バーチャルYouTuberVTuber2016年パイオニアであるキズナアイが誕生、2017年末ごろから「VTuberブーム」が起き、数多くのVTuberが登場し、注目を集めたことから流行となり、現在に至るまでのカルチャーが形成された。

【画像】バーチャルYouTuberの象徴的な存在「キズナアイ」

 そんなVTuberたちの流行が始まって5年。2023年の現在、ひとたびコンビニに足を踏み入れれば、VTuberグッズプレゼントキャンペーンがおこなわれていたり、コラボ商品が並んでいることも珍しくない。店内放送に耳を傾ければ、にじさんじ所属・壱百万点原サロメが出演するヨーグルトのCMやホロライブ所属・星街すいせいアルバム告知がアナウンスされ、新宿や池袋などではファンによる推しの誕生日を記念したいわゆる「推し広告」が駅構内に掲示されるなど、気づけば生活の喧騒に紛れ込むような存在になっていた。

 世界にも目を向けてみよう。インドネシア発祥のVTuber事務所MAHA5」をはじめ、インドネシアフィリピンなど東南アジアでもVTuberが徐々に人気を獲得しつつある。ヨーロッパや北アメリカではVShojoホロライブEnglishが大人気で、配信プラットフォームの「Twitch」でVTuberタグは2022年ランキングにおいて上位を獲得している(参考:「VTubers break into Twitch’s top 5 as tag goes viral across 2022」)。中国、台湾では、「bilibili」などの配信プラットフォームで活動するVTuberが人気を博しており、特に台湾ではメロンブックスVTuberのパネルが設置されるほど流行している。

 さて、本稿はそんな流行から5年を迎えたVTuberを祝した特集企画「バーチャルの世界の狭間で」の第一弾にあたる。まずは本稿でなぜ「VTuber」がこれほどまでに世の中で広まったのか、その歴史を5つのポイントに絞って振り返ってみよう。

・“バーチャルYouTuberビッグバン” 生まれゆくVTuberたち

 2016年11月29日、「バーチャルYouTuber」を名乗るキズナアイYouTubeに動画を投稿し、登場した。実写が中心であったなかで、CGで描画された存在がYouTuberをする、さらにはそのキャラクターコミュニケーションが取れる。これまでにあまりなかった存在であり、当初は海外を中心に人気を博した。

 その後の2017年11月、当時活動を開始したばかりのミライアカリが、匿名の相手からキズナアイに間違われたという内容の動画がニコニコ動画に転載される。

 このミライアカリの動画をきっかけに、キズナアイに似た存在が次々と「バーチャルYouTuber」として“認定”をされ始めた。こうして、「バーチャルYouTuber」はキズナアイの代名詞から3Dのキャラクターアバター、活動者を示す単語に変化していき、それと共にVTuberは急激な流行を見せることとなる。

 いまでこそ、生放送を中心として活動するVTuberが数多く存在するが、この当時の「バーチャルYouTuber」が生放送を配信することは珍しく、動画の投稿が活動の中心だった。そして、なかでもキズナアイミライアカリ電脳少女シロ輝夜月ねこますバーチャルのじゃろり狐娘おじさん)を加えた5人は人気もあり、ファンコミュニティの間で「バーチャルYouTuber四天王」ともてはやされ、シーンアイコンとしての機能を果たした。

 5人なのに「四天王」と呼ばれていることを不思議に思うだろう。これには理由が諸説ある。そのひとつが「バーチャルYouTuber四天王」と呼ばれる人物に揺らぎがみられたことだ。筆者らが独自に調査した結果では、バーチャルYouTuber四天王と最初に呼ばれた組み合わせは、キズナアイミライアカリねこます藤崎由愛YUA)の4人だった。

 この後に輝夜月電脳少女シロが登場することで、この四天王に誰を入れるかバラツキが生じた。中でもキズナアイはいわゆる「殿堂入り枠」として入れるか、入れないかはファンの間で取り沙汰するものもおり、一定の議論に。2017年末には次第にこの5人が影響力をさらに増していたことから、「五人揃って四天王」が定着したとみられる。

 「バーチャルYouTuber」の略称としての「VTuber」が広まりはじめ、2018年に入ると新規VTuberが続々とデビュー。まだ数も少なかったVTuberは、誰か1人がデビューするたびに注目を集める状況にあった。

・“三次”から”二次”へ ライブ配信が中心に

 もしも、現在のSNSで「バーチャルYouTuberは3Dであるべきだ」「配信をするバーチャルYouTuberバーチャルYouTuberではない」と意見を唱えている人物を、見かけたらどう思うだろうか。おそらくVTuberを目にしたことのある人であれば「この人は何を言っているんだろう」と思うか、興味を示さないことだろう。なぜならば、現在のVTuberシーンにおいて、アバターに「Live2D」と呼ばれる2Dグラフィックモーフィングソフトウェアを利用して生配信をおこなうことは、ごく一般的な活動スタイルとなっているからだ。

 しかし、2018年初頭はそうした議論がTwitterハッシュタグ「#VTuber学会」 をはじめ、度々起こっていた。要因は他ならず、げんげん源元気)やにじさんじの出現にあった。

 げんげん2018年1月10日より活動を開始したVTuberだ。ファンから「世界線リセマラ男」という愛称で呼ばれるように、動画投稿をするたびに毎回異なる衣装や背景設定で登場し、“死亡フラグ”(※)を立て、そのフラグを回収する様子が人気となっていた。

(編注:「死亡フラグ」=映画や創作において、登場人物の死亡を予期させるお約束展開、その起こりを示すネットスラング

 その一方、げんげんは当時としては珍しい2Dアバターを使用しており、さらには数の少なかった男性VTuberという側面を持っていた。そのため、バーチャルYouTuberファンコミュニティの間では、げんげんバーチャルYouTuberであるか否か、ということについて賛否両論わかれていた。

 そして、Live2Dを利用するVTuberコミュニティが徐々に受け入れる決定打となったのが、VTuberグループにじさんじの登場にあったように思う。

 2018年2月7日にじさんじの一期生となる月ノ美兎YouTubeデビュー洗濯機の上にPCをおいて配信するなど、学級委員を務める女子高生というキャラクターからは連想できない、ギャップのある個性的な振る舞いが注目を集める。さらに、それらの活動をまとめた動画「10分間でわかる月ノ美兎」を投稿すると、瞬く間に多くのファンを獲得、その影響は月ノ美兎個人にとどまらず、にじさんじというグループ全体にまで波及した。

 もちろん、にじさんじに所属する他のメンバーも高いポテンシャルをもっており、事務所全体で人気を集めはじめる。後にはライブ配信をメインに活動するVTuberも登場し、そのスタイル一般化し始めたことで、VTuberによるライブ配信の台頭がはじまった。

ホロライブ台頭 そして海外へ波及

 さて、2018年から2019年頃にかけて2Dモデルライブ配信が台頭し始めたVTuberカルチャー。この時期には電脳少女シロが所属する.LIVEの「アイドル部」や、「バーチャル蟲毒」とも呼ばれ物議を醸したピクシブ・ツインプネットSHOWROOMによる「最強バーチャルタレントオーディション極」をはじめ、配信を中心としたVTuberが数多くデビューした。

 少し遅れて白上フブキを筆頭に、ホロライブVTuberグループとして人気を集めはじめ、2019年12月ホロライブ4期生が登場すると勢いを加速させた。

 少し遡ってその数か月前、当時大人気だった複数のVTuberグループが大規模な炎上とトラブルを起こしており、一部のVTuberファンコミュニティは危機に至っていた。こうした背景もあり、ホロライブに多くの視聴者が流れ込み、結果的にVTuberグループの人気番狂わせを起こしたのだ。

 そうしたシーンの移り変わりの中で、現在は卒業してしまったが、ホロライブ4期生に所属していた桐生ココが、バイリンガルであり英語が堪能である特技を活かし、海外ファンを獲得。また、桐生ココによる朝のライブ配信企画「あさココLIVE」は他のホロライブメンバーや海外のVTuberにまつわるエピソードの紹介を中心としており、グループ全体の人気を上げ、業界のけん引役となった。

 さらに、2020年に入るとホロライブの海外向けグループホロライブENが始動。日本向けの活動が中心だったホロライブの人気を海外にも広める確たる道筋が出来た形だ。中でも、EN1期生のがうる・ぐらの人気は急激な伸びを見せ、当時VTuber初となるチャンネル登録者数300万人を突破した。

 なお、海外との繋がりそのものでいえば、キズナアイが日本ではなく、韓国など海外を中心に人気になっていた時代もあるほか、電脳少女シロが英語で動画を投稿していたり、英語が堪能なVOMS Project天野ピカミィ、中国圏では神楽めあVTuberグループOverideaなど、本稿だけでは挙げきれないほど功績をもった人物やグループなどがいる。桐生ココだけがこの功績をあげたわけではなく、様々なバックグラウンドが現在のVTuberの国際化を促進させたことは補足しておこう。

新型コロナウイルス感染症の影響の“影と光”

 ホロライブ2019年下旬から2020年にかけて急激に人気を集める中、2020年に入ってからはVTuberシーンにとって“影と光”とも言える新型コロナウイルス感染症の存在があった。

 新型コロナウイルスが日本で急激に話題になり始めたのは、2020年2月初旬。日本国内においても感染者数が増え始めると、緊急事態宣言の発令、リモートワークの推奨など、不要不急の外出を避けることが推奨されるようになる。これにより、飲食店を始めさまざまな産業が停滞することとなる。ライブハウス映画館など、エンタメ業界も公演の中止や休館に追い込まれることとなり、大打撃を受けた。

 こうした影響は、VTuberの業界にも“影”を落とすこととなる。収録スタジオ使用が難しくなったことで、動画の撮影や3D技術を用いた配信ができなくなり、音楽業界の例に漏れずイベントの開催を断念することが増え、主役たるVTuber自身が新型コロナウイルスに感染することも少なくなかった。

 この事態に、各VTuberや運営を担うスタッフ創意工夫によって難局を乗り越える方策を考え、対応してきた。

 まずイベント分野では、「ネットおしゃべりフェス」などZoomを取り入れたファン交流リモートイベント、「SPWN」や「Z-aN」をはじめとした有料ライブのチケット制配信を中心にしたプラットフォームを活用し、現地に赴かなくともオンラインイベントライブを楽しめるようになった。

 また一方で、外出を控える人々の巣ごもり需要による、YouTube視聴者数の爆発的な増加がシーンにスポットを当てる“光”となった側面もある。前述したホロライブの大幅な躍進はこの新型コロナウイルスが流行を始めて以降の時期ともかぶっており、それだけでなくVTuberシーン全体の認知拡大、視聴数やチャンネル登録者数の増加にあたっては、この影響も大きいだろう。
〈参考:「進化を続ける「VTuberビジネス、今どうなってるか知ってる?」〉

VTuberの現在地

 さて、最後に少しだけVTuberの現在について触れていこうと思う。

 個人VTuberピーナッツくんと、にじさんじ所属・剣持刀也2018年から継続しておこなっている生配信企画「刀ピークリスマス」。この企画のなかで、ピーナッツくん剣持刀也へ捧げる曲として公開した「刀ピークリスマス2022」はTikTokを中心に流行したことで10~20代に知れ渡り、他方ではホロライブ所属・星街すいせいVTuberとしてはじめて「THE FIRST TAKE」に出演。2022年5月にデビューしたにじさんじ所属・壱百満天原サロメが登場から短い期間でYouTubeチャンネル登録者100万人を記録するなど、爆発的な“バズ”を記録すると、その後ヤクルトヨーグルトCMに起用。さまざまなVTuberシーンの内外において活躍の場を広げており、その存在が一般層に知られる機会を増やしつつある。

 また、新型コロナウイルス感染症感染者数は記事公開現在で下降傾向にある。そのため、日本ではアフターコロナに向けたさまざまな動きが進行し始めている。

 たとえば、1月28日開催された星街すいせい2ndワンマンライブShout in Crisis』を皮切りに、VTuberライブの一部で現地での声だしが解禁。『hololive 4th fes. Our Bright Parade』や、MonsterZ MATE『大騒動』では初めてライブでのコールレスポンスに向けて、ファン向けに練習動画が投稿されていた。

 現地でのイベントを開催しやすい環境を取り戻しつつあり、新型コロナウイルス感染症によって約3年もの間防がれてきたさまざまなことが、ようやく完全再開へ向かい始めている。

 にじさんじを運営するANYCOLOR社、ホロライブプロダクションを運営するカバー社、この大手2社の上場や各企業の体制強化も盛んだ。タレント側にしても、業界の習慣的にこれまで見られなかった大手VTuber事務所間での移籍など、業界そのものの体質変化も始まっており、今後はいちエンターテインメント産業として、さらにビジネス的な側面が強くなる可能性があるだろう。

 ここまでは、VTuberシーンの歴史において重要なターニングポイントを5つに絞って解説してきた。文字数の都合上、内容をかなり省いており、前後する箇所もあったが、その点についてはご了承願いたい。VTuberコミュニティや業界は時に暗い話題によって、その先行きを不安視されることもあった。しかし、そうした出来事は業界に変革をもたらすきっかけにもなってきた。この記事を通して、少しでも過去のVTuberシーンが流行した背景に興味をもっていただければ幸いだ。
(文=古月)

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