睡眠中に何度も呼吸が止まってしまう睡眠時無呼吸症候群。一見「大したことない」と思うような症状でも、実は放っておくと脳卒中や心筋梗塞といった重篤な合併症を引き起こすリスクもあると、東京ハートリズムクリニックの桑原大志先生は警告しています。今回は、睡眠時無呼吸症候群と不整脈が合併した症例を専門医が解説します。

睡眠時無呼吸症候群とは?

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)とは、睡眠中に何度も呼吸が止まってしまう病気のこと。ゴゴゴという大きないびきをかいたと思ったら、突然、呼吸が止まって静かになり、再びゴゴゴといういびきをかき始めるのが特徴です。睡眠時無呼吸症候群の怖いところは、睡眠の問題だけにとどまらず、命のリスクをもたらすということです。

睡眠時無呼吸症候群」が命のリスクをもたらす理由

医学的にいうと、睡眠時無呼吸症候群は次のように定義されます。

睡眠時無呼吸症候群10秒以上呼吸が止まる無呼吸や、呼吸が弱くなる低呼吸が、1時間あたり5回以上繰り返される状態

呼吸が止まっていたり、低呼吸になっていたりするあいだは血液中の酸素が欠乏しているということであり、それによって、心臓、脳、血管に負担がかかります。その結果、脳卒中、狭心症心筋梗塞などの重篤な合併症を引き起こすリスクが高まってしまうのです。

さらに、睡眠時無呼吸症候群は高血圧や糖尿病とも深い関わりがあり、重症のまま放置すると命の危険につながることも。睡眠時無呼吸症候群と不整脈を合併した症例を解説します。

不整脈が治らない原因は、「睡眠時無呼吸症候群」⁉

<症例1>

50代・会社員勤務の男性。

他県から新幹線を利用して、月1回来院。

病名は発作性心房細動。

この方は、発作の回数が非常に多く、1週間に5〜6回。発作は1回あたり数時間続き、長いときには1日に及ぶこともありました。発作時の心拍数は170〜200拍/分。あまりにも心拍が早いときには仕事も手につかなかったので、いつも休憩してやり過ごしていました。

患者さんにカテーテルアブレーション治療を勧めたところ、「怖いから受けたくない」とおっしゃっていて、薬物による治療を希望されていました。毎月1回の外来受診を繰り返し、抗不整脈薬を合計5種類試しましたが、いずれも無効。

最終兵器ともいうべき、最も強力なアミオダロンという薬も効かず、私は再度カテーテルアブレーション治療をおすすめしましたが、どうしても嫌だとのこと。

使用できる薬もほとんどなくなり、困っていたときに思いついたのが、睡眠時無呼吸症候群の可能性です。痩せ型で、睡眠時無呼吸症候群の典型的な患者像とは異なりますが、念のために睡眠時無呼吸症候群の検査をしたところ、なんと「重度」という診断結果がでたのです。

すぐにCPAP治療を導入すると、心房細動による発作は劇的に減少。以前は週に5〜6回発作に悩まされていたのが、月1回程度になりました。

瘦せ型でも睡眠時無呼吸症候群の可能性はある

痩せ型の人でも、睡眠時無呼吸症候群である可能性はゼロではありません。どんな治療をしても不整脈が治らない場合は、睡眠時無呼吸症候群の検査をおすすめします。

睡眠時無呼吸症候群の原因はさまざまありますが、多いのは肥満です。肥満になると喉に脂肪が蓄積します。仰向けに寝ると喉の脂肪が重力で気道を圧迫するため、狭くなった気道を空気が通るたびに大きないびきが起こって低呼吸となったり、気道が完全に塞がれて無呼吸になったりするのです。

しかし、気をつけたいのは、身体的な構造や生活習慣などが原因となって、「痩せ型の人でも睡眠時無呼吸症候群を発症することがある」ということです。「痩せているから、睡眠時無呼吸症候群の危険はない」と、油断をするのは禁物です。

会議中の居眠りは「危険」のサインかも…

<症例2>

50代・医療機器メーカー勤務の男性。

持続性心房細動で当院を受診されました。近年、当院では睡眠時無呼吸症候群と不整脈の関係が非常に深いことに着目し、カテーテルアブレーション治療をする際には、睡眠時無呼吸症候群の検査をセットで行うのですが、その検査で、重度の睡眠時無呼吸症候群であることが判明しました。

カテーテルアブレーション治療により、心房細動の症状は大きく改善しましたが、その一方、患者さんは「睡眠時無呼吸症候群の症状は一切ない」と断言します。睡眠中の覚醒や日中の眠気、倦怠感などはないとおっしゃるのです。

しかし、検査では「重度」という結果が出ていますから、心房細動の再発予防も兼ねてCPAP治療を導入しました。 患者さんは「CPAPによるメリットを感じない」とおっしゃいますが、その後、たまたまその方の上司とお話をする機会がありました。

その方は「先生、弊社の社員に治療をしていただき、感謝いたします」とおっしゃったのち、「そういえば、彼は会議中の居眠りが治りました」と続けられました。聞くと、その患者さんはそれまで会議中にほぼ100%居眠りをしており、どれだけ周囲が注意しても治らなかったのだそうです。

周囲の人たちは「根性が足りない」「もっと気合を入れろ」と叱っていたそうですが、その患者さんは「どれだけ注意しても、いつの間にか眠ってしまう」と弁明していたとのこと。当人は、会社で居眠りをしていることは恥ずかしくて私にいえなかったようです。

「しかし先生のところでカテーテルアブレーションをしていただいてから、居眠りがなくなりました。先生が心臓に焼きを入れてくださったおかげです」と上司の方はおっしゃいました。

しかし、カテーテルアブレーション治療で居眠りがなくなることはありませんから、CPAP治療が奏功したのは明らかです。居眠りや倦怠感などのよくある症状はつい軽視されがちですが、実は、睡眠時無呼吸症候群が原因となっている場合もありますので、注意が必要です。

睡眠時無呼吸症候群の検査は保険適用内

「もしかして私も睡眠時無呼吸症候群かも……」と思ったら、検査を受けることをおすすめします。

検査は2段階に分かれており、まずは簡易検査を行います。これは指先と鼻にセンサーをつけ、睡眠中の呼吸状態や心拍数、酸素飽和度などを測定するもの。結果はAHI(無呼吸亭呼吸指数)という指数で示され、この検査でAHIが40を超えたら保険によるCPAP治療が適用になります。ちなみに、簡易検査は約3,300円で受けることができます(3割負担の場合)。

ただし、AHIが40ということは重度であり、よほどの人でなければ40を超えることはありません。そのため40以下であっても、症状から睡眠時無呼吸症候群の可能性が疑われる場合には精密検査を受けることになります。

精密検査はポリソムノグラフィー(PSG検査)と呼ばれ、入院によって行われます。 就寝時にさまざまなセンサーを取り付け、睡眠中の脳波、眼球運動、胸郭運動、鼻の気流などを測定します。この検査でAHIが20以上であれば、保険によるCPAP治療の適用になります。ポリソムノグラフィーの価格は約2万円です(3割負担の場合)。

ちなみに、睡眠時無呼吸症候群の治療でCPAPを行う場合は、月1回通院が必要で、4,440円(3割負担の場合)の費用がかかります。しかし、CPAP治療は睡眠中にマスクを装着する必要があり、約10%の患者さんは「寝苦しい」といって継続をやめてしまいます。

その場合には、歯科で作成するマウスピースを装着していただきます。下顎や舌を前方へ突き出すように設計された口腔内装置を装着して就寝することにより、上気道の開口性を維持します。

睡眠時無呼吸症候群の治療は、ほとんどの場合、生涯にわたって継続するものです。そうした煩わしさもあってか、日本ではCPAP治療が処方されている患者数は本邦で50万人にもたっしていないことから、大多数が未診断であるとされています(※1)。

しかし、重症のまま放置していると、命に関わるケースも。もしすでに不整脈の発作があり、なおかつ、日中の眠気や倦怠感などが気になる場合は、早めに専門医による診察を受けることをおすすめします。 

※1 日本内科学会雑誌第109巻第6号5頁参照

「一方、OSAに最も有効な治療であるCPAP治療が処方されている患者数は本邦で50万人にも達していない)ことから、大多数のOSAは未診断であるのが現状と思われる.」

東京ハートリズムクリニック

桑原 大志

(※写真はイメージです/PIXTA)