SNS上で誹謗中傷を受け、法的措置をとりたい場合には、相手の情報の開示請求が必要となることが一般的です。では、開示請求をするには、いつまでにどのような手順を踏めばよいのでしょうか? 本記事では、X(旧Twitter)で誹謗中傷を受けた場合の開示請求について、Authense法律事務所の弁護士が解説します。

法的措置の初手が「情報開示請求」である理由

誹謗中傷に対して法的措置をとりたい場合、まず相手の情報開示請求からはじめることが一般的です。では、そもそもなぜ相手の情報開示請求が必要なのでしょうか? その理由は、相手が誰だかわからなければ、相手に対して損害賠償請求などをすることが難しいためです。

仮にSNS上のダイレクトメールなどで「損害賠償請求するので賠償額を支払ってください」などと送ったとしても、相手にアカウントを消されてしまえば意味がないでしょう。 また、裁判で訴えようにも、相手が誰かわからなければ訴訟を提起することもできません。

そのため、損害賠償請求などの前段階として、まずは誹謗中傷をしているのが誰であるのかを特定することが必要なのです。

また、相手のアカウントが実名らしいものであったとしても、発信者情報開示請求が不要とは限りません。なぜなら、架空の人物の名を語っている可能性やなりすましである可能性のほか、「なりすましの被害に遭っていただけで自分は関係がない」などと主張される可能性があるためです。

「発信者情報開示請求」をする手順(X(旧Twitter)の場合)

誹謗中傷を受けた場合、相手の発信者情報開示請求をする手順は、次のとおりです。ここでは、X(旧Twitter)上で誹謗中傷を受けた場合の例を紹介します。

なお、ほかのSNSであっても、これと似た流れとなることが多く、基本的には2段階の開示請求が必要です。ただし、令和4年10月に施行された改正プロバイダ制限責任法により、2段階の開示請求手続きを1つの手続きに併合して行うことが可能となりました。

1.X(旧Twitter)社に開示請求をする

はじめに、X(旧Twitter)社に対して、誹謗中傷投稿をした発信者の情報開示請求を行います。しかし、X(旧Twitter)社に対して直接発信者の情報開示を請求しても、応じてもらえる可能性はほとんどありません。

そのため、多くの場合、まずは裁判所に対して発信者情報開示請求等を申し立て、裁判所から誹謗中傷がなされたSNS等の管理者等に対して発信者情報の開示を認める判断を出してもらうことが必要です。これにより、ようやく発信者のIPアドレスとタイムスタンプの情報が得られます。

2.プロバイダに開示請求をする

X(旧Twitter)社からIPアドレスとタイムスタンプの情報が得られたら、この情報をもとにアクセスプロバイダNTTKDDIなど)に対して発信者情報開示請求を行います。

こちらも任意の請求では応じてもらえないことが多いため、裁判所に発信者情報開示請求を申し立てなければなりません。裁判所の判断を受け、ようやくプロバイダの契約者である発信者(投稿者)の住所と氏名が判明します。ここまでができて、ようやく損害賠償請求など次のステップへ進むことが可能となります。

開示請求は自分でできるのか?

誹謗中傷を受けた場合、発信者情報開示請求を自分で行うことはできるのでしょうか? 順を追って解説していきましょう。

開示が認められるハードルは高い

発信者情報開示請求を自分で行うためのハードルは、低いとはいえません。なぜなら、発信者情報開示請求は裁判になることが多く、裁判に関する知識が不可欠であるためです。

また、裁判所に訴えたからといって、必ずしも開示を認める判断を出してもらえるわけではありません。裁判所が開示を認める判断を出すだけの理由があると判断されて、はじめて発信者情報の開示を認める判断を出してもらうことが可能となります。

そのため、裁判所が判断するだけの理由を法的に整理して主張し、根拠となる証拠により立証することが必要です。これらの手続きには法律や裁判に関する高度な専門知識が必要であり、自分で行うことは容易ではないでしょう。

弁護士に相談がベター

誹謗中傷の投稿をした相手の発信者情報開示請求を行いたい場合には、弁護士への相談をおすすめします。弁護士へ相談することで、弁護士が訴状などを作成したり必要となる証拠についてのアドバイスをくれたりするため、スムーズな進行が可能となるためです。

特に、発信者情報開示請求を成功させるためには、スピードが非常に重要です。なぜなら、投稿から時間が経てば経つほど、ログが消えてしまう可能性が高くなるためです。ログが消えてしまうと、その後発信者情報の開示など法的措置をとることは困難となります。

そのため、誹謗中傷をした相手の情報開示請求を望む場合には、無理に自分で行おうとせず、できるだけ早く弁護士へ相談するとよいでしょう。

開示請求にかかる「費用」

インターネット上で誹謗中傷をした相手の発信者情報開示請求をしたい場合、費用はどの程度かかるのでしょうか? 手続きを弁護士に依頼した場合には、別途弁護士報酬が必要です。弁護士報酬は依頼先の弁護士や投稿の数や内容などによって異なりますが、おおむね30万円から50万円程度であることが多いでしょう。

開示請求にかかる「期間」

誹謗中傷投稿への発信者情報開示請求には、どの程度の期間がかかるのでしょうか? 誹謗中傷が行われた場所(SNS、インターネット掲示板など)や投稿者が契約しているプロバイダによって異なりますが、おおむねトータルで半年から1年程度を要することが多いといわれています。

内訳としては、第一段階となるSNS運営企業などへの開示請求で3ヵ月程度、その後行うプロバイダへの開示請求で半年程度です。

請求先となる法人が海外である場合の方が、国内法人である場合と比べて長い期間がかかる傾向にあります。請求をしてすぐに開示されるような性質のものではありませんので、ある程度長期戦となることを知っておいてください。

なお、プロバイダ責任制限法が改正され、令和4年10月1日から施行されました。この改正により、SNS運営企業への請求とプロバイダへの請求を併合して行えることとなっています。また、一部海外法人が日本にも登記を行った関係で海外法人であってもそれなりにスムーズに手続きが進むようになりました。

改正から日が浅いため今後の運用等次第ではありますが、これにより、情報開示請求にかかる期間が短縮されることが期待されています。

開示請求をしたい場合の初期対応

インターネット上でされた誹謗中傷に対して発信者情報開示請求をしたい場合、まずとるべき対応は次のとおりです。誹謗中傷への対応は初動が非常に重要となります。

投稿のスクリーンショットを撮る

誹謗中傷する内容の投稿がなされたら、まずはその投稿がわかるスクリーンショットを撮影しておきましょう。スクリーンショットでは、投稿の内容のほか、URL、投稿の日時やアカウント名などがわかるように撮影してください。

投稿された場がX(旧Twitter)のようにアカウントを開設して投稿やコメントをするタイプのものであれば、相手のプロフィールなどのスクリーンショットも撮影しておきましょう。投稿画面のみでは、アカウント名やユーザー名の表示が不完全となる場合があるためです。

削除請求は「しない」

自分について誹謗中傷をする内容や、根も葉もないようなデマなどが投稿された場合には、すぐに投稿を消してほしいと感じることでしょう。しかし、焦って削除請求をすることはおすすめできません。なぜなら、誹謗中傷投稿をした相手に直接削除請求をしてしまうと、誹謗中傷がエスカレートするおそれがあるためです。

では、SNSや掲示板の運営企業へ直接削除請求をすればよいかというと、この段階ではこちらも少し待った方がよいでしょう。なぜなら、削除請求が認められて投稿が削除されてしまうと、正しく証拠保全ができていないと、発信者情報開示請求が難しくなってしまう可能性があるためです。

できるだけ早く弁護士へ相談する

インターネット上で誹謗中傷を受けた場合には、できるだけ早期に弁護士へ相談してください。なぜなら、無理に自分で対応すれば状況が悪化する可能性がある他、対応に苦慮する間に投稿から時間が経ってしまうためです。

インターネット上での誹謗中傷への対応は、時間との勝負です。それぞれのSNSやプロバイダでログの保存期間が決まっており、おおむね3ヵ月や6ヵ月程度といわれています。この期間を過ぎてしまうと誹謗中傷投稿のログが消されてしまい、発信者情報開示請求や損害賠償請求が難しくなってしまうでしょう。

また、法的措置を取られることを恐れた相手が投稿を削除する可能性がある他、被害者が有名人などである場合にはファンなど誹謗中傷投稿を見た人が削除請求をして、投稿が消されてしまう可能性もゼロではありません。そのため、インターネット上で自分を誹謗中傷する内容の投稿を見つけたら、すぐに弁護士へ相談することをおすすめします。

Authense 法律事務所

(※写真はイメージです/PIXTA)