レアル・マドリードを率いるカルロ・アンチェロッティ監督が、同クラブに所属しているブラジル代表FWヴィニシウス・ジュニオールが受けた人種差別被害についてコメントした。スペインメディア『マルカ』が伝えている。

 ラ・リーガ第35節が21日に行われ、レアル・マドリードは敵地でバレンシアと対戦。試合は33分にスペイン人FWディエゴロペスが挙げたゴールが決勝点となり、1-0でバレンシアの勝利に終わった。だが、同試合ではスタンドからのヴィニシウスに対する人種差別的な行動が発生した。70分を過ぎたあたりの時間にゴール裏からの人種差別発言に対してヴィニシウスが激昂。最終的にはスタジアムから人種差別発言をやめるようにというアナウンスが発されていた。後半アディショナルタイムにヴィニシウスが退場処分となった際にはスタンドから同選手を揶揄するチャントが歌われるなど、直近のラ・リーガで相次ぐ人種差別問題が顕在化するという、後味の悪い結末となっていた。

 試合後、アンチェロッティ監督はヴィニシウスの様子について言及。「試合中は熱く、そして険悪な雰囲気でもあった」と前置きした上で、70分過ぎにゴール裏サポーターから人種差別発言を受けた際、ヴィニシウスと交わした会話を明かしている。

「彼には『このまま試合を続けたいか?』と尋ねた。彼を外したくはなかったが、スタジアムの雰囲気は人種差別的なものだったからだ。これまでの私のキャリアを振り返っても、こんなことは1度たりともない。スペインサッカーラ・リーガの問題なのであって、決して受け入れられないものだ。ヴィニシウスの問題ではない。彼は被害者なんだ。何をしなければならなかったんだい?」

 加えて、当該シーンを振り返ったアンチェロッティ監督は「あのような状況でサッカーなんてできない」と一蹴。「私が率いるチームが勝っていてとしても同じことを言うだろう。これは深刻すぎる。いつだってヴィニシウスは侮辱され、今日のような場面ではレッドカードが出されてしまう。正直悲しいよ」と話した後、「素晴らしいチームがいるリーグだが、こんなことは起こってはならない。今は2023年だ」とラ・リーガの対応に疑問を呈した。「試合を止めるしかないだろう。リーグ側のプロトコルがあるのは事実だが、我々はあんなことが起こったら家に帰らなければならない」と続けている。

 また、アンチェロッティ監督はヴィニシウスのことを「彼は最も多くのファウルを受け、最も多くの侮辱を受ける選手だ」と表現。「私はレフェリーに『彼をこれ以上プレーさせることはできない』と伝えたが、『続けるべきだ』と言われた」とゴール裏から人種差別的な発言が投げかけられた時のやり取りを明かすとともに「レッドカードを受けた時、スタジアム全体が猿、猿、猿と叫んでいたんだ」とヴィニシウスがレッドカードで退場になったシーンについても振り返った。メディアによっては「猿」を意味する「mono」でなく、「バカ」を指す「tonto」だったとの報道もあるが、いずれにせよヴィニシウスを揶揄するチャントが歌われた事実に変わりはない。「私はとても悲しいんだ」と自身の感情を率直に明かし「彼はまだ若い。その時はプレーを続けたかったのだが、あのような状況では非常に複雑だ」とヴィニシウスの心境を心配した。

 試合終了後のヴィニシウスの様子について「彼は怒ってはいなかったよ。ただただ悲しんでいたんだ」と明かしたアンチェロッティ監督は「私としては、やはり試合を中止すべきだったと思っている」と主張。その理由についても以下のように述べた。

「狂ってしまったのはたった1人の人間ではない。スタジアム全体が狂ってしまったんだ。スタジアム全体が人種差別的な雰囲気で包まれ、選手を侮辱するのは未だかつて見たことがない」

試合中のアンチェロッティ監督(左)とヴィニシウス(右) [写真]=Getty Images