夢の物件”のモデルルームをのぞいてみるのはいいかもしれない。人気が高いため、予約をとるのも簡単ではないようだが、最新の設備やサービスなどを見ることは、今後のマンション選びの参考にもなるはず。関心のある人は一度チャレンジしてみてはどうだろうか。

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