今日、まとまったお金を銀行に預けておいても、ほとんど増えません。かといって「株式投資」は怖い…。できるだけ高利回りで低リスクの方法はないものか…。そう考える方に向いている金融商品の一つが「ゼロクーポン債」です、利回りが高めに設定されているうえ、特にアメリカでは「利上げ」が行われていることから、地味に注目を集めています。昨今取り沙汰されている「米国債のデフォルトのリスク」にも触れながら解説します。
ゼロクーポン債とは
◆通常の債券のしくみ
ゼロクーポン債(割引債)について説明する前提として、まず、オーソドックスな債券(利付債)のしくみについてお伝えします。なお、話を単純にするために、為替相場の変動等は一切考慮しないものとします。
通常の債券は、額面金額と購入価格が同じです。
購入すると、償還までの間、利子(利金)を受け取れます。そして、償還の時には購入した時と同程度の額(額面金額)が戻ってきます。
たとえば、以下の債券があったとします。
【通常の債券(利付債)】
・額面金額・購入価格100万円
・償還期間17年
・年利回り3.2%
この債券を購入した場合、償還までの17年間、毎年、利金を3.2万円ずつ受け取れるので、トータルで約54万円、54.4%増えたことになります。
◆ゼロクーポン債が普通の債券と違うところ
これに対し、ゼロクーポン債は、購入価格が額面金額よりも低い債券です。償還時に、額面金額で償還されます。
その代わりに、購入後、償還までの間の利子を受け取れません。
たとえば、以下のゼロクーポン債があったとします。
【ゼロクーポン債(割引債)の例】
・額面金額100万円
・購入価格58万円
・償還期間17年
58万円を払い込んで17年後に100万円が償還されるので、償還差益が総額42万円発生し、約72.4%増えたことになります(【図表】参照)。
これは、利回り約3.2%で17年間、「複利」で運用されたのと同じといえます。
複利は、利息に利息がつき、等比数列的に増えていくことをさします。天才物理学者アインシュタインが「複利は人類史上最大の発見」といったとされる都市伝説がまことしやかに流布してしまっているくらい、その威力は絶大です。
ゼロクーポン債は、償還までの間の利金を受け取れない代わりに購入価格が割安に設定されており、全期間トータルでみて、高い利回りを得られる債券なのです。
ゼロクーポン債はどんな人に向いているか?
ゼロクーポン債が向いているのは、以下の2つの条件をいずれも満たす人です。
【ゼロクーポン債が向いている人の条件】
1. まとまった額のお金があり、かつ、当面の間使う予定がない
2. 株式投資(投資信託を含む)に抵抗がある、または、株式とリスク分散をしたい
◆条件1|まとまった額のお金があり、かつ、当面の間使う予定がない
1つ目の条件は、まとまった額のお金を持っており、かつ、当面の間、そのお金を使う予定がないことです。
その場合、長期間、銀行に預けておいても、まったく増えません。したがって、効率よく増やす方法があれば、なるべくそちらを利用することが推奨されます。
たとえば、今ある数百万円、数千万円のお金に手を付けずにとっておいて、将来、子どもの学資、結婚資金、住宅購入資金、老後資金等に使いたいと考えている場合、ゼロクーポン債を購入すれば、効率よくお金を増やせる可能性があります。
◆条件2|株式投資(投資信託を含む)に抵抗がある、または、株式とリスク分散をしたい
2つ目の条件は、「株式投資信託」を含む株式投資に抵抗がある、あるいは、株式とのリスク分散をしたいと考えていることです。
前提として、押さえておいていただきたいのは、一般に、債券よりも株式に投資した方が、大きく増やせる可能性が高いということです。
特に、米国株式や全世界株式の指数に連動する「インデックスファンド」は、堅調に推移しているアメリカ、あるいは全世界の経済成長を取り込んで、10年~20年の長期間で時間を味方につけて手堅くお金を増やせるといわれています。
たとえば、米国の時価総額の大きい主要500社の株式「S&P500」は過去10年間の平均利回りが約15%となっています。
過去の実績からの期待値、世界経済が全体として成長していく可能性に賭けることができるのであれば、ゼロクーポン債等の債券よりも、株式投資信託を購入して、大きなリターンを期待するという選択肢は合理的といえます。
ただし、株式は確実性に欠けます。
その点、債券は、あらかじめ利回りが決まっているので、確実性が高いといえます。
そこで、投資信託を含む株式投資に抵抗があるか、あるいは、株式とリスク分散をしたいという人にとっては、ゼロクーポン債は向いているといえます。
ゼロクーポン債を活用する場合のリスク・注意点
ゼロクーポン債を活用する場合、押さえておかなければならない主要なリスク・注意点は、以下の3つです。
【ゼロクーポン債のリスク・注意点】
1. 償還時に為替相場が「円高」に振れていると損失が発生するリスクがある
2. 償還時の差益に約20%の税金がかかる
3. 途中で売却すると損をする可能性がある
以下、それぞれについて解説します。なお、昨今さかんに報道されている米国債の「デフォルト(債務不履行)」のリスクについても、補足として解説を加えます。
◆償還時に為替相場が「円高」に振れていると損失が発生するリスクがある
まず、最も重要なのが、債券の償還時に為替相場が購入時より「円高」に振れていた場合、損失(為替差損)が発生するリスクがあります。
そこで、重要なのは、為替相場の変動による損益分岐点、つまり、どこまで円高が進めば損失が発生するかを見極めることです。
この点については、後ほど改めて解説します。
なお、通貨の相場が安定している国の債券を選ばないと、その国の通貨が暴落して思わぬ損をする可能性があります。特に、新興国のゼロクーポン債は、利回りが高く設定されていても、通貨自体の大暴落のリスクがあるので、要注意です。
◆償還時の差益に約20%の税金がかかる
次に、償還時の差益は税制上、「上場株式等にかかる譲渡所得」にあたり、20.315%の所得税が分離課税でかかります。
しかも、投資信託の売却益等と異なり、「NISA」のような非課税の優遇措置はありません。
◆途中で売却すると損をする可能性がある
最後に、債券は、途中で売却すると損をする可能性があるということです。
どういうことか。もう一度、【図表】をご覧ください。
債券の価格は償還時に向けて変動し、償還時に額面の価格に到達します。
その途中で、もし、額面価格が購入価格を下回っていた時に売却してしまうと、損失が発生します。
◆補足|「デフォルト」のリスクについて
昨今、米国債の「デフォルト」のリスクが取り沙汰されています。これにより、債券投資の「リスク」を心配する向きもあるかもしれません。そこで、補足しておきます。
「デフォルト」という場合、真っ先に思い浮かぶのは、政府の債務返済能力がなくなり、支払いが滞ってしまうことです。そのリスクは、もちろん、ゼロではありません。
しかし、今回取り沙汰される「デフォルト」は、アメリカ連邦政府の「返済能力」とは無関係です。
すなわち、アメリカの連邦政府の債務の上限の引き上げをめぐり、政府(民主党のバイデン大統領)と議会(共和党が多数派)が対立していて折り合いがついていないことが原因です。
もしも「デフォルト」に陥ったとしても、政府の返済能力の不足に起因するものではないので、一時的なものにとどまるとみられます(その限度でのリスクがあるといえます)。
為替相場の変動による「損益分岐点」が重要
最後に、前述した為替相場の変動による損益分岐点について、どう見極めるかをお伝えします。
以下の内容のアメリカのゼロクーポン債があったとします。
・額面1万米ドル
・購入価格5,800米ドル
・償還期間17年
これを、1米ドル138円で購入すると、日本円での購入金額は138円×5,800米ドル=800,400円です。
17年後、1万米ドルが償還されます。その時、1万米ドルが日本円に換算して800,400円を下回らなければ、損失が発生しないことになります。
したがって、損益分岐点は1米ドル=80.04円ということになります。これより「円高ドル安」にならない限りは、損失は発生しないということです。
このように、ゼロクーポン債の活用を検討するのであれば、必ず、償還時の為替相場の損益分岐点を確認する必要があります。
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