地方では、売るに売れない無価値不動産に固定資産税が課税され続ける「負動産」が悩みの種となっているが、空き家税はその問題に拍車をかける可能性もある
地方では、売るに売れない無価値不動産に固定資産税が課税され続ける「負動産」が悩みの種となっているが、空き家税はその問題に拍車をかける可能性もある

京都市で全国初の試みとなる「空き家税」が導入される。空き家問題解決の糸口として注目を集めているが、その実態はどのようなものか。元国税調査官の松嶋洋氏に、この制度の"採点"をしてもらった。

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2026年から、京都市で全国初となる「空き家税」の徴税が始まります。正式名称は、「非居住住宅利活用促進税」。昨年3月に条例に基づく法定外税として定められ、今年4月、総務省による同意を得ました。

京都市が描く青写真は、単なる税収増だけでなく、空き家を減らすことで町を有効活用し、京都市で家を買えず周辺自治体に移り住む若者世代の流出に歯止めをかけること。これが成功すれば、税収増だけでなく、空き家問題や人口流出問題も一挙に解決できるウルトラCとして、今後、全国のモデルケースになることが期待されます。

京都市は全国初となる空き家税の徴税を2026年から開始する。写真は京都市役所
京都市は全国初となる空き家税の徴税を2026年から開始する。写真は京都市役所

しかし、あくまで個人的な見解ですが、今回の空き家税はそもそも税制としてあまり「イケてない」と感じています。また、京都市の思惑通りに空き家問題や人口流出問題の解決につながるかどうかにも、私は少々懐疑的です。なぜそう思うのか。まずは、空き家税の概要を説明しましょう。

空き家税の課税対象となるのは空き家だけではなく、常住者のいない別荘なども含まれるとされています。税額は家屋の価値や立地に応じて決まります。なお、賃貸用物件や京町家・歴史的建造物など一定の要件を満たす物件は課税対象外となります。

また、家屋の固定資産評価額が100万円未満の建物は、制度導入後5年間は課税対象外となります。対象条件がやや複雑ですが、インパクトのある条例を新たに打ち出す際は批判も大きくなるため、あえて曖昧にするのはよくあることです。

■「資力に応じて」の税の基本に矛盾

私が空き家税を「イケてない」と思ってしまう理由のひとつに、税の本質から少しズレてしまっているということが挙げられます。空き家税のモデルとなったのは熱海市の別荘税らしいですが、別荘税と空き家税とで決定的に違うのは「担税力」です。

別荘の所有者は基本的には富裕層ですが、空き家を持っているからといってお金持ちとは限りません。「税は資力に応じて払うべき」という基本原則に必ずしものっとっているとは言えないのです。

さらに、空き家税の対象者の一部は、固定資産税との二重負担となる可能性もあります。地方の過疎地などでは、売るに売れない不動産に固定資産税や管理費を支払い続けなければならない「負動産問題」が深刻ですが、空き家税はそこに拍車をかける可能性もあります。

固定資産税にはない難しさとして、「空き屋かどうかをどう判断するのか」という点もあります。市税は申告制ではないため、居住の実態を一軒一軒見ていかないとわからないはずです。これでは市職員の負担も増えますし、目視によって居住実態がないと市が判断しても、所有者と揉める可能性もあります。

■空き家問題や人口流出への効果は!?

次に、空き家問題や人口流出問題の解決についてです。

そもそも、なぜ空き家が放置されるのか。それは、解体コストの高さと固定資産税の課税問題にあります。居住に関わらず、不動産は所有しているだけで固定資産税や都市計画税がかかるため、できることなら空き家を解体、売却してしまいたい人は多いはずです。

しかし、空き家の解体には莫大な費用がかかりますし、解体しても買い手がつかないことも往々にしてあります。もし更地のまま土地を放置すれば、「固定資産税等の住宅用地特例」の対象から外されるため、特例率1/6が適用されなくなってしまいます。

要は、固定資産税が6倍になってしまうのです。多くの地方は買い手不足も深刻なため、「それなら、空き家のまま放置したほうが得だ」となってしまう。これが空き家問題の本質です。

資力に応じて課税するのが税の基本だが、放置された空き地の所有者は、資力があると言えるのだろうか......
資力に応じて課税するのが税の基本だが、放置された空き地の所有者は、資力があると言えるのだろうか......

そう考えると、空き家問題を抱える多くの地方と京都市とでは事情がまったく異なります。京都市は世界的な観光地なので、インバウンド需要もあって地価も高い。条件的にはむしろ都会です。

そのため、仮に京都市空き家税が成功したとしても、全国の空き家問題を解決するに至るモデルケースにはなり得ないのではないでしょうか。空き家税を課すくらいなら、自治体が解体費用を出すなどした方がよっぽど効果的だと思います。

また、人口流出問題に関しても、「京都離れ」が進む理由は物件が少ないからなのでしょうか? 町をきれいにして住居を増やせば若者が京都に帰って来るという因果関係についても、私は猜疑的に見ています。

始まってみないとどうなるかはわからないという部分もありますが、前段階の評価としては、税制としては詰めが甘いというのが、空き家税に対する今のところの個人的な見解です。仮に京都市で上手くいったとしても、全国に広がる可能性は少ないのではないでしょうか。

●松嶋洋(まつしま・ひろし) 
元国税調査官、税理士。2002年東京大学卒業。金融機関勤務を経て、東京国税局に入局。2007年に退官した後は税理士として活動。税務調査対策のコンサルタントとして、税理士向けセミナーの講師も務める。著書に『押せば意外に税務署なんと怖くない』(かんき出版)ほか多数

構成/桜井カズキ 写真/photo-ac

地方では、売るに売れない無価値不動産に固定資産税が課税され続ける「負動産」が悩みの種となっているが、空き家税はその問題に拍車をかける可能性もある