タコは天敵に襲われる夢を見るか?

これまでの研究で、タコは睡眠中に夢を見ていることが指摘されています。

今回はそこからさらに一歩進んで、タコが悪夢を見ているかもしれない証拠が見つかりました。

米ロックフェラー大学(Rockefeller University)は、水槽で寝ているタコが突然もがき苦しみ、のた打ちまわりながら体色を変え、スミをぶちまける様子を発見したのです。

これは野生下で捕食者に遭遇したときに見せる反応と同じとのこと。

サメに追い回される夢でも見たのかもしれません。

研究の詳細は、2023年5月11日付で生物学のプレプリント『bioRxiv』にて公開されています。

目次

  • タコにも「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」がある?
  • 老化によってタコの体が壊れ始めた可能性も

タコにも「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」がある?

タコは複雑な脳神経と高い認知能力を持ち、イカと並んで非常に賢い生き物であることが知られています。

近年ではタコの睡眠に関する研究が進んでおり、2021年にはタコが「活動的な睡眠」と「静かな睡眠」の2パターンを繰り返しながら寝ていることが分かりました(iScience, 2021)。

これは私たちが毎晩「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」を繰り返しているのに似ています。

さらにタコは活動的な睡眠中に体色を目まぐるしく変化させることも判明しました。

体色の変化は普通、天敵に遭遇したときのカモフラージュや仲間とのコミュニケーションにしか使われません。

そのため、研究者らは「タコは人間でいうレム睡眠にあたる活動的な睡眠時に夢を見ている可能性が高い」と考えているのです。

こちらは睡眠中に体色を変化させるタコの様子。

睡眠中に体色を変えるタコ(夢を見ている?)
Credit: Nature on PBS – Octopus Dreaming(youtube, 2021)

最近では、タコが夢を見ていることは専門家の間でも意見の一致するところとなってきました。

そんな中、ロックフェラー大の新たな研究により「タコは悪夢も見ている」可能性が示されたのです。

睡眠中に突然もがき苦しみ、タコスミをぶちまける

研究チームは先だって、ブラジル沖に分布するマダコ(Octopus insularis)のオスを捕獲し、「コステロ(Costello)」と名づけて水槽内で飼育していました。

ある朝、研究者が実験室に入ると、水槽内がタコスミで黒く濁っていることに気づいたのです。

そこでチームは水槽の側にカメラを設置し、1カ月にわたり24時間体制でコステロを撮影しました。

映像を確認したところ、そこには今まで見たことのないタコの睡眠行動が映されていたのです。

コステロがいつものように静かに眠っていたところ、突如としてもがき苦しみ始め、8本の足をうねらせながらのた打ちまわったのです。

この奇妙な行動は1カ月の間に計4回(44秒〜290秒)確認され、うち2回では体色の変化とタコスミの噴射も見られました。

こちらがそのときの様子。

コステロがのた打ち回りながらスミを吐く様子
Credit: IFLScience – Octopus Nightmares(youtube, 2023)

研究主任のエリックエンジェルラモス(Eric Angel Ramos)氏は「本当に異様な光景でした。コステロは文字通り、もがき苦しんでいるように見えたからです」と話します。

しかし、その異常行動がおさまった後は何事もなかったかのように目を覚まし、いつも通りの一日を始めたという。

ラモス氏は、コステロの行動はタコが野生下で捕食者に遭遇したときの逃走や防御、カモフラージュ行動と合致すると説明します。

このことから、コステロは睡眠中に天敵に襲われるような「悪夢を見ていた可能性」が浮上したのです。

こうした行動が今まで見つかっていなかった理由について、ラモス氏は「ほとんど研究所は飼育タコを365日24時間体制で監視していないため、見逃されてきたのではないか」と述べました。

一方で、この見解については他の解釈も考えられ、悪夢と断定するのは時期尚早であるとの意見もあります。

老化によってタコの体が壊れ始めた可能性も

本研究には参加していないサンフランシスコ州立大学(SFSU)の神経生物学者であるロビン・クルック(Robyn Crook)氏は「動画内の行動は確かに興味深いが、夢以外の何かによって刺激された可能性が高い」と指摘します。

その具体的な要因として挙げるのが「老化」です。

クルック氏は最近、ミズダコ (Enteroctopus dofleini)を対象とした研究で、老化が進むと体の神経系が劣化することを発見していました。

氏いわく「映像内の動きは、捕食者に対抗するための防御行動というよりも老化に関連した運動制御の欠損に見える」と話します。

つまり、コステロの異常行動は死を直前にして、体が壊れ始めていることのサインであるというのです。

ラモス氏もこの指摘には完全に否定的ではありません。

彼によると、コステロの属する種は寿命が約12カ月から18カ月で、実際にコステロはその年齢に達しており、今回の記録調査が終わった後に亡くなったと述べています。

体色を変化させながらもがき苦しむコステロ(老化の可能性も?)
Credit: IFLScience – Octopus Nightmares(youtube, 2023)

「老化がこの異常行動の原因のひとつである可能性は排除できません」とラモス氏は話しました。

また今回の行動はコステロ1匹のみに確認されたものであって、他のタコも同様の反応を示すかどうかは分かりません。

研究チームは今後、複数のタコを対象としつつ、コステロの行動が悪夢であったのか、老化のサインであったのかを調べていく予定です。

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参考文献

Watch an octopus waking up from what scientists think could have been a nightmare https://www.livescience.com/animals/octopuses/watch-an-octopus-waking-up-from-what-scientists-think-could-have-been-a-nightmare Amazing New Footage Shows That Octopuses May Experience Nightmares https://allthatsinteresting.com/octopus-nightmare Amazing Footage Suggests That Octopuses Have Nightmares Too https://www.iflscience.com/amazing-footage-suggests-that-octopuses-may-have-nightmares-too-69015

元論文

Abnormal behavioral episodes associated with sleep and quiescence in Octopus insularis: Possible nightmares in a cephalopod? https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.05.11.540348v1
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