昨今、全国各地で自然災害による被害が相次いでいます。マンションは戸建て住宅と構造が異なり、住民も多数生活しているので、特有の防災対策が必要となります。マンションの防災対策を考えるうえでの基本は何でしょうか。旭化成不動産レジデンスマンション建替え研究所副所長の大木祐悟氏とNPO法人かながわ311ネットワーク代表の伊藤朋子氏が著書『災害が来た! どうするマンション』(ロギカ書房)から解説します。

マンションで防災を考えるときの基本

◆区分所有者の合意形成が必要な理由

マンションの防災やマンションが被災したときの復興について考えるときの基本は、「区分所有者の合意形成」だといわれています。

一方でマンションの権利は、区分所有権といわれていますし、「面倒な近所づきあいをしたくないからマンションに住んでいる」という人もいます。それでは、なぜ、マンション防災等を考える際に、区分所有者の合意形成が必要なのでしょうか?

マンションの区分所有者がそれぞれの住戸を「区分所有」していますが、「建物の構造部分」や、「廊下」・「階段」・「エレベータ」等の共用部分と土地は、基本的には区分所有者全員で共有しています([図表]参照)。

そのため、それぞれが区分所有している各住戸の内部については、原則として区分所有者が自分の好みでリフォームをすることは可能ですが、構造や共用部分の管理や変更をするときは、管理組合の総会等(区分所有者集会のこと)の決議が必要です。

では、大規模災害で建物の構造等に被害が生じた場合はどうでしょうか。

壊れた建物を建替えるときだけでなく、元の状態に戻すとき(復旧)でも、管理組合の総会の決議が必要となります。

マンションでは、日常の管理はもとより災害の復旧を進めるときも、区分所有者の多数が費用負担も含めた手続きについて納得しないとその後の手続きを進めることができません。そのために、合意形成の活動が必要となります。

◆災害時のことを考えると、マンションは問題のある不動産か

マンションが被災したときに、復旧についても合意形成が必要である旨の話をすると、「面倒くさいからマンションに住みたくない」と考える人もいるように思われます。

たしかに区分所有者の合意形成は、手間も時間もかかる作業ではありますが、一方で「マンションである強み」もあります。

第一は、ほとんどのマンションは丈夫な構造になっていることです。

もちろん、旧耐震基準の建物等、問題のあるものがあることは事実ですし、前述のとおり新耐震基準の建物であっても大きな地震に遭遇すると被害を受けることもあります。

しかしながら、通常の一戸建て住宅よりも被害のレベルは相対的には少なくなっていますし、例えば風水害に遭遇したとしても、設備面での被害を受けることはあっても建物の構造に致命的な影響を受ける可能性は低いはずです。

第二は、「多くの人の協力を受けることができる」点です。マンションは多くの区分所有者で構成される不動産ですから、復旧等を進めるときに合意形成が必要である反面、区分所有者の中には様々な知見を持つ人が含まれています。

そうした各区分所有者の能力をうまく使うことができれば、復旧の活動も行いやすくなりますし、そもそも1人で何もかも進めるよりも仲間と進めるほうが気力も勇気も沸くことが少なくありません。

ただし、多くの区分所有者の力を有機的に利用するためには、日ごろからの準備も必要であることは認識をしておくべきでしょう。

◆「修繕積立金」があることもメリット

そのほか、多くのマンションでは「修繕積立金」を積んでいることもメリットといえるでしょう。

もっとも、一般的には修繕積立金は「大規模修繕」をするために必要な金額しか積み立てていないため、仮に積み立てられた修繕積立金を被災したときの復旧の費用で使ってしまうと、次の大規模修繕時に費用が足りなくなる可能性があります。

しかしながら、とりあえずは復旧をするための原資とすることができる資金があることは、マンションが被災したときのことを考えると大きなメリットであると考えることができます。

【マンションであることのメリット】

・基本的に丈夫な構造であること

・多くの人の知見を利用できること

・修繕積立金を利用できる

・何事にも合意形成が必要なこと

◆マンションの管理組合について

多くのマンションには「管理組合」があります。では管理組合とはどのような団体なのでしょうか。

実は、マンションの基本法といわれている、「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」といいます)には、管理組合法人についての規定はありますが、法人格を持たない管理組合については特に定めがなく、あるのは「区分所有者の団体」(第3条)という規定だけです。

法律の文章なので難しく書かれていますが、少し我慢してこの規定を読んでみましょう。

【区分所有法第3条】

区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行う団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者をおくことができる。一部の区分所有者の意の共用に供せられるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理をするときも、同様とする。

このなかの前段の部分、つまり「全員で、建物並びにその敷地及び附属施設(以下「建物等」といいます)の管理を行うための団体を構成」するということは、区分所有者であれば、当然に建物等を管理する団体のメンバーであることです。

つまり、マンションを購入した人はすべてそのマンションを管理する団体のメンバーになりますし、マンションを売却するとその時点で団体のメンバーではなくなることを意味します。

要は、区分所有法第3条の団体とは、「建物や土地を共有する者の団体」であることを示しています。そしてこの団体は、「集会を開き」、「規約を定め」、「管理者をおく」ことができる旨が規定されています。

一般には、この区分所有法第3条に規定される団体が管理組合であるとされていますが、繰り返しですが区分所有法にはこの団体は「管理組合である」とは書かれていません。

では、マンションの管理組合についてはどこで規定されていているかといえば、それぞれのマンションの「規約」です。そのため、規約のチェックをすることは区分所有者にとって重要なことといえるでしょう。

◆マンション内のコミュニティ活動について

以上で述べたような管理組合の特性から、厳密に考えると、区分所有者から部屋を借りて住んでいる人物はもとより、区分所有者の家族も管理組合の構成員ではありません。

一方で、マンションにおいては居住者間の交流(以下、居住者が交流するための活動を「コミュニティ活動」といいます)が重要であるという話もよく聞きますし、特にマンションの被災時における「共助」の観点に立つと、日ごろからのコミュニティ活動はとても重要であることが理解できます。

ただし、マンションの居住者には、部屋を借りて住んでいる人もいることを考えると、管理組合の活動とコミュニティ活動を混同してはいけないことに注意が必要です。

この関係を図式化すると、図1-5のようになります。

つまり、区分所有者はマンション内に居住する区分所有者とマンション外に居住する区分所有者に分けることができますが、居住しているか否かにかかわらず管理組合は区分所有者で構成されますし、管理費や修繕積立金も区分所有者が支払っています。

一方でマンション内に居住して、居住者コミュニティを構成するのは、マンション内に居住する区分所有者のほか、居住区分所有者の同居親族や住戸を区分所有者から借りている人物となります。

このうち、区分所有者以外の人物は管理組合員でもありませんし、管理費や修繕積立金を支払っているわけでもありませんが、一方でマンションという共同生活の場に居住する者として、「建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う」(区分所有法46条2項)とされています。

また、難しいことは別にしても、「万が一のときにお互い助け合いましょう」ということについては、「所有者」だとか「借家人」だとかいう区別は意味がないこととなるでしょう。

なお、こうしたコミュニティ活動は、管理組合とは別に自治会等を立ち上げて行うことが良いのではないかと思います。

現実に、災害によりマンションが被災した直後には、このようなうるさいことをいう人は多くないとは思いますが、例えば管理組合が備蓄している水や非常食のようなものを配分する際に、「これは区分所有者の費用で購入したものだから、賃借人に配るのはおかしい」等の発言をする人が出てきてもおかしくありません。

一方で、生活弱者のサポートを考えるときは、区分所有者か賃借人か等について拘る意味がありません。

以上のようなことを考えると、日ごろから規約や細則整備を整備してルールを決めておくことに加えて、災害時の行動指針も作ったうえで管理組合の総会で決議をしておくべきでしょう。

大木祐悟

旭化成不動産 レジデンスマンション建替え研究所 副所長

伊藤朋子

NPO法人かながわ311ネットワーク 代表

(※写真はイメージです/PIXTA)