昨今、全国各地で自然災害による被害が相次いでいます。マンションは戸建て住宅と構造が異なり、住民も多数生活しているので、特有の防災対策が必要となります。マンションの防災対策を考えるうえでの基本は何でしょうか。旭化成不動産レジデンスマンション建替え研究所副所長の大木祐悟氏とNPO法人かながわ311ネットワーク代表の伊藤朋子氏が著書『災害が来た! どうするマンション』(ロギカ書房)から解説します。

在宅避難に備えた事前の準備

耐震性に問題のないマンションでは、在宅避難(居室、またはマンション内避難)が基本となります。その最大の理由は、在宅避難ができるときは、マンションで避難生活を送るほうが快適だからです。

もっとも、部屋にいることが不安な住民もいますので、たとえばマンションの共有スペースを、揺れの大きい高層階の住民、災害時要援護者に避難場所として提供できると、そうした住民のストレスを軽減することが可能となります。

ところで、在宅避難をするには事前の準備が不可欠です。具体的には、安心して眠ることができる部屋と物資の備蓄です。

◆耐震対策(建物)

建物そのものの耐震性、耐震対策については、マンションの場合、管理組合で検討解決する課題となります。

1つのものの考え方を【図表1】に示します。ここでいう「安全」とは、現行の建築基準法に準じた考え方で、「震度六強から七の大地震に対して、構造本体に損傷が報じても倒壊は防止する」というものです。

基準に見合った耐震性があっても、損傷は生じます。

◆耐震対策(居室内)

居室での耐震対策は、家具の固定、ガラスの飛び散り防止などがメインとなります。

安心して眠ることができる部屋は、家具の固定などを行うことであらかじめ準備ができます。特に寝室は、無防備の状態になりますので安全確保が特に重要です。

また、高層階では特に揺れが大きくなることも理解しておきましょう。

寝室(少なくとも寝るスペース)は、(1)家具が倒れてこない、(2)物が落ちてこない、(3)家具や電化製品等が動いてこない、(4)ガラス等が割れない場所に確保すべきです。[図表2]~[図表5]をご参照ください。

◆自分を守る

寝室には就寝中に発災したら、すぐに必要となるものは、灯りと履物です。

枕元にスタンドをおいていらっしゃる方は多いと思いますが、充電式のLEDライトで光量調節できるタイプは、省エネで災害時にも役立つ優れものだと思います。

手の届くところに、怪我をしないために足を守る履物を常備して置きましょう(揺れが収まった後にはだしのまま部屋を歩くと、散乱しているガラス片や金属片等で足裏に傷を負う可能性があります)。

トイレの用意と管理

下水管の安全が確認できるまで、トイレは流せません。

備蓄のトイレパックを使用します。

大地震の後は、工事業者の方もなかなか来てくれません。漏水事故を起こすと、補修に多額の費用と時間がかかります。

「災害後に排水に気をつけなければいけないことは知っているけれど、トイレの使用を禁止するのは難しい、トイレを使っていいかどうかはどうやって判断すれば良いの?」などというご相談をよく受けます。

これに対する万能の答えはありません。ですがこの問題も事前の調査、準備が重要です。

マンションの配管図面を見たことがありますか?あらかじめ公共下水道との関係、建物内部の配管がどうなっているのかを知っておきましょう。

地盤に影響があるような大きな地震であれば、埋設配管に損傷があるかもしれません。建物内の配管では、配管の継ぎ手部分など、普段漏水事故が起こりやすい場所は、災害時にもトラブルが起こる可能性が高いです。

建物内の配管は見えないため本来であれば専門家による調査が必要ですが時間もかかることですから、とりあえず低層階から水を流しながら漏水の有無を確認して徐々に上の階からの排水を試す等の対応を検討する必要があると思います。

災害後に起こる配管のトラブルについて、住民の方にあらかじめ啓発しておくことが重要です。知っておいてもらえれば、災害後の水の使用制限や再開時の注意事項に協力がえられるようになります。

エネルギー節約料理

災害時に備えていわゆる非常食を3日分、と考えていませんか?

会社や避難所など普段食べ物を扱っていない場所での備蓄は、「非常食」にならざるを得ません。ですが普段食事をしている家庭では、とくに賞味期限の長い防災食にこだわる必要はありません。

電気やガスが使えない状態でも、カセットコンロなどの熱源と調理用ポリ袋があれば、少ない水での調理が可能です。米やスパゲッティなど普段食べている食材を調理できます。食べ慣れたもので、気持ちと体力の維持を心がけましょう。

もちろん発災直後の為には、お菓子やレトルト食品、缶詰などそのまま食べられるものも少しは必要です。

災害時に備えてすることは、最低3日分の食べ慣れた食料とカセットコンロ、カセットボンベを用意しておくこと、少ない水で料理する技術を身につけておくことです。

・炊飯(白米、おかゆ、混ぜご飯)

・カレー

卵料理肉料理

・汁物   などいろいろ

冷蔵庫が使えなくても、料理を衛生的に保存できる優れた方法です。

事前に練習しておきましょう。

なお、排水ができないときは、調理で使った水の処理の問題もありますし、汁物については、「残さず飲み切る」ことなどにも留意する必要があることも忘れないようにしておいてください。

何を備蓄するか

では具体的に何を用意すれば良いのでしょうか。一般的に必要と思われるものを以下に挙げさせていただきます。なお、これ以外に、持病をお持ちの方は常備薬等、個々の必要に応じた工夫をするようにしてください。

◆第一優の先備蓄品

発災後、しばらくは水も食料も手に入らない前提で準備をしておくべきでしょう。加えて、トイレが使えない事態も想定した準備が必要です。

◆その他の備蓄品

一次優先備品に次いで、情報取得、灯りの確保、清潔の維持などに必要なものの備蓄も必要です。

ⅰ)灯りの準備

各家庭では、手を塞がないランタンとヘッドランプ人数分の保有を推奨します。電池の備蓄も忘れないようにしましょう。

ⅱ)情報源の準備

スートフォンの他に、電池タイプのラジオ、ワンセグTVなどを挙げることができます。

ⅲ)カセットコンロとボンベ

料理用に使用します。

ⅳ)断水対策

食器に被せて使用するラップ、調理用の高密度ポリエチレン製袋、ウエットティッシュなど。水が使えない状況で衛生上必要な物の準備も重要です。

ⅴ)その他の必需品

常備薬、おむつミルク、眼鏡など、個人の事情に応じて必要な物を考えておきましょう。

たとえば、眼鏡がないと生活が困難な人は、予備の眼鏡をわかりやすい場所においておくことをお勧めします。また、日常的に薬を服用されている場合は、備蓄に余裕を持っておくことも大切です。

なお、食料品の賞味期限のほか、ガスボンベの使用期限や電池の残量等は定期的にチェックするようにしましょう。

大木祐悟

旭化成不動産 レジデンスマンション建替え研究所 副所長

伊藤朋子

NPO法人かながわ311ネットワーク 代表

(※写真はイメージです/PIXTA)